テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、コンサルティング会社と会計事務所の代表を務め、スタートアップを中心に会計面・資金調達面からサポートを行っている岡野貴幸氏が、「フリー・キャッシュフロー」について解説します。

  • Amazonに学ぶ「フリー・キャッシュフロー」の最大化


前回の連載では、キャッシュフロー経営の重要性について記載し、世界的なEコマースの会社であるAmazonの財務戦略はとにかく「フリー・キャッシュフローの最大化」ということをお伝えしました。今回は、このフリー・キャッシュフローの最大化をどのように行っているかお話しします。

まず、フリー・キャッシュフロー(FCF)とは何でしょうか。FCFは細かい定義は様々ありますが、簡単に言うと、会社が事業活動で稼いだお金のうち、自由(フリー)に使える現金がどれだけあるかを示すものです。

計算式も様々あるのですが、一般的に使われるのは下記のものです。
【FCF】 = 「営業キャッシュフロー」 - 「投資キャッシュフロー」

ポイントは、"営業利益"ではないということです。営業利益がマイナス(赤字)の状態であっても、営業キャッシュフローはプラスという状態を作ることが出来ます。

さて、ここで今回の本題ですが、AmazonのFCFはどうなっているのでしょうか? Amazonの決算書を見ると、営業キャッシュフローが大きくプラスとなっています。しかし、営業利益は売上高に対して数パーセントであり、決して大きくはありません。

これは、大きく分けると2つの理由が考えられます。
(1)売上になる前に資金回収が出来ている。つまり物が売れる前に入金があるということ。(2)会計上(損益計算書上)費用にはなっているが、支払が遅い。

シンプルではありますが、この2つを徹底して突き詰めていくと、利益が赤字であっても営業キャッシュフローがプラスという状態を作ることが可能となります。

Amazonの場合、(1)はマーケットプレイスでの預り金がひとつの大きな要因と言われています。Amazon以外の業者でも出品できるサービスのマーケットプレイスでは、消費者からの支払いはAmazonが一括して受けています。その後、Amazonの手数料を数パーセント差し引いて数週間後に業者(出品者)に返すという仕組みになっています。

Amazonからすると売上に計上されるのは数パーセントの手数料のみですが、キャッシュとしては販売金額全額分を数週間に渡って預かることになります。そして、この預かっている期間分は自由に使えるお金となるのです。

預かっているものなのだから、それを使うことは出来ないと多くの人は考えるでしょう。預かっているお金がなくなってしまっては大問題です。その問題が起こらないように保有しているキャッシュとのバランスが非常に重要となり、高い管理能力が求められます。ただ、このバランスを維持しつつ回せる仕組みを構築していることは、営業キャッシュフローをプラスにする大きな要因となるのです。

(2)の要因のひとつには、圧倒的な商品購買力を理由として、直販分の仕入れ先への代金の支払期間を、かなり先に設定していると言われています。その間にキャッシュが使えることになるからです。この点は、日本でも昔からある「手形取引」の文化を思い浮かべれば、我々も理解しやすいのではないかと思います。

Amazonは、こうして生み出した大きな営業キャッシュフローを、ガンガン投資に回しています。そのため投資キャッシュフローは毎年大きなマイナスとなっています。財務的にこの仕組みを構築していることが、成長を続けている大きな要因となっていることは間違いありません。

日本では、損益計算書の利益を重視する傾向にあります。もちろん利益を上げていくことが前提なので、損益計算書は大事ですが、成長のスピードを速めたいと考えた時には、FCFをより強く意識すると良いと思います。サービス導入時からFCFを最大化することを考えて、仕入・販売・決済の業務フローを構築していきましょう。

執筆者プロフィール : 岡野貴幸

ゴージュ株式会社 代表取締役、ゴージュ会計事務所 代表公認会計士
立教大学経済学部卒業。大学在学時に公認会計士試験に合格。大学卒業後、あずさ監査法人国際部に入社。上場企業の法定監査、国際会計基準導入支援業務を経験。実家は埼玉県で3代続く税理士事務所を経営しているが、ゼロから立ち上げ新しい会計事務所の形を作りたいと一念発起し、2014年に独立。岡野公認会計士事務所(現、ゴージュ会計事務所)を設立。同時にコンサルティング会社であるゴージュ株式会社を設立。成長する企業を会計面・資金調達面からサポートしたい想いから、スタートアップを中心にサービスを行っている。クラウドを駆使し徹底した経理の効率化、事業計画の作成、資金調達を得意とする。