「ホームインスペクション」をご存知でしょうか?これは「住宅診断」のことをいい、住宅診断士が、第三者的な立場から、住宅の劣化状況、欠陥の有無、など住宅に関するアドバイスを行なう専門業務を指します。
中古住宅取り引きの多いアメリカやヨーロッパでは一般的なことであり、日本でも少しずつ浸透し始めています。その費用がどれぐらいかかり、誰が負担するのか知っておくことは、トラブルを防ぐためにも必要です。
この記事では、ホームインスペクションの費用は売主と買主どちらが負担するのかを軸に、費用相場やかかる時間、売主・買主別のメリット・デメリット、業者を選ぶポイントなども取り上げます。ホームインスペクションの基本的なことをおさえたい場合も、参考にしてください。
ホームインスペクションとは
ホームインスペクションは、簡単にまとめると「住宅診断」のことです。ここでは、ホームインスペクションとはどんなものなのか詳しく見ていきましょう。
第三者による住宅・建物診断
ホームインスペクションとは、住宅に精通したプロが住宅の状況をチェックして、劣化・欠陥を診断することです。診断するプロのことを、ホームインスペクター(住宅診断士)と言います。また、診断の結果、改修すべき場所・時期をアドバイスしてくれたり、費用の算出を行ったりしてくれます。
そんなホームインスペクションは、日本ではそれほど一般的なものではありませんが、欧米では利用されていることが多いです。
ホームインスペクションを行う者に、特別な資格は必要ありません。ただし、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会の「JSHI 公認ホームインスペクター(住宅診断士)」や、一般社団法人住宅管理・ストック推進協会の「ホームインスペクター」などの民間資格はいくつか存在しています。また、宅地建物取引業法による既存住宅状況調査を実施可能な者は、「既存住宅状況調査技術者」の資格を取得している建築士だけです。ホームインスペクション業者に依頼する際は、こうした資格の有無をチェックしておくとよいでしょう。
ホームインスペクションの診断内容
ホームインスペクションの診断内容は、以下の通りです。
- 構造に問題はないのか
- 設備・配管に不具合は生じていないか
- 雨漏り・水漏れが発生していないか
具体的には、以下のような箇所を診断します。
- 基礎のひび割れ
- 鉄筋の露出
- 床や壁の欠損
- 蟻害や腐食の有無
- 屋根材のズレ
- 天井・内壁などの雨漏りの跡
- 給排水管
- 換気ダクト など
またチェックされる部分は、戸建てとマンションによって異なります。
住宅の種類 | チェックされる部分 |
戸建て |
|
マンション |
|
さらにどちらも、給排水管や換気ダクトを診断されます。戸建ての場合、住宅の基礎の部分まで確認しますが、マンションは、全体ではなく専有部分と専用使用権のあるベランダのみが診断対象になるでしょう。診断は目視以外にも、計測装置が使用されたりしますが、その内容は、業者によりまちまちで決まりはありません。
ホームインスペクションを行うタイミング
ホームインスペクションのタイミングは、次の通りです。
- 建売住宅契約前の物件見学
- 建売住宅契約後の内覧会
- リフォーム・リノベーションを実施する前後
- 中古住宅売買時 など
ホームインスペクションの診断内容だけではなく、行うタイミングにも決まりはありません。
中古住宅では特に普及を推進されている
ホームインスペクションは現在、中古住宅において推進されているものです。なぜなら、少子高齢化などを背景に、国内で空き家が増えてきており、中古住宅市場の活性化を進めるために、ホームインスペクションが重要だからです。
ホームインスペクションを利用すれば、中古住宅の品質や安全性を向上できます。特に日本では、中古住宅よりも新築の方が売れやすい傾向にあるため、買う側が安心して購入できるように、ホームインスペクションの利用が重要視されています。
宅地建物取引業法で説明と紹介・斡旋が義務化
宅地建物取引業法の改正によって、2018年4月から、不動産会社がホームインスペクションについて説明することが義務化されました。下記3つのタイミングで、不動産会社はホームインスペクションについて説明しなければなりません。
- 媒介契約を結ぶ時
- 重要事項説明を行う時
- 売買契約を締結する時
媒介契約を結ぶ際、ホームインスペクション業者の斡旋ができるかどうか書面に記載する義務があり、希望次第では斡旋を行います。重要事項説明を行う時、売主側で実施している場合は、結果の概要を説明しなければなりません。売買契約を締結する際、双方が状態をチェックして、書面に残す必要もあります。
ただし、ホームインスペクションについて説明する義務はあるものの、ホームインスペクションの実施自体は、義務化されておりません。
売主・買主どちらがホームインスペクションの費用を負担するのか
中古住宅の売買時、ホームインスペクションの費用は、売主・買主どちらが支払うという決まりはありません。また、売主・買主の支払いではなく、業者による負担というケースもあります。
ここでは、中古住宅は売主・買主どちらがホームインスペクションの費用を負担するのかの詳細をまとめました。
売主・買主どちらの可能性もある
ホームインスペクションの費用負担は売主・買主のどちらでもかまいません。つまり、費用負担のルールはないのです。なぜなら、現状では、ホームインスペクションを実施してある中古住宅はそれほどないからです。ホームインスペクションが法律で義務化されていないことも関係しているでしょう。
しかし、ホームインスペクション前の不動産の購入を検討している場合、買主は、売主への許可が必要です。なぜなら、売買契約を締結する前の段階では、まだ売主の所有物だからです。ホームインスペクションの診断結果によって売買契約するのか、それともキャンセルするのか決められ、欠陥が見つかった際は値引き交渉できる可能性もあります。
いずれにしても、「どちらが負担して行うというルールはない」と認識しておきましょう。
不動産会社が費用を負担する場合もある
中古住宅の売主が個人ではなく、不動産会社の際、ホームインスペクションの費用負担は不動産会社、という場合もあります。なぜなら、購入につなげるために、そして買主に安心してもらうためにホームインスペクションを依頼するケースがあるからです。
また、個人の売主、もしくは買主の依頼によって、業者がホームインスペクションの費用を肩代わりする場合もあります。そうすることで、不動産会社の利益・売上アップにつなげられるからです。不動産会社が費用を負担する場合もあるからこそ、ホームインスペクションの費用は不要かもしれない、と認識しておいてください。
ホームインスペクションの相場費用と時間
ホームインスペクションの費用は、物件・検査の種類によって異なります。
物件の種類 | 費用相場 |
戸建て | 5~12万円程度 |
マンション | 4~6万円程度 |
戸建ての場合、目視で対応できる調査であれば5~7万円程度の費用相場ですが、屋根裏への侵入などが内容に含まれた場合、6~12万円程度かかります。ホームインスペクションにかかる時間も、物件・検査の種類によって違い、建物面積が約30坪程度であれば、2~3時間程度を目安にしましょう。
中古住宅をホームインスペクションするメリット・デメリット
売主と買主によって、中古住宅をホームインスペクションするメリット・デメリットは異なります。ここでは、売主と買主それぞれのホームインスペクションするメリット・デメリットを見ていきましょう。
売主がホームインスペクションするメリット・デメリット
売主がホームインスペクションするメリットは、次の通りです。
- 買主に対してのPR材料になる
- 売る前に物件の欠陥を把握できる
- 欠陥を補修して売りやすくなる
- 買主とのトラブルが減る など
ホームインスペクションが実施されている物件は、そうではない住宅と比較した場合、「品質・安全が保証されている」という付加価値が生まれ、売りやすい傾向にあります。また、住宅がどのような状態なのかを把握して購入できるため、その後のトラブル・クレームなどが発生しにくいことも大きなメリットです。一方、デメリットには以下のようなものがあります。
- 補修できそうにない欠陥を見つけてしまう
- 高額な補修費が必要な問題を発見する可能性もある
- 補修しないと値下げされることもある
- 住んでいる場合でも、室内を細かくチェックされる など
コストがかかるリスクだけではなく、不具合の規模・内容によっては、買主を見つけられないリスクも発生するでしょう。
買主がホームインスペクションするメリット・デメリット
買主が中古住宅をホームインスペクションするメリットは、以下の通りです。
- 検査結果を購入などの判断材料にできる
- 結果次第では安心して購入に踏み切れる
- 問題点があっても補修費用の負担を検討できる
- 補修やリフォームの計画を立てやすい など
ホームインスペクションすることで、こうした数々のメリットを得られます。一方、デメリットは以下の通りです。
- 大きな問題があったら購入できないかもしれない
- 業者の斡旋や売主依頼の場合、重要な事実が報告されないケースもある
- ホームインスペクションしている間に先に購入されるリスクもある
- すべての欠陥を見つけられるとは限らない など
せっかくホームインスペクションを利用したにもかかわらず、先に購入されてしまう場合もあるため、ホームインスペクションを利用する際は、十分注意しましょう。
新築住宅をホームインスペクションするメリット・デメリット
中古住宅だけではなく、劣化などのない新築住宅をホームインスペクションするメリットもあります。
- 将来の改修すべき場所や費用を事前に把握できる
- プロしか発見不可能な欠陥を見つけられる など
新築においても、建物のトラブルは発生する可能性があるため、ホームインスペクションは有効です。また、メンテナンスについてもアドバイスがもらえるホームインスペクションならば、将来的にどれぐらいメンテナンス費用が必要になるかわかります。
一方、デメリットは、次の通りです。
- コストがかかる
- 費用をかけても何も見つからない
デメリットを大まかに言えば、それなりに費用がかかることです。新築住宅の建築を手がけたハウスメーカーや工務店によっては、しっかりと住宅をチェックしていますが、念のためにホームインスペクションを利用しても損はありません。
ホームインスペクションする際の注意点
ホームインスペクションを利用する際の注意ポイントはいくつかあります。
- ホームインスペクションの結果は「保証」ではない
- ホームインスペクション業者によって診断内容は異なる
こうした注意点を把握して、ホームインスペクションを賢く利用しましょう。
ホームインスペクションの結果は「保証」ではない
ホームインスペクションによって、あらゆる欠陥を見つけられるとは限りません。なぜなら、診断できるのは一般的に目視できるところだけだからです。
そのため、ホームインスペクションは、住宅に瑕疵(問題)がないという保証にはならないと言えるでしょう。瑕疵を対策するためには、瑕疵保証を行っている業者を利用したり、瑕疵保険に加入したりする必要があります。
ホームインスペクション業者によって診断内容は異なる
ホームインスペクションの調査範囲が会社によって異なることも注意ポイントです。建物本体しか調査しない会社もあれば、塀やフェンスなどの外構も含めてチェックする企業もあります。耐久性や安全性をしっかりと確認したい場合は、広い調査範囲になっている業者の選定をおすすめします。
どこまで調査してくれるのか価格面も含めて、事前に確認しておくことで、ホームインスペクションを賢く利用できるでしょう。
ホームインスペクション業者を選ぶポイント
ホームインスペクションを依頼する業者は、次のポイントをおさえて選びましょう。
- 依頼業者は公平な立場の業者へ依頼する
- ホームインスペクション業者は実績や資格保有について確認する
業者選びで失敗したくない場合やスムーズにホームインスペクションした場合に、お役立てください。
依頼業者は公平な立場の業者へ依頼する
ホームインスペクションの業者を選ぶ際は、ホームインスペクションに対して中立な立場での意見が重要になるため、公平な立場の業者を見つける必要があります。つまり、不動産業者や建築業者の下請けになっている会社は、できるだけ選ばないということです。各業者の関連会社も避けた方がよいかもしれません。
公平な立場の業者へ依頼する際は、不動産会社などに任せることなく、手間も時間もかかってしまいますが、自身でホームインスペクション業者を探しましょう。
ホームインスペクション業者は実績や資格保有について確認する
「できるだけ安値の業者を選びたい」と思っても、ホームインスペクション業者を料金の安さだけで選ぶことは危険です。なぜなら、費用が安い分、ホームインスペクションの質が落ちてしまう可能性があるからです。
そのため、ホームインスペクションの業者を選ぶ際は、実績や業者のスタッフが保有している資格などを事前にチェックしておきましょう。豊富な実績があれば、安心してホームインスペクションを任せられます。
あわせて、スタッフへの教育システムもチェックしておくと信頼できる業者なのか把握できます。しっかりと教育していれば、ホームインスペクションの質に悪影響がないからです。また、ホームインスペクションはさまざまな知識を求められる作業のため、一級建築士や一級建築施工管理技士、宅地建物取引主任者などの資格の有無を確認することをおすすめします。
もちろん、丁寧な対応をしてくれるのか、専門的なことも優しく説明してくれるのかなど、コミュニケーションの面もチェックしておきましょう。
まとめ
ホームインスペクション(住宅診断)は、アメリカやヨーロッパでは一般的なことであり、国内でも浸透し始めています。そんなホームインスペクションの費用を負担するのは、ケースバイケースで、売主・買主どちらの可能性もあるでしょう。場合によっては、不動産会社が負担する可能性もあり、費用を抑えられます。
ホームインスペクションする際の注意ポイントは、ホームインスペクションの結果は「保証」ではないことと、業者によって診断内容が違うことです。業者を選ぶ際は、公平な立場の業者を選定することと、実績や資格保有について確認することを意識しましょう。ホームインスペクションを活用して、正しく賢く不動産を売買しませんか。
※「マイナビニュース不動産査定」は以下に記載されたリンク先からの情報をもとに、制作・編集しております。
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