前回から、乗り物(ヴィークル)を動かす過程ではなく、生み出す過程において情報通信技術が大活躍しているという話を取り上げている。今回は、クルマと飛行機を題材に、CAD/CAMの使われ方、3Dモデリング、自動運転について紹介しよう。執筆にあたっては、3D CADを提供しているダッソー・システムズに協力いただいた。

試行錯誤・比較検討の負担を軽減

昔は、エクステリアやインテリアのデザイン・プロセスでは、紙とペンでイメージ図を描くしかなかった(今でも行われていそうだが)。また、シフトノブみたいに直接手に触れる部分は、クレイを削ってさまざまな形状のモデルを作っていたが、これは手間がかかる作業だ。

これが、運転席からの視界や内部空間の取り合いといった問題になると、紙だけでは対応しがたい。

クルマではなく飛行機の話だが、「実大模型審査」というプロセスがある。実機と同じサイズ・形状の模型を木で作って、コックピットからの視界や、計器盤や各種操作系へのリーチのしやすさ、機器室へのアクセスのしやすさを確認するのが目的だ。飛行機だけでなく艦船でも、同様のプロセスを用いる場合がある。

飛行機の実大模型を部外者が目にする機会はほとんどないが、幸いにも日本では、航空自衛隊の浜松広報館にF-2戦闘機の、かかみがはら航空宇宙博物館(リニューアルのため、平成30年3月24日まで一時閉館中)にOH-1ヘリの、それぞれ実大模型が展示されている。

話を元に戻す。コンピュータ上で3次元モデルを構築してデジタル・モックアップ(DMU)を作れば、いちいち木を切ったり削ったりつないだりして、巨大な実大模型を作らなくても済む。旅客機の場合、デジタル・モックアップ導入の嚆矢はボーイング777だそうだ。

さらに現在では、これがファンクショナル・モックアップ(FMU)に進化している。DMUでは形状・寸法をモデリングしているが、FMUでは機能・動作もモデリングの対象に加える。そのDMUやFMUの機能がCATIAに組み込まれているので、設計と検証の反復を効率的に行える。

視界の検証も、3次元モデルがあれば作業がだいぶ楽になる。ピラー(柱)などが邪魔して視界を妨げる場面はないか、着座位置を変えたときに視界がどう変わるか、といったことを、すべてコンピュータ上で検証できるからだ。

インテリアの3次元モデルを作ると、空間の取り合いだけでなく、配光の検証もできる。つまり、照明装置、あるいは窓から入ってくる外光によって、室内がどれぐらい明るくなるか、影になる部分ができないか、といったことを検証できる。

つまり、コンピュータ上で3Dモデリングを行うことの真髄は、「試行錯誤の負担を軽減すること」だといえる。従来なら、あれこれと計算したり図面を描いたり、あるいは実際にモノを作ってみたりしなければ検証できなかったことが、コンピュータ上で実現できるからだ。

すると、さまざまな案を比較検討する作業が容易になる。それは結果として、よりよい製品を生み出すための努力に振り向けられるリソースを増やすことにつながる。また、現物ができてから慌てる事態を避けやすくなり、開発リスクの低減にもつながる。

以下の動画はオートバイを対象としたものだが、製品企画段階でのコラボレーション、コンポーネントやアセンブリの設計、それらの動作検証と最適化、製品化のための出図、表面デザイン、などといったプロセスを見せてくれる。

CATIA | Mechanical & Shape Design Engineering

システムズエンジニアリングに関連する機能

クルマの話を続けると、最近では衝突回避、クルーズコントロールと車線逸脱防止、さらには自動運転、といった分野の話が話題になることが多い。いずれをとっても、搭載するセンサーで周囲の状況を認識したり、クルマ同士、あるいはクルマと地上のシステムの間で情報をやりとりしたり、という話がついて回る。

また、センサーから得た情報、他のクルマから得た情報に基づいて自車を適切に制御する、という課題もある。わかりやすいところでは、前車追従型のクルーズコントロールがそれだ。

ウェポン・システムの世界では以前から、System of Systems という言葉が頻出している。つまり、個別の機能を実現するシステムだけでなく、それらが互いに連接・連係して動作する、より巨大なシステムが存在するという話だ。クルマの自動運転も、やはり System of Systems の一例だといえる。

また、先行車に追走する自動運転機能も、車両同士が連携動作するという点でSystem of Systems だ。これについては拙稿「軍事とIT」の第154回「車両の無人化と自動走行」で取り上げたことがある。また、空の上では無人機の群制御(複数の無人機が自律的に一緒に動くよう制御すること)に関する研究がなされている。いずれも、複数のヴィークルが自律的に、互いに連携・影響し合いながら動くことになるので、センシングや制御が重要な課題になる。

そうなると、どういう技術をどう連携させるか、あるシステムの挙動が他のシステムの挙動にどう影響するか、といった点を検証する必要が出てくる。そこでも、ダッソー・システムズの製品群に含まれているシステムズエンジニアリング分野の支援機能、あるいはシミュレーション機能といったものが役に立つわけだ。

また、FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)にも使えるかも知れない。 つまり、どこかの部位や機器で不具合や故障が生じたときに、他の部位や機器にど影響が及ぶかを検討する場面である。

コンピュータを使わなければできないこと

空間の取り合いを検討するだけなら、木製の実大模型でも実現はできる。しかし、電気配線同士、あるいは電気配線と電子機器の間で発生する可能性がある電磁波干渉の問題は、実大模型では分からない。過去にはひょっとすると、実際にモノができあがってみてから大騒ぎ、ということもあったかもしれない。

ところが今では、電磁波干渉をシミュレートするソフトウェアがあるのだという。それがあれば、「この空間に電線を通すと、横にある電子機器に悪影響が及ぶ可能性がある」といったことが事前に分かるから、現物を作る前に検証や見直しができる。

つまり、最終的にできあがったモノの物理的な精度や緻密さが大幅に向上するわけではないかもしれないが、それを実現するためのプロセスが迅速になり、間違いを減らせると期待できることになる。

コンピュータの活用による設計作業の合理化という点で、面白い話をひとつ紹介しよう。お題は「飛行機のエンジンを機体に取り付ける部分のブラケット(固定用の金具)」である。これは昨年のJA2016において、ダッソー・システムズのブースで伺った話でもあるのだが。

サンプルのブラケットは、エンジン側に円筒形の受金がひとつあり、機体側はボルト穴が4カ所ある。金属の塊だから、それなりに重い。所要の強度を持たせた上で、できるだけ軽くしたい。

そこでCATIAを駆使するとどうなるか。パーツがすでにある場合、受金やボルト穴の位置は決まっている。既存の機体のパーツであれば、荷重条件もすでに分かっている。そこで、形状や荷重条件といった、制約要因となるデータを入力していく。

しかし、いくら軽くて丈夫な設計ができても、それを実際に作れなければ話にならない。飛行機で使用する金属部品は、鋳造、鍛造、削り出し、最近だと3Dプリンタ、といった具合にさまざまな製作方法がある。

製作方法が変われば、設計に求められる条件も変わる。鋳造なら、できた製品が型から抜けなければ困るし、削り出しなら工作機械が入り込めなければ製作ができない。そういった条件も、荷重条件などと併せて入力する。

すると、設定した条件に合わせて、コンピュータ上で最適と考えられる形状を決めて、三次元モデルを生成してくれる。3Dプリンタが使える環境なら、そのデータをそのまま3Dプリンタに送り込むことで、部品の製作まで一貫して行える。もちろん、実際に使うには強度試験や耐久試験が必要になるが、そこに至るまでのプロセスが迅速になる。

受け金やボルト穴の位置、荷重条件が同じでも、製作方法によってブラケットの最適形状は異なる。それを、条件を与えることで自動的に割り出してくれれば、設計の負担を軽減できる