日本データマネジメント・コンソーシアムは3月7日、今年で7回目を迎えるカンファレンスイベント「データマネジメント2018 ~データが拓く無限の可能性~」を開催した。その中から本記事では、エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO 天沼聡氏が登壇した「洋服のシェアリング事業を支える顧客を中心に置いた”データ経営”とは?」についてご紹介する。

“感動する洋服との新たな出会い”を実現

エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO 天沼聡氏

同社は、主にオンラインでのファッションレンタルサービス「airCloset」、表参道にエイブルと協業したリアルレンタルショップを置く「airCloset×ABLE」、スタイリングサービス「pickss - ピックス -」を展開するスタートアップ企業。「airCloset」は国内最大級のファッションレンタルプラットフォームとして3年前にサービスを開始している。ファッションのレンタルといえばウェディングドレスや貸衣装、着物などが想起されるが、本サービスは普段着に特化しているのが特徴だ。

ファッションレンタルサービス「airCloset」

「元々はライフスタイルの中でデータを活用し、モノとヒトとの新しいマッチングができたらいいなと考えたのがサービスを作り始めたきっかけです」と天沼氏。環境が変化し、ゆっくりファッションを楽しむのが難しくなった女性へ感動する洋服との出会いを届けることを主目的とし、その精度をデータの力を使って高めるというのだ。

「airCloset」ではユーザーがファッションの好み、サイズ、悩みなどをオンラインで登録し、この個人カルテに合わせてスタイリストが選んだファッションを郵送。返却期限の設定はなくクリーニングも不要、気に入れば購入も可能となっており、返送すればまた別のボックスが届くという月額制のサブスクリプション型で提供している。

メイン利用者は30代半ばを中心に20代後半~40代で、登録会員数は15万人強(無料会員を含む)にのぼる。「このうち働く女性が9割以上、ママさんは4割以上となっています。忙しい生活の中で洋服と出会う時間のないお客様が、日々の生活の中で新しいファッションの出会いとして楽しんでくださっています」と天沼氏。

「そもそも、何故これまでこうしたサービスがなかったのでしょうか。大きくはIT、データ活用にあると思います」と続け、同社ではスタイリストとクラウドソーシングの形を取り、ICTを活用したデータ連携で倉庫での個品管理を実施。アナログでは不可能だった部分へITを導入し、最大限に活用したことで初めてサービスが実現可能になったのだ。

ITを最大限に活用し、アナログでは不可能だったサービスを実現

「ファッションやアパレル業界はまだまだITの利活用が進んでいなくて、データの活用もほとんどされていない。例えば試着をして、色味がもう少し明るかったら自分に似合うのになと内心思ったとか、販売員に話したとか、そうしたデータはどこにも蓄積されませんでした」と話す天沼氏。

「airCloset」で実際に着用したユーザーからのフィードバックをデータとして蓄積していくことで、個人の趣味嗜好やトレンドの把握、スタイリストとのマッチングに活用できると考えている。

しかし、すべてをAIやデータで解決したいと考えているわけではない。「ベースの考え方としてはデジタルとアナログのハイブリッドだと思っていて、スタイリストが手掛けるところとITがサポートできるところを見極め、ビジネスの中で活かしていきたい」と語る。

テクノロジーとアナログのハイブリッドでサービスの価値向上を目指す

データの活用はサービスだけではなく、社内でも行われている。天沼氏は「スタイリストとディスカッションをしていくと感覚で語られてしまい、それではユーザーにとって本当に合う洋服かわからない。出来るだけデータを仲介し、データを共通言語として話していけるようにしています」と説明。BIツール「Domo」を導入し、社内の意思決定や情報共有に活用している。

「データは難しく魅力的ですから、データを見始めると、データを見ることが目的になってしまいがちなんです。メンバーには仮説思考を徹底していて、どのような仮説なのか、何をやりたいのか、何日後にどのデータを見てどうだったらOK、どうだったら悪いなのか、そこまでのストーリーを聞くことにしています」と天沼氏。カード作成は完全担当者制で、KPIではなく主に仮説検証へ使用という体制を整えている。

BIツールをメンバーの仮説検証や情報共有に利用

同社はスタートアップ企業として資金を調達し、サービスに投資をして高めていくという経営手法を取っている。

「スタートアップにありがちなのが、株主の皆さんへの説明にすごく時間を取られることなんです。我々がやるべきなのは事業への集中で、それが株主の皆さんにとってもメリットになる。そこで、KPIのカードを全部共有させてもらっています」と天沼氏は説明し、株主への説明資料を一切作らずにリアルタイムで共有する経営資料の扱い方を紹介。

システム構築も完全内製化し、ユーザーのために1分1秒でも早くリリースできるような環境を作り上げている。

「情報でいえば1日に数千万というコンテンツが生まれていて、限られた時間の中で自分の人生にとって大事なものを取捨選択するのは到底不可能です。モノにも同じことが言えて、個人で探せる範囲以外での機会損失は圧倒的に多い。私たちはデータの力を使い、ファッションとの新しい出会い方を提供できるのではと考えています」と天沼氏は語り、顧客のデータをもとにして消費行動を予測し、事業の最適化をする「Digital Fashion Consumption」の実現を目指している。

「Digital Fashion Consumption」の実現を目指す

消費行動、ユーザーの考え方、価値観までがマスからパーソナルに変わりつつあり、金銭的な価値よりも時間価値や体験が重視される時代に、個々人に対してどのようなサービス・価値を提供していけばいいのか。

天沼氏はデジタルとアナログでの活動両面を目的重視で考えており、「例えば店舗もeコマースも、お客様とのコミュニケーション接点という概念では同じ目的を持っています。それをいたずらに分けて考えるのではなく一つの考え方として、主目的に対しテクノロジーとアナログのハイブリッドで臨んでいきたいと考えています」と語る。

最後にデータとはかけ離れた経営哲学としながら、チームや組織が何を実現しようとしているのか、マインドセットも非常に重要だと締めくくった。