私がiPhone 4を購入して、はや1カ月。TwitterやらPodcastなどでiPhoneを英語学習に活用する毎日だ。iPhone 4やiPadの発売が華々しくメディアで報じられる中、出版業界もこのブームに乗り、iPhoneやiPadを活用した英語学習法の本が最近出版されてきた。これはチェックしておかなければ! ということで、今回は『iPad英語学習法』という書籍の紹介をしよう。著者はハイテク産業を追う記者として20年の米国生活を経験したあと、時事通信編集委員を経て、現在はフリーのテックブロガーである湯川鶴章氏である。

実はiPadは不要?

この本、iPadとあるが、本書に書かれている学習法は、iPadでなくてもiPhoneでも行なうことができる。同じ著者による『iPhone的英語学習法』という電子書籍も同時発売されており、中身もかなり重複しているようなので、iPadでもiPhoneでもどちらでも良いのだ。いや、本書をよく読むと、実はiPhoneすら必要ではなくPCで十分である。

著者は英語学習におけるiPadの優位性をモバイル性、操作性、英語圏サービスの利用のしやすさ、の3点で優れているとしている。モバイル性は確かにその通り、iPhoneやiPadを使うと、すきま時間を英語学習に当てることができる。2つ目の操作性については、iPadはPCより使いやすいということだが、それは違うだろう。今どきPCの操作でつまづくような人は英語ができてもダメダメである。3つ目の英語圏サービスの利用のしやすさについては、iPadは現在英語圏のソフトが大半を占めているので、いやおうなく英語の世界に入らざるを得ないとの説明だが、この理由には無理がある。

私はスマートフォンはiPhoneしか知らないが、iPhoneの何が優れているかというと、従来の携帯電話に比べて卓越している操作性がひとつ。そしてもうひとつは、英語学習に使えるさまざまなアプリが開発される下地となるAppleのプラットフォーム戦略である(Android携帯は触ったことがないのでわからない)。今のところ、iPhoneばんざーい、なのである。今までの携帯電話がどうしようもなくイケてないように見えてしまうのはどうしてだろう。

とはいえ、本書の提唱する英語学習に対するマインドセットに対して私は100%賛同している。著者によれば英語学習においては「自信」「魅力」「つながり」がキーワードであり、これを実践すれば必ず上達するという。

英語を話せるという自信を持つ

まず、「自信」であるが、英語を話せるという自信を持ちなさい、まずは自信が持てるようになりなさい、と言っている。私自身、長い間英語学習をしてきたが、今だに英語を話せているという自信を持てない。多くの読者もそうであろう。

本書の中で著者は難しい単語を覚えることは自信にはつながらない、と断言している。これには思わずハッとしてしまった。

私は10年来、NHKラジオ講座で日々難解な表現を覚えてきた。そのおかげでTOEICや英検ではいいところまで来た。しかし一方、最近Skype英会話を毎日する中で、言いたいことが出てこないもどかしさを毎回感じている。それは簡単な単語や文がでてこないことが原因だ。この経験から最近感じていることは、話すということは読む/聞くとはかなり違う能力ではないかということだ。

知っている単語だからといって、必ずしも口から出てくるわけではない、ということだ。口から単語を出すためには、知っている単語であっても、もう一度一つずつ口の中に入れ直す必要があるように感じている。そこで最近では簡単な会話表現を丸ごと口に覚えさせるような学習法に切り替えようと思っていた矢先だったので、「難しい単語は不要」という著者の言葉は胸にこたえた。

著者はまた、日本のおバカタレントは難しい言葉を知らないが、彼らは日本語を話しているという自信を(当然)もっているという例を挙げ、英語学習においても基本的な表現のマスターに重点を置くのがよいとしている。うーん、説得力がある。

本書では、英語ドラマの登場人物を真似るとよいとしている。それも自分の性別、年齢、キャラクターに合った登場人物をまねるとよいらしい。海外ドラマ学習法か、よく聞く方法だが、これまであまりやったことがない。取り組んでみるか。でもこれってPCすら使わない学習法ではないか。書名との乖離が……。

外国人に相手にしてもらえる話題を持つ

2つ目の「魅力」であるが、下手な英語でも外国人と会話を続けるためには、自分の得意分野で話題を持ち、魅力のある人物になることが必要であるという。

これもうなづける。誰だったか、日本人の高名な学者が外国で下手な英語をしゃべっても、周りの外国人は真剣に話を聞いてくれるというシーンを覚えている。これと同じだ。自分自身に付加価値を付けなさいということ。本書ではWebを使って自分の得意分野の知識を英語で蓄えていくことを推奨している。

特にITを専門分野とする人のために、Webで参考にすべきサイトが多数紹介されてあるので、本コラムの読者にはうってつけだろう。

SNSでリアルにつながれ!

3つ目の「つながり」であるが、FacebookなどのSNSを英語で行い、外国人とつながろう、そしてそこで英語を使うことをライフスタイルにしてしまい、勉強という意識をなくそう、ということである。日常に英語を組み込むのは良いことなのでぜひ実践したい。

Facebookといえば私も一応アカウントはあるが、知らない外国人からやたらと友だち申請が来るので、スパムかと思い無視している。本書の中で、その友だち申請を全て承認して、英語のつぶやきを転送するようにしたらコメントをもらえるようになったとあるので、スパムとも限らないようだ。今度は承認してみよう。

世界で戦える人物になるための武器としての英語学習を!

本書は以上の英語学習に対する新しいマインドセットと、それを実践するためのさまざまなWebサービスを紹介している。iPadもiPhoneも持っていない人にも有用な情報が提供されている。

また、IT業界の人で英語を勉強している人たちのITを活用した学習法も紹介されており興味深い。

本書は単なる英語学習法の紹介ではない。日本人よ、世界に目をもっと向けよ、そしてひとりひとりが世界で戦える個人となれ、という著者からの熱い思いが随所に感じられた。この思想を学ぶことができれば本書の目的は半ば達したと思ってよい。

著者紹介

本多義則 (Yoshinori Honda)

日立製作所勤務のIT系研究者。10年前に趣味と実益を兼ねて英語学習を再開以来、アナログからデジタルまであらゆるツールを駆使して英語学習に励んでいる。職場では「英語ができる男」と見られているが、実はそうでもない真の実力との差を埋めるべく、英語学習をやめられなくなっている。休みの日の朝は英語のメルマガ執筆にいそしむのが習慣。取得した英語関連の資格は、英検1級、TOEIC955(瞬間最大風速)、通訳案内士(英語)。座右の銘は「あきらめない限り必ず伸びる」。著書に『伸ばしたい!英語力―あきらめない限り必ず伸びる』。Twitterアカウントはこちら