エッセイスト、ライターの小林久乃です。この世にいろいろなタイプの女性がいることは重々承知をしています。でもときには危険レベルを発している女性の姿が、チラホラ……。安全な生活を送るため避けているのですが、書き手として、敢えて近づいてみることもあります。

そんな女性たちを私は"あかん女"と呼んでいます。

では一体どのような、あかん行動に出てきたのか? を紹介したいと思います。読むだけではイメージをしにくいと思いますので、ご本人に近いドラマの役どころになぞらえてみました。ちなみにこの男性バージョンは、近著のコラムに収録しています。こちらもヤバい、まずい男性たちの醜態をガッチリと。

コロナ騒動で混沌した世の中ではありますが、このコラムが一息になりますように。

「ひいちゃん」と呼ばれて背中に走る戦慄

2011年に放送された『名前をなくした女神たち』(フジテレビ系)。幼稚園ママたちによる壮絶なマウンティングストーリーだったのだが、中でも倉科カナ演じる新藤真央の存在が、今思うと"あかん女"だった。ママのリーダーを崇拝して、セレブを偽装。裏ではママたちについていく資金が足りず、キャバクラで働く。また、こんな一面もあった。腰巾着のようにつきまとっていたリーダー格にも、ちょっと気に入らないことがあればすぐに突き放す。感情の起伏が激しいのだ。

そんな真央の様子を見ていたら思い出したのが、とあるエステティシャンのAさんだ。

元々は友人の紹介で知り合ったのだけど、私との距離感を縮めるスピードが異常に早かった。いきなり『出会えてよかった』と会った翌日に届くメール。男性に言われるならまだしも、女性に言われるのはなんだか歯が浮き立つ。そして一番ドキッとしたのは、

「ひいちゃん」

と、出会って早々にあだ名で呼ばれたことだ。この呼び名、私の『久乃』という名前から来ているのだけど、東京では誰にも呼ばれた記憶がない。たいがいは呼び捨てか、さん付け、ちゃん付け。『ひいちゃん』と呼ぶのは地元の親戚だけだ。私はここで違和感を感じた。いや、ちょっとした恐怖だと呼んでいいかもしれない。

それからもAさんの私に対する接近攻撃は続く。いい書籍のネタがあると呼び出されると、自著伝をディレクションしてほしいと、唐突な猛烈アピール。しばらくすると、会員制レストランへ行きたい、著名人を紹介してほしいとおねだりの連打。実は新しいビジネスを考えている、と匂わせてくる。数々の私に対するリクエストはさり気なく、でもどこか強く踏み込んでくるものがあった。ただこの時点で、彼女のあかんぶりには辟易していたので、リクエストを聞くつもりもなかった。

オフの顔はネットワークビジネスの虜

そう思っていたところに、Aさんが世界レベルの巨大ビジネスネットワークに加わっていることを知る。巧妙な接近術の回答はここにあったのだと、納得。私に対する最終ミッションはこのビジネスに関する勧誘だろうと察知したところで、メールの返信をやめた。こちらから猛スピードで距離感を広げた。向こうも気づいたのか、追ってくることはなかった。

それから、Aさんほどの強烈さはないけれど、取材で会った女性Bさん。彼女も「(港区の)パーティーにご一緒できたらと思って! 有名人の〇〇さんも来るんですよ!!」ミーハーな一面を匂わせながら、私との距離を縮めてようとしてきた。そして早々に

「ひさりん」

と、これまた珍しい呼び方をされた。私への踏み込み方以上に、気になったのは彼女の書き癖。よくSNSで『ご縁』という単語を使って文章を発信していたのだ。もちろん悪い言葉ではないので、突っ込みどころもないけれど頻発されると、なんだか歯痒い。そして第二の疑問は、いつも彼女は金欠だとボヤいていたこと。彼女の職業は歯科医だ。金欠という言葉は相応しくない。

その後、仕事の縁がなくなったのでいい機会だと、必要以上の連絡を控えるようにした。同タイミングで知人からBさんが、怪しげなヒーリング会に加入していることを知人から聞かされる。素人が聞いてもカルト宗教の臭いが漂ってくる、危険な集団だった。加入者は高額なセミナーを受講するための費用や、お勧めグッズの購入が必要らしく、そのために金欠だったらしい。

とりあえずLINEはブロック。さようなら。

こうして文字にしてみると彼女たちの"あかん"ぶりは分かりやすい。まずは、お近づきの一歩に“特別な呼び名”で呼んでくる。そして、わかりやすいほどミーハー。たくさんの“お友達”がいる。これが共通項だ。もし、周囲を思い返して同じようなタイプの“あかん女”がいたら、ほどよく距離感を保っておこう。人生はそんなに長くもない。面倒臭い案件に時間を割いているのなら、美味しい酒でも飲みに行こうじゃないか。

しかし、だ。まるでスクラップ&ビルドのように次々と、ターゲットへ喰らいついていく姿勢、あきらめの早さの"あかん"。実はビジネスにはいい作用をもたらすのかもしれない。

小林久乃

エッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。エンタメやカルチャー分野に強く、ウェブや雑誌媒体にて連載記事を多数持つ。企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊を超え、中には15万部を超えるベストセラーも。静岡県浜松市出身、正々堂々の独身。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。