初めての不動産売却の場合に、仲介業者への依頼の段階で、特に悩みやすいのが「媒介契約の選択」だと言われています。媒介契約の違い、それは一言でいえば「仲介内容についての制約の違い」なのですが、普段あまり聞き馴染みのない専門用語が登場すれば、誰でも戸惑ってしまうのは仕方のないことです。
仲介を依頼された不動産会社は、依頼者との媒介契約の締結が法的に義務付けられています。
依頼物件の売却条件や契約締結による成功報酬などを明確化する目的もあるため、締結には依頼者の了承はもちろんのこと、契約内容の事前理解が必要不可欠です。
そんな媒介契約の中でも「専任媒介契約」は、プロへの依頼と同時進行で、自分で買い手を探すことも出来るメリットが魅力の契約形態となっています。媒介契約の選択にあたり、どれくらい自分に有利となる契約であるのか、その具体的なメリットについてしっかりと理解を深めておきましょう。
専任媒介契約とは
「専任媒介契約」とは、不動産仲介会社に物件売買を依頼する際に締結する媒介契約形態の1種です。
この媒介契約は全部で3形態となっており、専任媒介契約の他に、制約が少ない「一般媒介契約」と、完全にプロへ売買を任せる「専属専任媒介契約」があります。
専任媒介契約は媒介契約のうちでもっとも中間的な制約内容であり、以下のような特徴があります。
- 不動産仲介会社は1社のみ契約可能
- 積極的に販売販促に尽力してくれる
- 契約期間中の自己発見取引も可能
- 2週間に1回、売主へ報告書が送られてくる
- 7日以内にレインズへ登録される
それぞれの項目で、その特徴が他形態とはどのように異なるのかを詳しく見ていきましょう。
契約できる会社数は1社だけ
専任媒介契約では、契約できる不動産仲介会社の数は1社のみとなっています。
もし他の会社と契約した場合は違約金が発生してしまうため、契約を依頼する不動産仲介会社に関しては、事前にしっかりと精査する必要があります。
不動産売却に関する情報収集の傍らで、無料で気軽に頼みやすい一括査定サイトなどを利用して、複数の中から実際に話して感触の良かった業者を選ぶなど、あからじめ絞り込んでから慎重に契約するのがおすすめです。
仲介業者が広告などの販促に力を入れてくれる
不動産仲介会社の主な収入源は、売買成立の成功報酬である仲介手数料です。
たとえば複数業者との契約が可能である一般媒介契約では、同業他社のライバルが同じ物件を取り扱うことで、売買成立率が低くなる可能性があります。他物件に比べて仲介手数料の確保へとつながりにくい点から、積極的な販促がおこなわれないといったケースも考えられます。
しかし専任媒介契約であれば、契約が1社のみに限られていることから、成約できれば確実に仲介手数料を確保することができるメリットが働き、仲介のプロである不動産会社による熱心な販売販促が期待できます。そしてその結果、契約期間中に成約が出来る可能性も高まります。
自分で買手を見つけることもできる
売主自らが買い手を見つけることを、「自己発見取引」もしくは「個人間売買」と呼びます。
もし媒介契約期間中であっても、専任媒介契約であれば個人間での売買契約を結ぶことが可能です。直接話し合いをおこなうことができるため金額交渉などもスムーズで、もし成立には至らないケースであっても話が進みやすいのはメリットのひとつです。
専任媒介契約の場合、個人間であれば仲介手数料は発生しないものの、仲介会社から販促活動のために使用された営業経費を請求されることがありますので、事前に把握しておきましょう。
自己発見取引は、一般媒介契約および専属専任媒介契約でも可能ではありますが、専属専任媒介契約のみ、個人間でも仲介業者を通さなければならず、仲介手数料を払う必要があります。
現状報告の義務は2週間に1回以上
現状報告とは、仲介を依頼された不動産業者が売主に対しておこなう物件の販売状況報告(営業活動報告書)のことです。特に報告書に形式がないため、契約内容や不動産仲介会社ごとに掲載される内容は異なります。
自分で問い合わせをおこなう必要がある一般媒介契約と違い、専任媒介契約および専属専任媒介契約では、売主への現状報告が法的に義務化されています。
そしてその期間は2週間に1回以上と定められており、電話やFAX、または書面やメールなどで売主のもとへ送られてきます。送付形式は媒介契約書内で指定が可能なため、管理がしやすい書面での受け取り選択がおすすめです。
レインズへの登録は7日以内に行われる
レインズ(REINS)とは不動産流通標準情報システムの略称です。国土交通省が定めた全国4箇所(東日本・中部・近畿・西日本)でエリアごとの運営がされており、加盟している不動産仲介会社であれば、最新の物件情報をオンラインでいつでも検索・閲覧することが出来ます。
専任媒介契約の場合、媒介契約締結後7日以内に、依頼された物件情報をレインズのデータベースに登録する義務があります。全国規模で物件情報が登録することできるため、ほかの不動産仲介会社で買主が見つけやすくなったり、物件に関する問い合わせの増加などが期待出来ます。
このレインズでの登録が義務付けられているのは、専任媒介契約と専属専任媒介契約のみであり、一般媒介契約では希望しない限り登録されないのもポイントといえるでしょう。
専任媒介契約のメリット
専任媒介契約は、一般媒介契約および専属専任におけるそれぞれの良いところを集約した契約であるといった見方もできます。それぞれのメリットが依頼者に対してどのように働くのか、詳しく解説していきます。
比較的早く売れやすい
まずはじめに、1社のみ契約可能である専任媒介契約の特徴についてさらに注目してみましょう。不動産仲介会社の立場からすれば、その依頼された物件は「自社が優先して預かっている商品」です。
それはより物件を魅力的にアピールできるひとつの強みであり、売買成立の確率が高いと判断されやすいでしょう。そのため熱心にチラシや広告を打つなどの販促活動がおこなわれ、結果的に買主が早く見つかる可能性が高まるといえます。
そして一般媒介契約とは違い、複数の業者と連絡を取り合う必要はありません。
窓口は契約締結をした仲介業者1社のみとなるため、窓口が一本化されることでスムーズな売却を目指せるほか、内覧のスケジュールを調整する時に起こりやすい販売機会のロスを防ぐことが出来ます。
さらに注目すべき特徴は、契約上で登録義務のある全国規模で展開されているレインズの存在です。
全国の不動産業者の目に触れる機会が増えれば増えるほど、物件が周知されることとなり、問い合わせや紹介によって早期売却の可能性につながりやすくなるのです。専任媒介契約は、販促にあまり詳しくない素人といえる個人売主の場合は特に、メリットが大きい媒介契約形態であるといえるでしょう。
販売状況の把握がしやすい
- 販促内容の活動詳細
- 物件への問い合わせの有無
- 内覧の申込数
- 実際の内覧者の反応
上記の内容を含む営業報告書が一定のペースで届くため、物件の販売状況を事細かに把握することが出来るのは、実際とても便利です。特に2週間に1回以上の義務を超えて、こまめに報告してくれる業者は、誠意を持って熱心に販促をしてくれているのが伝わってきますよね。
依頼者にも生活がある以上、片手間に詳しい物件売却の営業報告が送られてくることはメリットのひとつです。
そしてその内容をキチンと依頼者側でも精査することで、前回とあまり変わらなければどのように改善をすべきかなどの問題も見つけやすく、営業報告書をもとに、仲介会社と今後のアピール方法を含んだ計画を練る材料のひとつにもなるため、売買成立への近道につながりやすくなるといえます。
自由に買主を見つけることもできる
売主が個人的に買主を見つけることは正直難しいため、それってメリットなの?と不思議に感じる人も多いかもしれません。そもそも、もしすぐに見つけられるようであれば、わざわざ仲介会社に依頼などしないでしょう。しかし、知人が引越しなどを考えていたりと、身近に買い手が生まれる可能性が決して無いとも言い切れませんよね。
個人で買主を見つけることは難しく、実際に取引されるのは稀なことであります。とはいえ、その権利が認められていなかったら、その機会がもし訪れたときに後悔することになるかもしれません。
自己発見取引は他の媒介契約でもその権利がありますが、なぜ自己発見取引の可能性を考えたときに、専任媒介契約にメリットがあるといえるのでしょうか?その理由として以下、契約ごとの当取引におけるデメリットをまとめました。
- 一般媒介契約の場合
よほど条件の良い物件でない限り、契約可能な複数業者の存在が懸念されてしまい、仲介を依頼した業者による積極的な販促活動がされないケースがある。前もって取引の可能性がない限り、自己発見取引による売買成立は難しいことであり、業者の管理をする必要もある売主の負担が増えやすいため。 - 専属専任媒介契約の場合
自己発見取引であっても、売買には媒介依頼をしている仲介会社を通す必要があり、メリットとなりやすい仲介手数料を節約することは出来ないため。
専任媒介契約は仲介会社による熱心な販促活動がされやすく、自己発見取引であれば仲介手数料を払う必要はありません。他2形態のデメリットを踏まえれば、自己発見取引であっても専任媒介契約の選択がおすすめです。
専任媒介契約のデメリット
一般媒介契約に比べると、専任媒介契約および専属専任媒介契約は、仲介会社からの拘束力がやや強い契約形態となっています。それにともなうデメリットにはどんなものがあるのか、それぞれ詳しく解説していきます。
不動産会社の力量に左右されやすい
専任媒介契約では、一般媒介契約とは異なり、複数の仲介会社と媒介契約をすることは出来ません。
その物件を高く売却できるか、そもそも売買成立までもっていくことが出来るかどうかは、プロとはいえ、選んだ不動産会社次第になってしまうのです。
例えば成約の可能性が非常に高い内覧の申込が多いのに、なかなか成果として結びつかない場合。もしかすると立ち会った営業担当が、物件の魅力を伝えきれていないのかもしれません。掲載されている写真が、実際の物件と比較すると違和感を覚えるような撮られ方をされている可能性もあるでしょう。
2週間に1回以上の報告が義務とされている営業報告書からも不動産会社の熱量は読み取ることが出来ますので、しっかりと活用しましょう。
契約をする前に、無料の一括査定サイトを利用して複数の営業担当と対面をはかり、業界のリアルな声や、査定の段階でも熱心にアドバイスをしてくれるかどうかなど、あらかじめ自分の中で「信頼の指標」を作っておくと良いでしょう。複数社を比較し、その目で見極めることは、選べる立場である依頼者の特権です。
両手取引を狙って囲い込みをする業者もいる
仲介手数料の支払いを確実なものとするため、物件情報を故意に独占し、自社での成約を目指す行為を囲い込みと呼びます。レインズで登録されている物件に問い合わせがあっても「売り止めである」「もう契約の予定がある」などのうそをつき、物件の紹介を断ることで、売主には以下のようなデメリットが発生してしまいます。
- 結果的に販売の機会を多く失う
- 売却期間が延びるほど、買主にマイナスイメージを持たれやすい
成功報酬である仲介手数料には、片手取引(売主と買主がそれぞれ別の仲介業者である場合)と両手取引(売主と買主が同じ仲介業者である場合)の2種類があり、囲い込みをする業者の狙いは「両手取引による仲介手数料」です。
売主と買主が同じ業者であれば、それぞれから仲介手数料が支払われることになり、その業者が得る仲介手数料が2倍となるわけです。売主自身が囲い込みに気づくことは難しいとされており、契約が1社しか出来ない専任媒介契約と専属専任媒介契約は、この囲い込みに遭う可能性が高いと言われています。
専任媒介契約がおすすめな人は
売却したい物件の状態や条件は、媒介契約を選択するのにとても有効な判断材料になります。ではどのようなケースであれば、専任媒介契約がおすすめといえるのでしょうか?それぞれについて詳しく見ていきましょう。
媒介契約の選択に迷っている人
一般契約・専任媒介契約・専属専任媒介契約の3つの特徴を見比べても、それでもまだ迷ってしまう…そのような場合には、契約の中でも、その内容がもっとも中間的である専任媒介契約を選ぶのが良いでしょう。
契約は1社のみとしか結ぶことができませんが、売買成立による仲介手数料の獲得が狙いやすいことで、仲介会社が売却による販促活動を熱心におこなってくれます。その結果、依頼者の希望額に近い金額で売却できる可能性があります。
実生活が多忙な場合、問い合わせずともその販売状況の報告が一定のペースで届くことも大きなメリットです。
郊外の不動産やあまり人気のない不動産を売却したい人
郊外の不動産であったり、条件的にあまり人気とはいえない不動産を売却したい場合には、プロである不動産仲介業者の力を存分に借りることが出来る専任媒介契約の選択がおすすめです。
最近では都会の騒がしさから離れた静かな空間であったり、またはスローライフを求めて、あえての郊外移住を選ぶ人もいますが、それはまだ極少数です。郊外の不動産は人気エリアに比べれば問い合わせも少なく、個人で買主を見つけるハードルもさらに高いものとなります。
不動産売買に関するノウハウを持っている営業担当と相談しながら、物件のアピールの仕方を模索するなど、堅実な販促活動をおこなっていくのが良いでしょう。
専任媒介契約に関するQ&A
不動産売却には大きな金額と時間を要する以上、契約に関する疑問は出来るだけ解決したいところですよね。あらかじめ少し知識を取り入れることで、仲介会社とのトラブルを回避出来る可能性もあります。
そこで疑問として浮かびやすいものをQ&A形式にまとめてみましたので、是非参考にしてみてください。
途中で解除することはできる?
A.不動産会社に問題がある場合、契約期間中でも問題なく解除ができます。
専任媒介契約の契約期間は3ヶ月以内となっていますが、時間は有限であり、物件も「築年数」の観点から見れば、あまり無駄な時間をかけて価値を下げるべきではありません。
国土交通省による標準約款では、「専任媒介契約に定める義務の履行に関して本旨に従った履行をしない場合には、その相手方は、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときは、専任媒介契約を解除することができる」(専任媒介契約約款 第16条)とされています。第17条では、依頼者の信頼を裏切ったり、事実を報告しなかった場合に、催告をせずに解除が可能である旨が記載されています。
上記が理由である場合はまず、違約金は発生しません。
依頼者の個人的な理由で契約解除をする場合も、特別な宣伝契約をしていなければ、ほぼ問題なく申し出を承諾してくれるケースがほとんどです。もし広告費を請求された場合は、その明細をしっかりと確認しましょう。
契約満了後に更新する場合は?
A.自動更新はされないため、文書での更新が必要です。
専任媒介契約の有効な契約期間である3ヶ月を超え、引き続き契約をおこないたい場合は、依頼者の文書による申し出が必要となります。不動産仲介会社のほうで自動的な更新はされませんし、勝手に更新をおこなうことも出来ません。
そのため更新を考えている場合は、期間満了日については事前に把握しておくと良いでしょう。
まとめ
契約内容の判断は、メリットとデメリットを正しく事前に把握しておくことでつけやすくなります。
そこまで不動産に詳しくなくとも、自分が契約するその内容に関しての知識があれば、取引中に何か気づくことが出来たり、複数の不動産仲介業者の比較時にもその知識が役立つからです。
専任媒介契約のメリットを生かすことが出来れば、トラブルのないスムーズな売却を目指すことは難しくありません。是非、自分の状況や売りたい物件に合わせた契約形態での売買成立を目指してみてください。
※「マイナビニュース不動産査定」は以下に記載されたリンク先からの情報をもとに、制作・編集しております。
・https://www.land.mlit.go.jp/webland/
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