日本人の国民性はすごく揶揄しがいがあるんです

――馬場さん個人としてはバブル時代、あの当時の日本をどう振り返りますか?

「日本ってホントに世界一変化の激しい国ですよね。こないだまで流行ってたものが全然流行ってない、なんてざらじゃないですか。『え? まだそんなことやってるの?』みたいな。流行ったらそれっきり終わりというか、そういう国民性なんでしょうね。でも、正直いって前の変化の方が振れ幅は大きかったですよね。社会学的にはそういった振れ幅を繰り返しながら収束していくという仮説がありますが、あながち間違ってないと思います。その代わり今後、今の中国とかベトナムとかに、かつての日本のような振れ幅で変化が起こるんじゃないですか。"ストックとフロー"といって、社会には古き良き文化を守ろうという保守的な風潮と、それらを壊して新しいものを作っていこうという風潮が交互にやって来るんですよね。間違いなくこれからの日本はストック文化に目が向くはずですよ」

――50年代生まれの馬場さんはバブル時代を含め、どのように時代の変化を見つめますか?

「僕は1954年生まれで、60年代、70年代を経験しているんですけど、あの頃はある意味、日本が最も面白かった時代というか。ものすごくハッピーでイケイケで高度成長期で、東京オリンピックのあった1964年と、ベトナム戦争が激しくなった1969年から1970年の学生運動の盛り上がりを目の当たりに見たわけですが、そこの変化ってすごいんですよ。バブル景気とバブル崩壊なんてメじゃないくらい。そんな60年代~70年代の変化が、そのまま80年代後半~90年代~現代の価値観の変化とぴったり一致するわけですよ。でも、バブルの頃って、近代の日本社会の歴史の中でも指折りに面白かった時代だと思うんです。それまで勤勉でコツコツ働いていた日本人が、もうちょっと遊ぶことに目を向けてもいいんじゃないの、って思い始めた。だけど、それが行き過ぎちゃったんですね。僕みたいな植木等さんを見て育ったお調子者世代が多かったからなのかもしれないです。『ド~ンと行こう!』とか『パ~ッと行こう!』っていう言葉に弱い(笑)。けれど、お金を出せばいいものが手に入るとか、いいものを身につけると気持ちいいというのはその通りなわけで、今、1,000万円もする高級腕時計がホントに売れてるそうじゃないですか。銀座のママいわく、100万円以下の時計じゃ高級とは言わないそうですし(笑)。今の日本の部分的バブルはすごいと思います」

一番分かってほしいのは『日本は変わる』ということ

――昨年あたりから日本経済も好景気と言われて久しいですが、あまり実感がないようにも思えます

「つい数年前、日経平均が8,000円を割ったと大騒ぎになったけど、今じゃその倍の17,000円近くにまで回復したでしょう。ここ数年でバブル期の伸びよりも大きくなっている。2006年~07年は後で振り返って『景気良かったよね、あの時』って言うに違いないと僕は思う。それってバブルの頃とまったく同じなんですよね。景気の良し悪しって、10年経ってみないと分からないし、あの頃がどんな時代なのか僕たちも分かってなかったから、今の人たちも今の時代がどうなのかよく分かってないでしょうね。でも、一番みんなに分かってほしいのは『日本は変わる』ということ。それもびっくりするくらい。だってバブル当時、学生の就職人気ナンバーワンの企業の経営が近い将来に揺らぐなんて、誰も思ってなかったじゃないですか(笑)」

――では、押し寄せる時代の変化にどう向き合えばいいでしょうか?

「『変わらない』ことってすごく大事な価値観じゃないですか。よく『軸がぶれちゃいけない』とか言いますよね。それは確かにその通りだと思うんだけど、だったらマイルス・デイビスやピカソって何なんだろうと思うんですよ。マイルス・デイビスなんてあれだけ演奏スタイルも興味の方向も変わっているのに、ずっと"帝王"って呼ばれていたし、ピカソだってず~っと変わらなかったらピカソじゃないと思う。僕が大尊敬するウォルト・ディズニーだって最初は絵描きだったけど、その後アニメの監督をやり、それもまたやめた。彼は将来、遊園地なんて作ろうなんて毛ほども思ってなかったんじゃないですか(笑)。そんなふうに考えると、変わっていくことって、案外大事なことなんじゃないかなって思うんですよ」

変化を変化として受け止め、楽しむ――。世の中のさまざまな変化を見届けてきた馬場監督の言葉には、説得力と変わらないポリシーを感じた。良い意味で時代の流れに左右されながらも、自分自身と向かい合い常に新しいテーマを見つけ進んでいく……移り変わりの激しい日本で生きていくための一つのヒントが見えたような気がする。監督作『バブルへGO!!~』で80年代~90年代~現代の激しい変化を眺めてみるのもいいかもしれない。

馬場康夫 プロフィール

1954年 東京生まれ。大学卒業後、同級生たちと設立したホイチョイ・プロダクションズで制作活動を行う。日立製作所に勤務していた1981年に「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載『気まぐれコンセプト』を開始。以降、『カノッサの屈辱』、『TVブックメーカー』などの深夜番組の企画や、『東京いい店やれる店』(1994年)などの書籍企画に携わる。また、1987年の『私をスキーに連れてって』で映画監督デビュー。代表作に『彼女が水着にきがえたら』(1989年)、『波の数だけ抱きしめて』(1991年)などがある。

『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』ストーリー

2007年。着実に回復していると思われていた日本の景気だったが、実は深刻な危機を迎えていた。バブル崩壊後の景気対策のために増えた国の借金が800兆円に上り、日本経済破綻は目の前だったのだ。そんな破綻のシナリオにピリオドを打つべく、財務省大臣官房経済政策課の下川路功(阿部寛)と研究チームは洗濯機型のタイムマシンを開発。タイムスリップしてバブル崩壊を阻止しようと企む。下川路は元恋人の田中真理子(薬師丸ひろ子)を1990年3月に送り込んだが、真理子は行方不明になってしまう。計画を断念しかけた下川路だったが、真理子の娘・真弓(広末涼子)の存在を知り、計画を続行。今度は真弓がタイムスリップする。真弓を待ち受けていたのは、バブル絶頂期の東京。ワンレン・ボディコン、DCブランドで着飾った若者たちが街を闊歩していた。真弓は戸惑いながらも、若い頃の下川路を見つけ出し、協力を仰ぐことに。果たして、真弓は、母親を救出することができるのか? バブル崩壊を食い止めることができるのか?

『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式 スタンダード・エディション』
発売元・フジテレビジョン/電通/東宝/小学館 3,990円

『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式 スペシャル・エディション』
発売元・フジテレビジョン/電通/東宝/小学館 5,985円

スペシャル・エディション版には、劇中で首相に就任した下川路功(阿部寛)に八木亜希子が1990年から2007年までの日本の経済・スポーツ・メディアなどの変遷についてインタビューする番組『総理に聞く』(DVDのための撮り下ろし)や、キャストインタビューを織り交ぜたメイキング映像、『デジタルコミック~デジタル気まぐれコンセプト』など、様々な特典映像が収録されている。