マイナビニュースマイナビ

台湾のIT担当大臣 オードリー・タン氏が示す、イノベーションのあり方

[2021/03/15 16:00]岩井 健太 ブックマーク ブックマーク

世代を超えた共創、世代間の連帯が高齢化社会の1つのカギ

—日本はその目標に向けて今から何をすべきか、デジタル戦略の視点で意見をお聞かせください。

タン氏:冒頭にも話したようにデジタルソーシャルイノベーションでは「素早く」「公平に」「楽しく」という3本柱があります。最初の回答で、迅速な繰り返しの重要性を話しました。しかし、公平さも強調すべきです。社会プロジェクトや気候変動対策などの環境面で貢献した場合、それが公平に評価されることです。そして楽しみがあると、人の行動は変わります。

環境に良いからだけでなく楽しいからやる、という側面も大切なのです。例えば、自分の行動の気候への影響をビジュアルとし、その一例が近くの給水スポットを探せる日本発の給水アプリ「マイミズ」です。このアイデアを台湾の社会貢献企業が導入しており、ポケモンGoのようなゲームに変えたのです。

新しいペットボトルの水でなく、給水ステーションで水を入れてチェックインすれば、コインを集めてミッションを達成したり、同じ関心のある人と給水ステーションについて話したり、リアルタイムに算出された地域の熱中症注意情報も受け取れます。

気温や風向き、風速などをもとに、高リスクグループに情報が届きます。自分の健康だけでなく、社会の健全性になり、社会的ミッションとして楽しめるのです。そうすれば、月に1~2回しか給水していなかった人がペットボトルを買わなくなるのです。循環型経済やカーボンニュートラルを包括的に推進するには、さまざまな仕組みが必要となり、経済面では二酸化酸素取引や炭素税などです。

そして、多様な人を受け入れる仕組みも重要です。ポケモンGoのようなゲームとマイミズのようなアイデアを融合させる考えが出れば、環境持続可能性に向けて人々の行動を変えることができるでしょう。

—日本はデジタル化で深刻な人材不足ですが、次世代の未来を創るために、どのような活動をしていますか。

タン氏:深い知識を習得するには、目的を明確にした学習が重要です。社会が助け合い、集団的に知識を得ていく方法でのみ気候変動や誤情報拡散、感染拡大など、世界を取り巻く構造的な問題の全体像が見えてきます。

この共通の目的を実現すると同時に、共通の問題を解決する際は誰1人として取り残されてはなりません。台湾では高校や大学の女子生徒向けに、サイバーセキュリティ分野への参加を呼びかける短い動画を作りました。動画の中でコーディングしている時にコンピュータは性別を聞いてこない、と伝えました。コンピュータは性別を気にしないのです。性別が運命を決めるものではない、という高い受容性のメッセージがとても大切だと思うのです。

もう1つの例は、台湾ではコロナ禍でも科学技術に貢献できる可能性のある人の入国を許可しています。科学や技術で貢献できる可能性のある人は、所得や表彰歴にかかわらず共通の目的のために台湾に滞在したいと望む人は、誰でも受け入れています。

もちろん、世界で在宅勤務が実施されているので、現在の所属先から仕事をすることもできます。つまり、台湾への投資や職場を探さなくても、グローバル規模の問題、共通の目的に取り組むために時間を投資してくれる人であれば、ぜひ来てください。ゴールドカードで医療やあらゆるサービスを享受できます。

個々の競争によってではなく多様性や受容性を重視して育成するのです。世界の多様な文化から生まれる新鮮な視点があれば、社会全体が進化するためのイノベーションの仕組みを発見でき、経済や環境、社会を持続させることが可能です。

—国外からの人材登用は、日本の将来に不可欠です。高齢化社会について、アジアや世界各国が将来活用できるロールモデルを日本が提示できるようにするには、何をすればいいでしょうか。

タン氏:台湾も平均寿命が80歳で高齢化が進んでいる一方で、昨年は25万人以上が海外から帰国しました。さらに、ゴールドカード制度で台湾に来て、3年居住する人も増えています。社会貢献しながら、滞在期間を延長することもできます。

タン氏

タン氏

世界のどこかで在宅勤務をしている場合もあり、ここで大切なことは高齢者の経済参画や若手人材の国内流入だけでなく、若者と高齢者が有意義に共創し、市民として参加していくことです。台湾の市民参加型プラットフォーム「gov.tw」で最も活発なグループは7歳~17歳、そして65歳以上です。

特に17歳と70歳が最も活発に活動しており、彼らは長期的な持続可能性をより重視し、公共政策や参加型予算、社会問題について考える時間の余裕もあるのでしょう。この2つの年齢層が連帯感を持ち、社会の共通善のためにお互いの長期的視点で協力する、それが最も重要です。

マスク配布など、私が話した政策は個人的に88歳の祖母にアドバイスを求めます。祖母は地域の年下の友人とよく交流しています。彼女たちは集団で英智を持っていて、私たちが考えつかない方法で、新しい技術のイノベーションを社会に浸透させる方法を考え出します。

そこが日本と台湾の共通点です。私たちは、人を技術に合わせるのではなく、技術を人の近くに持っていこうとしているのです。世代を超えた共創、世代間の連帯こそが高齢化社会の1つのカギです。

ソーシャルイノベーションの裏にある重要なアイデア

—複数のプロジェクトを担当する中で予算は限られ、方向性も一致しないとき、どのように意思決定をしていますか?

タン氏:さまざまな省庁や部門で方向性が対立した時、私は全員の味方になります。つまり、皆の意見を傾聴し、その論拠が理解できない時には仕事を数日休んで、意見の持ち主と話をして意見の持ち主の視点で議論できるまでにします。

全員の味方になって、毎晩十分な睡眠をとります。8時間の睡眠をとった健康な状態で、あらゆる立場の意見が共通の価値観に融合されるようにします。複数のプロジェクトをこなすために最も重要なことは共通の価値観に向かっているのか、なのです。

どの部署も省庁、機関も作業をそれぞれ完了させ、オープンイノベーションとして皆と共有すれば他の人も問題をパズルのように解決できるようになります。もし方向性が異なり、結果を得られないと利害関係者ごとの動きが、打ち消されてしまいます。全員の意見を取り入れ、共通の価値を見出し、誰の状況も悪化しない新しい方法をイノベートする、それが主要な資質です。

私の仕事は、政府の予算に限定されるものではありません。むしろ、国家主体のイノベーションの上に、社会と民間がイノベーションを起こせるようにすることなのです。例えば、マスク配布システムはオープンAPIベースで個別の分析や優れた配布システムを市民が構築できるほか、大手コンビニから発注するシステムもできました。コンビニなら、薬局を利用できなかった人も対象になります。

薬局と違い、コンビニは24時間営業のためオープンにすることで市民主導型になり、さらには民間主導型のイノベーションが起き、市民と民間の協業でソーシャルイノベーションを実現できます。政府の予算に限定されたトップダウンではなく、地元のニーズに対応できます。人々のためではなく「人々とともに」がソーシャルイノベーションの裏にある重要なアイデアなのです。

—どのような方とともに仕事をしていますか?

タン氏:私を漢字や日本語、英語の名前で呼んでくれる人なら誰とでも付き合います。Twitterなどで私の名前をメンションしてくれて、話の内容が分かり、貢献できると思えば、参加します。基本的にフィルターは設けておらず、#taiwancanhelpやSDGsなど、私の名前や仕事の内容のハッシュタグがあれば、対応します。オフィスには、ソーシャルイノベーションに関連する省庁からの出向者がいます。

全員ボランティアですが、全省庁から出向しているわけではありません。例えば国防部からは、私が重視する急進的な透明性のせいか、誰もいません。しかし、衛生福利部や外交部、教育部、国家通訊伝播委員会、経済部、法務部などからの出向者がいます。私のところで働く人には、次のことをお願いしています。

コラボレーションをして、可能な限り貢献し、学びを持ち帰ること。最も重要なのは、どんな問題でもいいので、新鮮な視点を提供することです。他の出向者が持っていない新鮮な視点であるため、1つの省庁からの出向者は1人のみです。新しい状況で、すべての立場を包括的に見られる視点が求められます。したがって、インターネットにかかわる人たちと、まず交流しています。

そして、多様性があり、モチベーションを持ち、可能な限り他人と共有しようとする人たちです。イノベーション担当を採用する場合、人事の原則を拠り所にしながらも、新しい視点を持ち、コラボレーションができ、新しいアイデアを喜んで、チームや市民の誰とでも共有する人材をおすすめします。

—最後に、将来に向けて見ておくべき、または構築すべきデジタル技術のトレンドを教えてください。

タン氏:将来を予想するより、将来そのものになりましょう。ITはマシン同士をつなぎますが、デジタルは人間をつなぎます。マシン同士のつながりから、人間同士のつながりで将来を見て、私たちを通して将来が到来するように方向性を示すことが私の仕事です。

モノのインターネットではなく、存在のインターネット、仮想現実ではなく、共有型の現実を作りましょう。機械学習は協働学習にしましょう。ユーザエクスペリエンスは、人のエクスペリエンスに変えましょう。シンギュラリティが近いと聞いたら、プルーラリティ(複数性)はここに存在することを思い出しましょう。

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

もっと知りたい!こちらもオススメ

データのサイロ化からの脱却がビジネス成功のカギ - NetApp INSIGHT Japan

データのサイロ化からの脱却がビジネス成功のカギ - NetApp INSIGHT Japan

ネットアップはこのほど、オンラインカンファレンス「NetApp INSIGHT Japan」を開催した。

関連リンク

この記事に興味を持ったら"いいね!"を Click
Facebook で TECH+ の人気記事をお届けします
注目の特集/連載
[解説動画] Googleアナリティクス分析&活用講座 - Webサイト改善の正しい考え方
Slackで始める新しいオフィス様式
Google Workspaceをビジネスで活用する
人生を豊かにするパラレルキャリア~VUCA時代に新しい生き方を選ぶ理由とは~
ニューノーマル時代のオウンドメディア戦略
ミッションステートメント
次世代YouTubeクリエイターの成長戦略
IoTでできることを見つけるための発想トレーニング
教えてカナコさん! これならわかるAI入門
AWSではじめる機械学習 ~サービスを知り、実装を学ぶ~
Kubernetes入門
SAFeでつくる「DXに強い組織」~企業の課題を解決する13のアプローチ~
マイクロサービス時代に活きるフレームワーク Spring WebFlux入門
AWSで作るマイクロサービス
マイナビニュース スペシャルセミナー 講演レポート/当日講演資料 まとめ
セキュリティアワード特設ページ

一覧はこちら

今注目のIT用語の意味を事典でチェック!

一覧はこちら

会員登録(無料)

ページの先頭に戻る