Intelが普及価格帯に倍率ロックフリーのCPUを投入する……少し前から海外サイトなどを中心に、そんな"ウワサ"が流れていたわけだが、これがもう間もなく現実のこととなりそうだ。編集部では今回、倍率ロックフリーのCPUとされる、「Core i7-875K」「Core i5-655K」の2種類のCPUを入手することができた。登場時期などは未だ不明ながら、まずはその能力を試しておきたい。

「Core i7-875K」。ES品なので製品版と同一ではないことをお断りしておく

こちらは「Core i5-655K」。これもES品だ

まず現時点で判明している各モデルの仕様を以下の表にまとめておく。

■各モデルの仕様
Core i7-875K Core i5-655K
アーキテクチャ Lynnfield Clarkdale
動作周波数 2.93GHz 3.2GHz
Turbo Boost 最大3.6GHz 最大3.46GHz
コア/スレッド数 4/8 2/4
キャッシュ 8MB 4MB
メモリ 2ch DDR3-1333 2ch DDR3-1333
TDP 95W 73W
1,000個時の単価 342ドル 216ドル

さて、今回の製品で最大の特徴となるのが、CPU動作周波数の倍率ロックが外されている点だ。例えば、従来の製品で「Core i7-860」の動作周波数は2.8GHzだが、これは、このCore i7のベースクロックとなる133MHzを基準に、21倍の内部倍率が設定されており、2.8GHzで動作することになっている。単純化して言うと、この内部倍率が22倍で、2.93GHzで動くのが、Core i7-870となるわけだ。

今回試す「Core i7-875K」のCPU-Z画面。左下のClocksのMultiplierの数字が内部倍率で、22倍なので2.93GHz

ただ、上記は定格の動作周波数のことであり、ちょっとややこしいのが、Core i7から採用された「Turbo Boost」技術の存在である。先ほどの例で言えば、i7-860は2.8GHzが定格動作周波数だが、Turbo Boostで最大3.46GHzまで動作周波数がアップする。"最大"とあるのは、Turbo Boostでは、TDPの枠内に収まるように動作周波数をあげるため、廃熱が悪かったりすると、3.46GHzまであがらなかったりする。またTDP枠とは別に、3.46GHzというのは、i7-860のクアッドコアうち、1コアのみしか動作していない場合の最大で、2/3/4コア動作時には、別に定められた上限周波数が存在する。

■参考: Core i7-860のTurbo Boost上限設定
1コア動作時 2コア動作時 3コア動作時 4コア(全コア)動作時
3.46GHz 3.33GHz 3.33GHz 2.93GHz

これで何が"ちょっとややこしい"のかと言うと、まず、i7-860の1コア動作時Turbo Boostでは、133MHzのベースクロックに定格21倍のところ、5bin分アップした26倍の内部倍率を設定して、3.46GHzで動作させている。2/3/4コア動作時も同様、25倍/22倍/22倍といった具合だ。で、その場合、今回試す"K"付きモデル名のCore CPUでは、「倍率ロックフリー」というのが、これはCore i7のExtreme Editionで迷った方も多いかと思われることだが、"通常の"動作周波数の倍率ロックなのか、"Turbo Boost"動作周波数の倍率ロックなのかが"ちょっとややこしい"のだ。

■参考: Core i7-860のTurbo Boost倍率
1コア動作時 2コア動作時 3コア動作時 4コア(全コア)動作時
26倍 25倍 22倍 22倍

例えば、今回試す「Core i7-875K」における、筆者が想像した「ユーザーが最も期待している」と思われる倍率ロックフリーのカタチは、

■基本の「Core i7-875K」
動作状態 定格 1コア時Turbo 2コア時Turbo 3コア時Turbo 4コア時Turbo
周波数 2.93GHz(22倍) 3.6GHz(5bin/27倍) 3.46GHz(4bin/26倍) 3.2GHz(2bin/24倍) 3.2GHz(2bin/24倍)

走らせる処理数を調整できるHyper PIと、各コアの動作周波数をモニタリングできるTMonitorを利用して、「Core i7-875K」の1~4コア動作時のTurbo Boostによる動作周波数の違いを見てみた。1コア動作時Turbo Boostだと、1コアが27倍の3.6GHz動作で、他のコアは9倍の1.2GHzのアイドル状態

同じく、2コア動作時のTurbo Boostだとこうなる。動作コアは4binアップ26倍の3.46GHz

同じく、3コア動作時のTurbo Boostだとこうなる。動作コアは2binアップ24倍の3.2GHz

4コア動作時のTurbo Boostは、3コア動作時と同じ2binアップが全コアに適用された

というCore i7-870相当のスペックに対し、BIOSで「"通常の"動作周波数の倍率」を23倍にオーバークロック設定したとすると、

■基本の「Core i7-875K」 (i7-870に+αの値段と、i7-880相当のスペック)
動作状態 定格 1コア時Turbo 2コア時Turbo 3コア時Turbo 4コア時Turbo
周波数 3.06GHz(23倍) 3.73GHz(5bin/28倍) 3.6GHz(4bin/27倍) 3.33GHz(2bin/25倍) 3.33GHz(2bin/25倍)

という、Core i7-880(という製品は現存しないが)相当のスペックを実現できるのではないか……というものだと考える。プロセッサダイの選別による耐性の違いはもちろんあるだろうが、ベースクロックをアップさせる通常のオーバークロックに比べれば、より、上位製品そのままのスペックを格安に入手できるので、これは確かに大きな魅力だろう。

結論から言ってしまうと、これはYesともNoとも言える。実際に、今回入手したCore i7-875Kのオーバークロックを試しながら、これを説明して行こう。