3GPP(Third Generation Partnership Project)が5Gの新しい仕様となる「リリース16」の標準化を完了させたましたが、そこで追加された機能の中でも今後の無線通信のあり方を大きく変えるという意味で注目されるのが「NR-U」です。これは免許不要で利用できる周波数帯で、5Gの通信を使えるようにするというものなのですが、その実現によって注目されるのはWi-Fiとの競合です。→過去の回はこちらを参照。

免許不要の5GHz帯で5Gが利用可能に

モバイル通信の標準化団体である3GPPは2020年7月3日、「リリース16」の標準化作業を凍結し、つまり標準化が完了したことを発表しました。リリース16の標準化作業は新型コロナウイルスの影響で大きく遅れていたのですが、ようやく完了したこととなります。

リリース16では、5Gが持つ3つの特徴のうち「低遅延」に関する性能強化やデバイスの省電力を支援する機能、基地局とコアネットワークの接続に5Gの通信方式「5G NR」を用いて無線化する「IAB」(Integrated Access Backhaul)など、さまざまな機能が追加されています。しかし、そうした中でも今後の無線通信のあり方に大きな影響を与えそうなのが「NR Unlicensed」(NR-U)です。

これは、免許不要で利用できる周波数帯(アンライセンスバンド)で5G NRによる通信をできるようにするもので、分かりやすく言ってしまえばWi-Fiと同じ感覚で5Gが使えるというもの。リリース16ではアンライセンスバンドのうち5GHz帯をサポートするとされています(米国では6GHz帯もサポートされるとのこと)。

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    「Interop Tokyo Conference 2020」のエリクソン・ジャパン藤岡氏講演資料より。3GPPのリリース16ではアンライセンスバンドで5Gが利用できる「NR-U」が定義されている

ちなみにNR-Uの使い方には大きく2種類が存在しています。1つは、携帯電話会社などに免許が割り当てられた周波数帯(ライセンスバンド)と、アンライセンスバンドを組み合わせて通信する「Anchored NR-U」であり、通信事業者が特定の混雑する場所で、大容量通信を実現するために活用することなどが想定されています。

そしてもう1つは、そしてアンライセンスバンドだけを用いて通信する「Standalone NR-U」です。こちらであれば免許不要の5GHz帯で5Gの特徴をフルに生かした通信ができることから、クリティカルな作業が求められる産業用途での5G活用がしやすくなることが期待されています。

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    クアルコムのブログより。NR-Uにはライセンスバンドと組み合わせて利用する「Anchored NR-U」と、アンライセンスバンドのみで利用できる「Standalone NR-U」の2つの形態が存在する

Wi-Fiとの競合範囲は拡大、住み分けはできるのか

実はモバイルの通信方式をアンライセンスバンドで利用する仕組み自体は、LTEの時代から存在しています。実際、3GPPではAnchored NR-Uと同様、ライセンスバンドにアンライセンスバンドのLTEを組み合わせて利用するLTE-LAA(Licensed Assisted Access)という仕組みを標準化しており、米国のAT&Tをはじめ海外では実際に使われている例もあります。

ですがNR-Uは、Standalone NR-Uの定義によってアンライセンスバンド単体でも使えるようになったことが、従来との大きな違いといえるでしょう。それだけに注目されるのは、やはりアンライセンスバンドで広く利用されている通信規格であるWi-Fiとの競合です。

実際LTE-LAAの前身というべき「LTE-U」という規格に関して、Wi-Fiの業界団体であるWi-Fi Allianceは、LTE-Uに他の通信機器が同じ周波数帯を使っているかどうかを確認する「LBT」(Listen Before Talk)という機能が備わっておらず、Wi-Fiの通信に影響を与えることを理由に反発。導入を推進するモバイルの陣営との対立が続いたこともありました。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第21回

    「Mobile World Congress 2015」のクアルコムブースで実施されていたLTE-LAA/LTE-Uのデモ。アンライセンスバンドをモバイル通信で活用する取り組みはLTEの時代から存在し、その頃からWi-Fi陣営との確執も存在していた

この時は、後にLBTを取り入れたLTE-LAAを3GPPが標準化し、そちらの採用が進んだことで事なきを得ましたが、モバイル側がアンライセンスバンドの活用に踏み切ってきただけに、両者の確執が全くなくなった訳ではないようです。しかもアンライセンスバンド単体で利用できるNR-Uの登場によって5GがWi-Fiと直接的競合する可能性が出てきただけに、再び両陣営による衝突が起きる可能性は小さくないと考えられます。

とは言うものの、NR-Uはモバイルの技術をベースに作られた新しい規格であり、機器を提供できる企業も限られることから当面低コスト化が見込みにくく、5Gの高い性能を必要とする企業向けの導入に留まる可能性が高いでしょう。Wi-Fiには既に一般家庭にまで広く普及しており、Wi-Fi 6の登場で低コストでもギガ単位の通信速度を実現できる強みがあることから、NR-Uがその座を直接揺るがすとは考えにくく、一定の住み分けが図られるのではないでしょうか。