ガートナージャパンは5月24日~25日、年次イベント「ガートナー ビジネス・インテリジェンス、アナリティクス&情報活用 サミット2016」を開催。ガートナーのアナリスト陣によるセッションの数々に加え、データ分析・活用に取り組む企業の事例紹介やラウンドテーブルなどが実施された。ここでは、同社のリサーチ マネージング バイス プレジデント 堀内秀明氏が、データ分析によってビジネス上の成果を得るために押さえるべきポイントを事例を交えて解説したセッション「データ分析をビジネスにつなげる組織の実際」のもようをお届けする。

データ分析で廃棄ロス極小化を目指す回転寿司チェーン

ガートナージャパン リサーチ マネージング バイス プレジデント 堀内秀明氏

ガートナージャパン リサーチ マネージング バイス プレジデント 堀内秀明氏

BI・アナリティクスに関する新たなツールやサービスが、続々と市場に登場している。一見、容易にデータから価値を得られるようになったかのように感じられるが、一方でデータ分析スキルの不足や目的の不明確さにより、思うように成果が出ないという声も多いのが実情だ。

こうした背景を踏まえ、堀内氏はデータ分析によって一定の成果を上げている企業の事例と、そこからITリーダーが参考にすべきポイントをピックアップして紹介した。

まず最初に挙げられたのは、国内外に回転寿司チェーン「無添くら寿司」を展開するくらコーポレーションの事例だ。回転寿司はその性質上、調理されてからすぐに客の口に入るとは限らない。そのため、ある程度時間が経過したら回転レーンから外すことで、一定以上の安全性と味を保つのが一般的なやり方だろう。ただし、レーンから外された分は廃棄となるため、相応のコストがかかることになり、それは商品の値段に跳ね返る。”安くて美味しい”を実現するには、徹底的に廃棄を減らす施策が必要になるのだ。

これを実現するために、くらコーポレーションでは来店した客が大人か子供かを判別するとともに、来店からの経過時間を3段階に分ける施策を実施している。子供が多ければ子供が好みそうなハンバーグ巻やわさび抜きの寿司を多めに出し、来店時間の短い大人が多ければ、マグロやハマチといった人気ネタを出すといった具合だ。

こうした施策を徹底するために、店舗からは日次で売上実績と廃棄分のデータを本社の数値管理部に送る。数値管理部はデータを分析してスーパーバイザーに渡し、スーパーバイザーはそれを元に店長会議で各店長に指導する。

「現場に徹底してもらいたいことがはっきりしているので、そのために必要なデータを収集・分析してフィードバックするという流れになっています。見るべきデータを収集し、経営目線でアドバイスする使い方の事例だと言えるでしょう」(堀内氏)

経験や勘に頼らない! データに基づく需要予測

次に堀内氏は、アサヒビールのデジタル戦略部が展開する新商品需要予測の取り組みを挙げた。同部は数年前に経営企画本部内に設置された部署であり、ITを利用した全体最適の追求を目的とする。そのテーマとして、新商品の需要予測がピックアップされた。

通年で販売されている通常のビールに関しては、すでに実運用で活用できるレベルの需要予測が存在する。だが、期間限定の商品や発泡酒などは比較的短い間隔で次々に新商品が出荷されるため、売上予測が立てづらく、流通在庫の適正化が困難になっていた。

そこでデジタル戦略部では、まず、売り上げや出荷のデータをデータ・ディスカバリ・ツールに取り込み、過去の類似商品の実績と比較した。結果として、ビール類新商品の流通在庫の量を過去の類似商品よりも大幅に減らすことができたのだという。しかし、ここで新たな課題が生まれた。類似商品と似た流れで売れている場合は良いのだが、商品は似ているのに売れ方が異なる場合、理由がわからないのだ。

そこで活用されたのが、NECの異種混合学習技術である。”根拠のある需要予測”を実現する同技術は、小売業の事例も多く、需給分析のノウハウを持っていた。そこで新たに気象データやカレンダー情報、商品の特性情報なども取り込んで予測を行ったところ、良好な成果が得られるようになった。

ただし、突発的な需要減が予測できないケースも発生した。その時点では仮説として、競合他社が類似商品を市場投入したためだと考えられたが、それが本当かどうかはこれから検証していくところだという。

「個人の経験や勘だけに頼らない、より質の高い需要予測を高頻度で実施するために、データとアルゴリズムを活用した取り組みを始め、一部成果が出始めている事例になります」(堀内氏)

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