……ムッハー! 部屋を出るなり熱いため息がこぼれた乃木坂。あれだけ妖艶な女性たちに囲まれたら、それも仕方ありません。国立新美術館で現在開催中の「ミュシャ展」、大変に見応えがありました。20世紀の稀代の画家アルフォンス・ミュシャが晩年を過ごしたのが、芸術都市プラハです。

中世の街並みが残る世界遺産「プラハの歴史地区」

今回の舞台となるプラハは、チェコの首都。14世紀の半ばにボヘミア王カレル1世が、神聖ローマ帝国皇帝カール4世として即位したことで高い水準の芸術と教育がもたらされました。音楽、文学、絵画……今も芸術が街角に息づく中世都市を訪れたのは、先ごろ大学を卒業したばかりの22歳女性。ドイツ文学科を卒業して、この春からメーカーの事務員として社会人生活を始めて1カ月。今夜の独文女子会は、楽しかった卒業旅行の話題で持ちきり。

新入社員の22歳女性、プラハの卒業旅行を懐かしむ

あっという間の1カ月だったわね。毎朝同じ時間に起きるのはシンドイけど、今のところはなんとかなってるかな。学生時代がもう懐かしいわ。こないだの卒業旅行で散々遊んだからもう悔いはないけどね。

それにしてもプラハ、いいところだったよねぇ。一番の目当てだったフランツの生家跡にも行けたし、『カフカの家』もかわいかったし。あんな小さな家で夜な夜な執筆していたフランツのことを想像するだけでたまらないわぁ。カレル橋を渡ってプラハ城に行くまでの道もきれいだったなぁ。いつまでもたどり着かないことをどこかで期待している自分もいたけどね。

どこを通っても中世の街並みが広がっていて、イタリアとかフランスとは違う風情があるのが良かったわ。教会の屋根がとんがっていたり、街全体が暖色だったり……。ミュシャの美術館も良かったけど思ったより小さかったから、絵をじっくり観るなら国立美術館に分があるわね。あ、ビールもう一杯くださ~い。

そう言えばビールが安かったよね、プラハ。レストランで隣の席のおじさんがバドワイザーの話をしてくれたけど、全くガイドブックにも書いてある情報と同じだったのには、笑ったわ。ご飯もおいしいし、毎日飲みすぎるくらい飲んだけど、あんたが酔っ払って歌い出した時にはさすがに他人のふりをしようかと思ったわよ。

ヴルタヴァ川でモルダウを歌うのだ』なんて若気の至りもいいとこね。まったく。スメタナを歌ったら酔いが醒めたな、ってうるさいわよ。今日の二次会はカラオケ? ♪ボヘ~ミアのか~わ~よ~……ってどこにカラオケでモルダウを歌う20代女子がいるのよ! 独文女子ならKraftwerkのThe robotsが今夜一番気の利いた選曲じゃないかしら」。

独文女子会が温まっているところで、用語解説いってみましょう。

今回の押さえておきたい用語たち

高い水準の芸術と教育
中欧で最古の大学であるプラハ・カレル大学は、1348年にカール4世によって創立された。高い教養を備えたカール4世は芸術と学問が帝国の首都に必要だと考え、芸術家や学者を各地から招聘(しょうへい)した。今日プラハで見られる建築には彼の時代に建造あるいは再建されたものも多い。

カール4世が建造させ、自身の名を冠したカレル橋はプラハの観光スポットだ

あっという間の1カ月
社会人1年目の最初のひと月は、概してあっという間に過ぎていく。責任と残業の少ない1カ月は、覚えることも多いがだいたい楽しいものである。初任給の使い道をどうしようか。

フランツ
プラハに生まれ、ドイツ語で著したチェコを代表する作家フランツ・カフカ。この独文女子は親しみを込めてフランツと呼んでいる。代表作にグレゴール・ザムザがある朝目覚めると害虫になっていた「変身」がある。その与えた影響の大きさから、ドイツ文学だけでなく世界中の文学において参照されるひとり。

カフカの生家前は「フランツ・カフカ」広場になっている。小さい広場だが、付近には作家のレリーフもあるので探してみよう

カレル橋を渡ってプラハ城に行く
ともに世界遺産登録範囲にある建造物。カレル橋はカール4世によって1357年に建設が始まり15世紀はじめに完成したゴシック様式の石橋。プラハ城は旧王宮のほか聖ヴィート大聖堂や聖イジー教会などの特徴的な建物を敷地内に有する。プラハ観光の代表的スポットである。

丘の上にあるプラハ城は、町のどこからでも見える

いつまでもたどり着かない
カフカの代表作のひとつ「城」は、測量士Kが目の前に見えている城にいつまでも入ることのできない話である。

プラハ城の敷地内にある聖ヴィート大聖堂

教会の屋根がとんがっていたり
プラハは「百塔の街」と呼ばれるほど、尖塔をもつ建物が多い。19世紀初頭に、作家ヨーゼフ・フォン・ホルマイルが自作の中で、チェコの数学・哲学者ベルナルト・ボルツァーノが数えた103の塔に着想を得てこう評したとされる。今日では尖塔の数は400とも500とも。

プラハには尖塔をもつ建築が多い。写真は世界遺産登録範囲にあるティーンの聖母聖堂

ミュシャの美術館
プラハ中央駅から800mほどのパンスカー通り7番地にある美術館。彼女が語るとおり、小ぢんまりとしていてギャラリーのよう。ミュシャのポスター作品をいくつか観ることができるが、大作シリーズ「スラヴ叙事詩」は後述の国立美術館のヴェレトゥルジュニー宮殿に展示されており、こちらも必見。なお、冒頭に紹介したミュシャ展ではこの「スラヴ叙事詩」が全20点来日展示されている(チェコ国外で全作品が展示されるのは初めて)。

国立美術館
展示作品に対応した分館がプラハ市内にいくつもある美術館。「スラヴ叙事詩」のあるヴェレトゥルジュニー宮殿では、アンリ・ルソーの「自画像」やグスタフ・クリムトの「乙女」など他にも目を見張る作品が多く展示されている。プラハ訪問の際にイチオシの美術館。

フランスの画家アンリ・ルソーの自画像。筆者は中学校の美術画集で見たこの絵を思いがけずプラハで見ることができて感動した

ビールが安かった
チェコはひとり当たりのビール消費量が世界一(「キリンビール大学」レポート2015年より)を誇るビールの国としても有名で、安くておいしいビールは旅人の特権。カフェやレストランで一杯150円ほどで楽しむことができる。日本で主流のビールの種類ピルスナーは、チェコのプルゼニという町が発祥のスタイルで、そのオリジナルである「ピルスナー・ウルケル」という銘柄は世界中に流通している。

ふらっとレストランに入って、出てきたビールはピルスナー・ウルケル。150円くらい

ヴルタヴァ川/スメタナ
ドイツ語名のモルダウ川としても知られる、プラハを流れるチェコ最大の河川。プラハで活躍しチェコ音楽の祖と称される音楽家スメタナの「わが祖国」第2曲『モルダウ』を中学校音楽で習った人も多いはず。プラハを訪れヴルタヴァ川のほとりに出たら、この旋律を思い出す旅人は多いだろう。

ヴルタヴァ川とプラハ城。プラハは夜に見ても美しい

バドワイザーの話
アメリカのビールの代名詞ともいえるバドワイザーだが、その由来はビール醸造の盛んなチェコのブジェヨヴィツェ市(ドイツ語名: ブトヴァイス)にある。この地のビールに感銘を受けたアメリカ人がアメリカで立ち上げたのが今日日本でも知られる「バドワイザー」である。

ブジェヨヴィツェで今も作られている「ブドヴァイゼル」ビールも、「バドワイザー」もつづりは同じBudweiserであり、商標の問題でアメリカ国内では「ブドヴァイゼル」は「チェコバル」と呼ばれ、EU圏内の多くの国では「バドワイザー」は「バド」として販売されている。……という小ネタをチェコ人が好んでするかは不明だが、日本のチェコ・ガイドブックにはしばしば登場する小話である。

プラハ駅の売店で買ったビールは、"チェコ"のバドワイザーだった

The robots
ドイツのテクノグループ、クラフトワークが1978年にリリースした曲。「我々はあなた方が望むことを何でもやるためにプログラムされているのです。我々はロボット。」といった歌詞で人間社会を皮肉っている。ドイツ語版の歌詞もあり。ちなみに「ロボット」という言葉は、プラハで活躍し、プラハに没した作家カレル・チャペックによって作られたものである。

テクノミュージックの創始者クラフトワークの曲「The Robots」

世界遺産データ

『プラハの歴史地区』。文化遺産。1992年登録、2012年範囲変更。チェコ

プラハへのアクセス

筆者プロフィール: 小俣 雄風太(おまたゆうた)

「世界遺産検定」事務局の編集広報部員。自転車ロードレースに魅せられ、本場フランスに1年留学。その後、イギリスのサイクリングアパレルブランドで広報を務め、世界各地で自転車に乗るうちに世界遺産を強く意識するようになる。検定を通じて世界遺産の魅力と意義を広めたいと奮闘中。

世界遺産検定とは?

世界遺産の背景にある歴史、文化、自然等の理解を深め、学んだことを社会に還元していくことを目指した検定。有名な観光地のほとんどは世界遺産になっているため、旅の知識としても役立つと幅広い世代に人気。
主催: 世界遺産アカデミー
開催月: 3月・7月・9月・12月(年4回)
開催地: 全国主要都市
受検料: 4級3,000円、3級4,500円、2級5,500円、1級9,700円、マイスター1万9,000円、3・4級併願7,300円、2・3級併願9,500円
解答形式: マークシート(マイスターのみ論述)
申し込み方法: インターネット又は郵便局での申し込み
その他詳細は世界遺産検定公式WEBサイトにて。
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