テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、中小ベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める高森厚太郎氏が、「ファシリテーション」に必要なスキルやマインドについて語ります。

  • ファシリテーションのスキル、マインドとプロセスについて


数字とロジックで経営と現場をExit(IPO、M&A、優良中堅)へナビゲートする。ベンチャーパートナーCFO、高森厚太郎です。

今回は、CFOが会社の成長マネジメントをするにあたり、経営者とどう議論していけばいいのか、「中小ベンチャー経営者とのディスカッションスキル」の3つ目、「ファシリテーションのスキル、マインドとプロセス」についてです。

良い会議はプロセスと目的達成が担保されている

皆さんにも覚えがあると思うのですが、世の中には出たくない会議があります。何のための会議なのか目的がわからない、限られた人間の独壇場になっている。逆に誰ひとり発言せず盛り上がらない、レジュメを読めばわかる内容をひたすら聞かされるだけ。あるいは議論があちこち飛んだり、噛み合わずに迷走したり、だらだらと結論がなかったり、結論の出し方が強引だったり……。

出たくない会議の裏返しが、出たい・出てもいい会議、すなわち良い会議になります。例えば予定していたことがきちんと決まる、時間どおりに終わる。参加者の顔ぶれや参加人数が適切。また会議終了後、具体的に何をすればよいかがわかる。多くの人から建設的な意見が出る。決められたことに対して、参加者の納得感があるなどなど。

整理すると、良い会議とは「プロセス(議論の過程と意思決定のなされ方)に納得感があり、目的(なんらかの意思決定がなされ、決定事項に基づいて会議メンバーが具体的に行動に移ることができる)が達成される会議」です。

良い会議の場では、より多くの人の知恵を借りてより良い結論が生まれ、納得感と責任感を持ってその後、その結論を実行していくことができます。短い時間でベストの結論とコミットメントを得られるのが良い会議なのです。

良い会議にするファシリテーションというサポート技術

会議が「良い会議」にならない場合、議論する内容(議題や情報)やプロセス(進行や議論の手法、メンバーへの働きかけ、その場の雰囲気)などに問題があることが多いです。ここに会議を生産的・効率的に進めるためのファシリテーションというサポート技術が必要になってきます。

  • ファシリテーションのプロセス

狭義のファシリテーションは、純粋に会議を円滑に進行するサポート技術です。まず参加者にその会議なり議論なりにきちんと参加してもらうこと、そして参加者の議論を活性化させ、最後に議論をまとめるところまでをフォローします。

しかし、ビジネス全体としては、会議で結論を出すことがゴールではありません。その後に実行してもらうことが重要です。また、いきなりその場で議論させるよりも会議前に最善の事前準備をしてきてもらう方が議論は活発化するものです。こうした事前準備から会議後の実行までをも含めた全体をサポートするのが広義のファシリテーションになります。

この一連のファシリテーションの「場」をマネジメントするのがファシリテーターです。ファシリテーターの役割は「会社のビジネス上のゴール(成果創出)に向かって関係者間の議論を通じて最善のプランと最善の実行体制を作るプロセスをマネジメントすること」と言えます。

ファシリテーターは、会議(議論)の参加メンバーからより良い結論を生み出すための知恵(頭)を引き出し、さらには出てきた結論を行動に移していくための力(気持ちと体)を引き出さなければなりません。

そのために、参加メンバーが知恵を出しやすい健全かつ建設的な「場」を作り上げると同時に、参加メンバーが行き着いた結論に自発的・自律的にコミットしていく「場」を作り上げることが大切です。

ファシリテーションのポイント

ファシリテーションのプロセスごとに、うまくさばくためのポイントがあります。

事前の「参加メンバーに最善の準備をしてもらう」フェーズでは、最適なメンバーを最適な人数で選ぶ、議題を決めて事前に共有する、事前に準備してほしいことをあらかじめリクエストしておくようにしましょう。会議の時間と場所しか伝えないと、参加者は会議の準備の仕様もないからです。

会議当日の「議論に参加してもらう」フェーズでは、会議の目的・目標を改めて冒頭共有する、会議の段取り・ルールを定めて共有徹底する、物理的・心理的に意見の言いやすい場づくりを行うことが大切です。例えば、ドラマ「半沢直樹」の役員会議室のような重厚なスペースでは、物理的に意見の言いやすい場にはならないでしょう。

会議最中の「議論を活性化する」フェーズでは、会議の交通整理を行う、わからない情報や言葉の通訳を行う、ホワイトボードを使って議論の見える化をする、発言へのリアクションで盛り上げを図るように心がけましょう。会議が盛り上がらない、横道にそれていく、結論が出ない、時間通りに終わらないのは、参加者が迷子になっているからです。

会議最後の「議論をまとめる」フェーズでは、積み残しを確認しつつ結論をまとめる、次のアクションの確認をすることが重要です。会議プロセスの納得感は最後の積み残し確認でも担保できます。

CFOなりCOOなり、責任ある立場として会議に参加する場合、是非このファシリテーターとしての機能も発揮してみましょう。

執筆者プロフィール : 高森厚太郎

一般社団法人日本パートナーCFO協会 代表理事。
東京大学法学部卒業。筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。現在は数字とロジックで経営と現場をナビゲートするプレセアコンサルティングの代表取締役パートナーCFOとしてベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める。著書に「中小・ベンチャー企業CFOの教科書」(中央経済社)がある。