マンション売却で税金を計算するときに「減価償却」という言葉を聞いたことがありませんか?
マンションや戸建てなどの経年変化とともに劣化していく財産は、税金を計算する際に算出する資産価値を、劣化具合に合わせて調整しなければなりません。そのことを経理用語で「減価償却」と呼んでいますが、この減価償却を行うとマンション売却時に支払う税金を節約することができます。
この記事では、マンション売却時にかかるどの税金が減価償却の対象なのか、またその方法を詳しく解説していきます。
そもそもマンション売却にかかる税金とは
マンション売却で気になるのが税金のことですが、正直どんな税金が課されているのか分からないという人は多いもの。そこで、はじめにつけておくとよい知識や、売却の際に必要になる税金の種類について解説していきます。
マンション売却で支払う税金の種類
マンション売却で支払うべき税金は主に以下の5つが挙げられます。
- 印紙税
- 登録免許税
- 譲渡所得税
- 復興特別税
- 住民税
印紙税は売買契約をする際にかかる税金で、契約書に貼り付ける収入印紙代の形で支払います。また、登録免許税はマンション購入時に組んだローンを完済し、債権者である銀行の抵当権抹消をする手続きの際に必要な税金です。譲渡所得税、復興特別税、住民税はマンション売却で利益が出たときに支払う必要があります。
減価償却は譲渡所得の計算で必要
減価償却は、譲渡所得税を計算するときに必要になる作業です。譲渡所得とは、いわゆる売却で得た純利益のことを指しますが、この利益を計算する際には以下の計算式を使用します。
マンション売却の税金を減価償却を使い計算する方法
マイホームとしてのマンションを売却する際には、定額法という減価償却費用計算方式を使用しますが、以下の計算式で求めることができます。
減価償却費を正確に知るためには、まず減価償却されるマンションの購入時の金額や譲渡するときにかかった費用、耐用年数や償却率などについて知る必要があります。それぞれを詳しくみていきましょう。
減価償却前の取得費や譲渡費用を調べる
減価償却後の金額を調べるためには、大元の取得費や譲渡費用を算出しておく必要があります。そもそも減価償却するのはどの不動産なのでしょうか?
これは、減価償却の概念を知っておくと判断する助けになります。基本減価償却は劣化する資産に当てはめられるので、経年劣化することがない土地は減価償却することができません。しかし、その土地の上に建っている建物は朽ちていくものです。
譲渡費用に該当する項目
(1) 土地や建物を売るために支払った仲介手数料
(2) 印紙税で売主が負担したもの
(3) 貸家を売るため、借家人に家屋を明け渡してもらうときに支払う立退料
(4) 土地などを売るためにその上の建物を取り壊したときの取壊し費用とその建物の損失額
(5) 既に売買契約を締結している資産を、さらに有利な条件で売るために支払った違約金
*土地などを売る契約をしたあとで、その土地などをより高い価額で他に売却するために、既契約者との契約解除に伴い支出した違約金のこと(6) 借地権を売るときに、地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など
マンションの構造から償却率を判断
マンション自体の購入価格や譲渡費用が割り出せたら、次に考えたいのは償却率です。償却率とは、1年単位で建物が老朽化する割合を表したもので、この率は法定耐用年数によって決まります。法定耐用年数は、建物の構造や用いられ方を考慮して割り出されます。
以下は年数ごとに決められた償却率です。
建物の構造 | 耐用年数 | 償却率 |
木骨モルタル法 | 30年 | 0.034 |
木造 | 33年 | 0.031 |
厚さ3mm以下の鉄骨材 | 28年 | 0.036 |
厚さ3mm以上4mm以下の鉄骨材 | 40年 | 0.025 |
厚さ4mm以上の鉄骨材 | 51年 | 0.020 |
鉄筋コンクリート | 70年 | 0.015 |
一般的に、マイホームを売却する際は定額法での減価償却計算式が使用されますが、償却率もそれに合わせて上記表記載の率が用いられます。ご覧の通り、耐用年数が高いほど償却率は低くなります。
経過年数は築年数と間違えない
マイホームとしてのマンションは、一般的な資産を減価償却する場合とは違うルールがあります。それは、年数単位で老朽化具合を計るという点です。
この経過年数を計算するときによくある勘違いとして、築年数と混同してしまうことが挙げられます。確かに老朽化を計るだけなら築年数を考慮できますが、そうすると中古マンションを購入して転売する場合は、以前の所有者が計算に入れた老朽化具合まで二重に含めてしまいかねません。
経過年数のとらえ方として以下の点を覚えておきましょう。
特別控除を使い課税譲渡所得を求める
マンションを売却した際は売主の課税負担を減らすために、減価償却とともに利用できる特別控除があります。特別控除には4つの種類があり、それぞれ控除される額や受けられる条件が違います。
3,000万円特別控除
- 所有者が当該不動産に住んでいる
- 買い換え特例等併用できない特例を受けていない
- 親子間または生計を共にする親族への譲渡ではない
- 家賃利益が出ている不動産ではない
これらの条件にあてはまっている場合は、特別控除を受けられます。また、もし所有者がその不動産に住まなくなっていても、3年が経過した年の12月31日までに売却することができれば、この控除を利用することができます。
→ 2020年12月31日までに売却なら控除適用できる
長期譲渡所得の軽減税率
- 以前にこの控除を受けたことがない
- 所有者が当該不動産に住んでいる
- 土地と建物の両方が所有から10年以上たっている
なお「所有から10年」の数え方ですが、当該不動産購入から売却した年の1月1日までの期間で10年と数えられます。
特定居住用財産の買い換え特例
- 次購入分のマイホーム面積が建物50㎡以上、土地500㎡以下である
- 売却する不動産が売却年の1月1日で居住してから10年を超えていること
また売却後購入する不動産に関して、一つの注意すべきポイントがあります。
売却損をその他所得と相殺する方法
3,000万円でマンションを売却し、4,000万円の新居を購入した場合の損失は1,000万円。
その年の所得額は500万円なので、給与所得は損失分よりも低いことが認められる。
この特例適用後は、通常その年の給与にかかる所得税が0円となる。
またこの場合は、まだ-500万円分の損失なので次の年の給与所得分まで非課税となる。
債務で生じた損をその他所得で相殺する方法
- 所有者が住んでいる不動産であること
- 所有期間が売却年の1月1日で5年を超えていること
- 要件を満たしたマイホームを購入しているもしくはローン残債があること
万が一マンション売却で損が出てしまったときには、この条件にあてはまっているかチェックしてみましょう。この条件にあてはまっていれば、損した金額分で税負担を軽減できます。
所有期間ごとに決まった税率で税金の支払い
マンションをどれほどの期間保有していたかで、税率が変わってくるという点も知っておく必要があります。また、所有期間10年超えの際に特例措置を適用すると、どれほどの税率になるかも合わせて知っておくと計算するときに役立ちます。
所有期間が5年以下の場合と5年超だった場合
先に考えたいのは所有期間が5年以下の場合と、5年超だった場合の譲渡所得税率です。
保有年数 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 |
保有期間5年以下 | 30% | 所得税×2.1% | 9% |
保有期間5年超 | 15% | 所得税×2.1% | 5% |
それぞれの税率を合計すると、所有期間が5年以下であれば39.6%に対して5年超では20.315%と、税率が約半分違うということが分かります。マンションを売却する際に節税したいなら、保有期間が5年以上たってから売却したほうが得策です。
所有期間10年を超えた際の特例を利用した場合
さらにお得なのが、所有期間10年を超えた際の特例を利用した場合です。
保有年数 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 |
控除利用後残金6,000万円以下 | 10% | 所得税×2.1% | 4% |
控除利用後残金6,000万円以上 | 15% | 所得税×2.1% | 5% |
3つのパターンでマンション売却の税金を計算
税金を割り出す方法や利用できる特別控除について考えてきましたが、マンションを売却する際に考えられる3つの具体的なパターンから、さらに知識を深めてみましょう。
特別控除で利益が出ないマンション売却
厚さ3mm以下の鉄骨材を使用したマンションを購入したときの金額は3,000万円で、住んでいた年数は3年間のケースで、まずは減価償却をしてみます。
これで減価償却が終わり、取得費を割り出せたことになります。ちなみに、この計算式は先に挙げた定額法による減価償却計算式を使用し、償却率は鉄筋コンクリート率に合わせています。
次に算出したいのは譲渡所得ですが、土地代を含まずに購入時と同じ3,000万円で売却したと仮定しましょう。今回のケースでかかった譲渡費用は100万円とします。
5年を超えて所有したマンション売却で利益
次に見ておきたい例は、所有期間が5年を超えているマンションを売却した場合です。今回のケースも、厚さ3mm以下の鉄骨材を使用したマンションを購入したときに、金額が3,000万円だった場合を例に挙げて考えます。
まずは減価償却から求めますが、所有年数が5年を超えているため5乗した計算式で割り出してみます。
復興特別所得税(2,414万円×0.15)×0.021=76,041円
住民税:2,414万円×0.05=1,207,000円
計 4,904,041円
軽減税率の特例を使ったマンション売却の税金
次に取り上げるのは3,000万円特別控除を利用し、なおかつ所有期間が10年を超える場合です。先に取り上げたように特例措置の併用対象なので、その際にどれほどの譲渡所得税になるのかを見ていきましょう。
今回は鉄筋コンクリート造りのマンションで、購入したときの金額が3,000万円だった場合とします。それではまず減価償却から行ってみましょう。
復興特別所得税:(3,395万円×0.1)×0.021=71,295円
住民税:3,395万円×0.04=1,358,000円
計 4,824,295円
所有期間が10年を超える場合の譲渡所得にかかる税額合計は482万4,295円となりました。
先に取り上げた所有5年超えに比べると、79,746円も安い税額になっています。
【Q&A】マンション売却の減価償却や税金
マンション売却時の税金や計算方法、減価償却をする方法などを見てきましたが、売却時の税金に絡んでまだ分からないことがあると感じている人も多いのではないでしょうか?
そこで、マンション売却時に多くの人が感じる疑問点を取り上げて、一つずつ解決していきます。
マンションの取得費が不明ならどうする?
マンション購入からかなりの年月が経っていると、取得費が不明ということが起こりえます。そういった場合は、一番計算しやすくて分かりやすい方法でもある、売買契約書に記載されている消費税から逆算する方法を用います。
もし土地と建物代が一緒に記載されている場合は、消費税額を購入当時の消費税率で割ることができます。
事業用のマンション売却は減価償却が変わる?
賃貸として活用している事業用マンションは、減価償却の計算式として定率法を選ぶことができます。定率法とは、取得費から減価償却費の総額を差し引いた未償却残高に、一定の割合で償却率をかけていく方法です。そのため初年度は大きくなりがちですが、年々緩やかに金額が下降していきます。
その計算式は以下の通りです。
建物の構造 | 耐用年数 | 償却率 |
木骨モルタル法 | 30年 | 0.067 |
木造 | 33年 | 0.061 |
厚さ3mm以下の鉄骨材 | 28年 | 0.071 |
厚さ3mm以上4mm以下の鉄骨材 | 40年 | 0.050 |
厚さ4mm以上の鉄骨材 | 51年 | 0.039 |
鉄筋コンクリート | 70年 | 0.020 |
定率法とは別に定額法という計算式もあります。この方式は、マイホームマンションを売却するときによく用いられるものですが、事業用マンションで定額法を使う場合は、マイホームとは別に以下の償却率になります。
建物の構造 | 耐用年数 | 償却率 |
木骨モルタル法 | 20年 | 0.050 |
木造 | 22年 | 0.046 |
厚さ3mm以下の鉄骨材 | 19年 | 0.053 |
厚さ3mm以上4mm以下の鉄骨材 | 27年 | 0.038 |
厚さ4mm以上の鉄骨材 | 34年 | 0.030 |
鉄筋コンクリート | 47年 | 0.022 |
事業用マンションを売却する際には、この償却率をおさえて減価償却するようにしましょう。
税金や減価償却の相談先はどこがよい?
マンション売却に関連する税の支払いや計算は個人では限界があることも多いので、いざというときに頼れる相談先があると安心です。
国税庁では電話相談センターを用意し、税金で困ったときの備えがされています。電話だけでなく、ホームページで調べられるようにもなっているほか、各管轄地域の税務署に相談することもできます。
最寄りの税務署は、国税庁ホームページから住所を入力して調べられるので、困ったときには活用してみましょう。また、税金に関する知識をインプットすることや手続きが面倒という人は、税理士に任せてしまうということもできます。
税理士に依頼する際は有料になってしまいますが、依頼前に無料相談会を利用して対面で話を聞くという方法もおすすめです。
まとめ
マンション売却のときに頭を抱えてしまう税金の支払いですが、減価償却をする方法や支払うべき税金の種類、税の軽減措置について知っておくと、いざ税額を計算するとなったときにスムーズに手続きを終えられます。
減価償却の際は、自分の売却するマンションに合った償却率を調べ、譲渡所得額を軽減する3,000万円控除や所有年数10年超え時の軽減税率を活用して、手元に最大限の利益を残せるようにしましょう。
支払うべき税金がある場合には、きちんと収めることで新たなマイホーム生活をスッキリとした状態で迎えられるものです。ぜひこの記事で取り上げた情報を活用して、ストレスなく税金の支払いを行いましょう。
※「マイナビニュース不動産査定」は以下に記載されたリンク先からの情報をもとに、制作・編集しております。
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