6月下旬から7月上旬にかけて、第42回世界遺産委員会が開催されました。今回は19件の遺産が新たに登録され、総数は1,092件となりました。リストを眺めてみても聞き慣れない場所が多く、日本語訳が定まっていない地名すら見受けられます。

  • グリーンランドは南極に次いで世界で2番目に大きい氷床をもつ(写真提供: Jensbn)

    グリーンランドは南極に次いで世界で2番目に大きい氷床をもつ(写真提供: Jensbn)

そんな中で、ひとつの遺産に目が止まりました。デンマーク領であるグリーンランドで、狩猟と採集によって生き抜いてきたイヌイットの生活を伝える景観が登録されていたのです。世界遺産には、少数民族にゆかりのある景観や生活圏が比較的多く登録されています。民族の独自性や文化の多様性を知る手段として、世界遺産はとてもいい教材になるのではないかと思います。

一生会うこともないであろう存在に出会う

イヌイットといえば、筆者が思い出す映画があります。2013年に公開された「ゼロ・グラビティ」です。宇宙空間に取り残された宇宙飛行士を描いたもので、イヌイットの姿はもちろんどこにもないのですが、実は「声」で出演しています。救援を求めるヒロインと偶然無線でつながったのは、なぜかグリーンランドで電波を拾ったイヌイットの男性でした。その男性側から見た短編スピンオフ「アニンガ」はYouTubeで観ることができます。

  • 1910年代のイヌイットの家族

    1910年代のイヌイットの家族

一面雪に覆われた世界で、傍らに何匹もの猟犬を連れた男性が話す言葉はイヌイット語なので、英語で必死に語りかけるヒロインとは会話が通じません。でも、地球と宇宙がつながった瞬間でした。

世界遺産もちょっと似てると思うのです。見たこともない風景や、一生会うこともないであろう地球上の様々な人々と、島国に住む私たちをつなぐひとつの手段、視点が「世界遺産」なのではないかと思います。短編映画の中の無線はあっけなく途切れてしまいますが、世界遺産は訪れたり調べたり映像で見たりするなどの、様々な方法でアクセスすることができます。

  • 一部のイヌイットは、オーロラの中に祖先の魂が宿っていると考える

    一部のイヌイットは、オーロラの中に祖先の魂が宿っていると考える

さて、世界遺産アカデミー(世界遺産検定事務局)の本田、小俣、宮澤が連投してきたこの連載も、今回をもって終了することとなりました。これまでの記事が、みなさまの視点を少しでも広げることのお役に立てたのであればとてもうれしく思います。そしてこれからも、世界遺産が皆様と世界をつないでくれることを、心より願っています!

世界遺産データ

『アアシヴィスイトからニピサット:氷と海の間に広がるイヌイットの狩猟場』文化遺産、2018年登録、デンマーク

プロフィール: 本田 陽子(ほんだ ようこ)

「世界遺産検定」を主催する世界遺産アカデミーの研究員。大学卒業後、大手広告代理店、情報通信社の大連(中国)事務所等を経て現職。全国各地の大学や企業、生涯学習センターなどで世界遺産の講義を行っている。

世界遺産検定とは?

世界遺産の背景にある歴史、文化、自然等の理解を深め、学んだことを社会に還元していくことを目指した検定。有名な観光地のほとんどは世界遺産になっているため、旅の知識としても役立つと幅広い世代に人気。
主催: 世界遺産アカデミー
開催月: 3月・7月・9月・12月(年4回)
開催地: 全国主要都市
受検料: 4級3,000円、3級4,500円、2級5,500円、1級9,700円、マイスター1万9,000円、3・4級併願7,300円、2・3級併願9,500円
解答形式: マークシート(マイスターのみ論述)
申込方法: インターネット又は郵便局での申込
その他詳細は世界遺産検定公式HPサイトにて。
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