相続した土地は、今後家を建てたり、賃貸などのビジネスを開始したりといった計画がない限り、放置せずに売却した方が良いでしょう。土地は所有しているだけで固定資産税や都市計画税などの税金、維持管理費などのコストがかかります。
また、土地や建物は手入れをせずに放置し続けていると傷んでいきます。伸び放題の草木は、隣接する他者の土地に侵入していくかもしれませんし、老朽化した建物が倒壊するかもしれません。愛着や思い入れはあるかもしれませんが、売却して現金として資産を残した方が、利益につながるでしょう。
更に、相続した土地を現金化すると、相続税の納税に充てられたり、遺産の配分がしやすくなったりといったメリットがあります。もちろん、子供の教育費に充てたり、新たに土地を買ったりすることも可能です。
ただし、土地の売却時には出費が生じます。主な費用は、不動産会社への仲介手数料や、建物の取り壊しなどの費用、そして税金です。ここでは、相続した土地を売却する際にかかる税金について解説し、節税のポイントも紹介します。
相続した土地の売却にかかる税金
はじめに、相続した土地を売却する際にかかる税金の種類について解説します。土地を売却する際には、主に印紙税と譲渡所得税の2種類の税金がかかります。
どのような理由で課税されるのか、どれくらい収める必要があるのかを知っておきましょう。
売買契約にかかる印紙税
一つ目は、印紙税です。印紙税とは、売買契約書に対して課せられる税金のことです。土地を売却するときに売買契約書を交わしますが、その契約書に収入印紙を貼付することで納税します。税額は契約金額によって異なります。以下の表は、契約金額と税額をまとめたものです。
契約金額 | 印紙税額 | 軽減された税額 |
100万円を超え500万円以下 | 2千円 | 1千円 |
500万円を超え1000万円以下 | 1万円 | 5千円 |
1000万円を超え5000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5000万円を超え1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
印紙税には軽減措置がある
不動産売買契約書にかかる印紙税には、軽減措置があります。租税特別措置法により、記載金額が10万円を超えるもので、平成26年4月1日から令和4年3月31日までに作成される不動産の譲渡に関する契約書は税率が引き下げられます。軽減税率は、上記の表の軽減された税額に記載された通りです。
売却益にかかる譲渡所得税
続いて、譲渡所得税についてです。土地を売却して売却益が生じた場合は、譲渡所得税の課税対象になり、所得税と住民税が課せられます。売却益が生じなかった場合には、譲渡所得税は課税されません。この譲渡所得課税は、不動産の所有期間によって税率が変わってきます。
所有期間とは、不動産の所有者になってから売却した年の1月1日までの期間を指します。所有期間が5年を超える不動産を売却した場合は「長期譲渡所得」となり、課税譲渡所得に対し、所得税が15%、住民税が5%課税されます。保有期間5年以下で売却した場合は「短期譲渡所得」となり、税率は約2倍の、所得税が30%、住民税が9%となります。
相続した土地の売却にかかる譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税は、不動産の売却価格から、不動産を購入した時の代金などの「取得費」と、譲渡(売却)の際にかかった費用の「譲渡費用」を差し引いた利益に課税され、利益が大きいほど税額は高くなっていきます。
ここでは、譲渡所得税を算出する計算法について解説します。
不動産の取得費を算出する
初めに、その不動産を取得した際にかかった費用を算出しましょう。具体例は、以下の通りです。
- 不動産の購入代金、購入手数料
- 建物の建築代金
- 設備費や改良費
- 登録免許税(登記費用も含む)、不動産取得税、特別土地保有税(取得分)、印紙税などの税金
- 借主を立ち退かせるために支払った立退料
- 土地の取得に際して支払った測量費
- 所有権などを得るために要した訴訟費用
などが取得費に該当します。ただし、建物の取得費は、購入代金や建築代金等の合計から、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いたものとなります。
不動産の取得から長い時間が経っているなどの理由で取得額が不明の場合には、概算取得費として、売却額の5%相当を取得費とすることも可能です。実際の取得費が売却額の5%相当額を下回る場合も、売却額の5%相当額を取得費とすることができます。
概算取得費で計算した場合、実際の取得費よりも低い金額がでることがほとんどであるため、譲渡所得額が高くなります。つまり、課税される税金も高くなるので、できるだけ取得費を高く計上するためにも、概算取得費を使用する前に、取得費について調査してみると良いでしょう。
土地の譲渡費用を算出する
続いて、譲渡費用を算出します。譲渡費用とは、土地や建物を売るために直接かかった費用のことを言います。具体的には、
- 土地や建物を売るために支払った仲介手数料
- 売主が負担した印紙税
- 土地等を売るために建物を取り壊した際の取壊し費用およびその建物の損失額
- 買主を募るためにかかった広告費
などが譲渡費用にあたります。固定資産税や修繕費などの、資産の維持管理にかかった費用は含まれません。
計算式で譲渡益を算出する
譲渡益(譲渡所得)は、
の計算式で算出できます。この計算結果で利益が出ている場合は、譲渡所得税が課税されることとなります。
購入当時は安かったが、周辺の開発などにより地価が上がり、高く売却した場合や、購入代金がわからず、売上益の5%相当を取得費とした場合には、譲渡益が高く出てしまいます。
所有期間に応じた税率をかける
譲渡所得税は、譲渡益と不動産の保有期間によって算出されます。計算式は以下の通りです。
- 所有期間が5年を超える「長期譲渡所得」の場合
譲渡益×(15%(所得税)+5%(住民税))=譲渡所得税額
例:長期譲渡所得金額が5,000万円の場合
所得税5,000万円×15%=750万円、住民税5,000万円×5%=250万円
譲渡所得税額=1,000万円
- 所有期間が5年以下の「短期譲渡所得」の場合
譲渡益×(30%(所得税)+9%(住民税))=譲渡所得税額
例:短期譲渡所得金額が5,000万円の場合
所得税5,000万円×30%=1500万円、住民税5,000万円×9%=450万円
譲渡所得税額=1,950万円
所有期間が10年を超える居住用の不動産を売却した場合は、以下のように軽減税率が適用されます。(居住用財産の長期譲渡所得に対する課税の特例)
- 譲渡所得金額が6,000万円以下の部分について
譲渡益×(10%(所得税)+4%(住民税))=譲渡所得税額
- 譲渡所得金額が6,000万円を超える部分について
(譲渡益-6000万円)×(15%(所得税)+5%(住民税))=譲渡所得税額
所有期間は、被相続人が所有していた期間を引き継ぐことができます。。そのため、相続してすぐに売却した場合でも、必ずしも短期譲渡所得となるとは限りません。被相続人が5年を超えて所有していた不動産なら、長期譲渡所得になります。
復興特別所得税について
所得税には、2037年(令和19年)まで復興特別所得税が加算されます。復興特別所得税は、所得税額に2.1%を乗じることで算出されます。
相続した土地を売却するときにかかる税金を抑える方法
土地を売却するときにかかる税金は決して安い金額ではありません。売却で得た利益を守るためにも、できるだけ低く抑えたいものです。譲渡取得税を軽減する方法はいくつかあるので、知っておくと大幅な節税につながります。
取得費加算の特例を利用する
譲渡取得税の税額は、売却代金-(土地の取得費+土地の譲渡費用)で求められる譲渡益の金額によって変動します。譲渡益が高いほど税額も高くなっていくので、譲渡益をできるだけ低く算出できれば、税額を抑えられます。売却額を安くしてしまっては、かえって利益が下がってしまうので、取得費を高く出すとよいでしょう。
取得費を高くするために、取得費加算の特例の適用を検討すると良いです。これは、相続の申告期限から3年以内に売却することで受けられる特例で、相続で課税された相続税額のうち一定の金額を取得費に加算できます。これにより譲渡所得を少なくすることができるため、譲渡所得税を大幅に節税できます。
相続不動産の取得費の加算の要件
取得費加算の特例を受けるには、いくつかの要件があります。
- 相続や遺贈により財産を取得した者であること。
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること。
- その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること。
以上3つの要件を満たしていれば、取得費の加算が可能です。相続税の申告期間とは、被相続人が亡くなったことを知った翌日から10か月以内の期間です。譲渡所得税は所有期間が長いと税率が低くなりますが、取得費加算特定の適用のためには、売却は3年以内という期限があるので注意しましょう。
取得費に加算する相続税額は、以下の計算式で求められます。
その者の相続税 × 売却した不動産の相続税評価額 ÷ その者が取得した相続財産総額 = 取得費加算額
この取得費加算額が、さらに売却益から引かれるため譲渡所得税が減税できるのです。
3,000万円の特別控除を利用する
相続した物件を実際に居住用として利用していた場合、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」が適用できます。
相続人が被相続人と同居していた場合や、相続人が相続してから居住していた場合に、この特別控除が適用されます。ただし、以下の場合には適用されないので注意しましょう。
- この特例を受けるために入居したと認められる場合。
- 新しく居住用家屋を建築している間の仮住まいとして利用するなど、一時的な目的で入居したと認められる場合。
- 別荘のように、主として趣味や娯楽の目的で所有する家屋の場合。
譲渡所得の内、3,000万円までは課税対象から除外されるので、売却して利益が出た場合でも、3,000万円までは課税額がゼロということになります。この特別控除を適用した場合、以下の計算式で譲渡益が算出されます。
譲渡益=売却代金-(土地の取得費+土地の譲渡費用)-3,000万円
この特例は所有期間に関係なく適用できます。ただし、取得費加算の特例との併用はできません。
空き家売却の特例を利用する
「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」という制度があります。相続により空き家となった建物を補強したり、建物を取り壊したりして譲渡する場合、譲渡益から最大3,000万円を控除できるというものです。この制度を適用するには、いくつか条件を満たす必要があります。
- 2016年(平成28年)4月1日から2023年(令和5年)12月31日までに譲渡すること。
- 相続の開始日から3年を経過する年の12月31日までに売却すること。
- 相続で取得したものであること。
- 被相続人が亡くなる直前まで居住していたこと。
- または亡くなった人が要介護認定等を受けた後、亡くなる直前まで老人ホームなどに入所していたこと。
- 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された区分所有建築物以外の建物であること。
- 相続時から売却時まで、事業、貸付、居住の用に供されていないこと。
また、譲渡するときに以下の条件を満たす必要があります。
- 建物を残して譲渡する場合、耐震リフォーム等により、耐震基準に適合することが証明された家屋であること。
- 相続人が取り壊して売却すること。
- 売却代金が1億円以下であること。
このように、様々な条件がありますが、空き家となった物件を譲渡したい場合に、ぜひ適用したい特例です。
相続した土地の売却にかかる税金に関するQ&A
相続、そして不動産の譲渡は一生に何度も経験するものではないので、疑問もあるでしょう。そこでここでは、相続した土地の売却にかかる税金に関する、よくある質問について解説します。
譲渡所得税はいつどこに収める?
不動産売却で発生した利益に対する譲渡所得税は、通常の所得とは別に計算して納税します。よって、売却して利益が出た場合は、翌年の2月16日から3月15日(年によって期日は変わる)の間に確定申告をしなくてはなりません。
確定申告を怠ると、遅延金が発生してしまいます。また、3,000万円の控除が適用された場合でも確定申告は必要です。
住民税は確定申告後に届く住民税納付書に必要事項を書き、納付することになります。納税のタイミングは6、9、10、2月の末日の年4回です。
不動産売却で利益がでると、かなりの額の副収入が入ることとなります。そのため、年収に基づいて算出される国民保険料などの費用は値上げされるでしょう。税金に加えて出費が増えるので、お金が出ていくタイミングをしっかりと把握しておき、計画的に資金を用意しておくように心がけましょう。
相続した不動産の所有期間の計算方法は?
譲渡所得税の税率にかかわる、不動産の所有期間は、被相続人が取得した日から計算します。相続人が相続した日ではないので、注意しましょう。そのため、相続後すぐに譲渡しても、被相続人が5年を超えて所有していた場合は「長期譲渡所得」となります。
まとめ
相続した土地の処分を考えたとき、売却を検討する人は多いでしょう。不動産は持っているだけではコストがかかるだけですし、現金化することで、自らの人生設計に役立てることもできます。
ただし、売却すると、利益が得られるのと同時に、課税されることになります。不動産の売買は取引される金額が大きいので、課される税額も大きな金額となるのです。
したがって、税金も高額になりがちですが、様々な軽減措置や特例もあります。これらの特例を利用すれば、節税が可能になります。知らずにいると、特例が適用される期間を逃してしまったり、無駄に維持管理費をかけてしまったりして、損をしてしまうかもしれません。
売却を決断したら、早めに行動することが重要です。しかし、法律やお金の知識が必要となるケースが多いので、専門家に相談しながら取引を進めていくことをおおすすめします。
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