本連載では、Twitter Japan(以下、Twitter)の協力のもと、季節や特定のイベントに関するツイート内容と、その盛り上がり状況の解析に基づき、Twitterのトレンドを活用したマーケティング手法について考えていく。

2本で1セットとし、前編では、Twitterでリサーチャーを務める櫻井氏に監修を依頼し、特定テーマに関してTwitterのトレンドを分析してもらい、インフォグラフィックで分かりやすく解説していくほか、このインサイトを活かしたプロモーションプランを提案。一方、後半では、マイナビニュース編集部が実際に当該テーマに関してTwitterを積極的に活用する企業に取材を行い、その事例をインタビュー形式にて紹介していく。

第3回となる本稿では、第1回の"【映画編】の後半としてワーナーを取材し、実際に映画のプロモーションとしてTwitterがどう活用したのかを紹介する。

お話を伺ったワーナー エンターテイメント ジャパン マーケティング本部 バイスプレジデント 高橋雅美氏(左)とマーケティング本部 メディア/オンライン シニアマネージャー 吉田英央氏(右)

邦画、洋画を問わず、SNS上で映画のプロモーションを目にする機会が増えた。とくにTwitterである。SNSを使いこなす若年層を中心に働きかけるマーケティングが盛んになっている。実際に映画タイトルで検索すると「◯◯面白かった!」「◯◯良かった!」といった口コミを、若い世代が活発に投稿しているのが見て取れる。

1月26日、日本映画製作者連盟(映連)が発表した「国内映画産業統計」によると、2015年の興行収入(映画館の売上高)は2,171億1,900万円と前年比で4.9%増、入場者数は3.4%増(1億6,663万人)と堅調に成長している。

少子高齢化のこの時代、業界をより一層盛り上げるために、ワーナー・ブラザースは映画配給会社としてどのようなことを念頭に置いて、マーケティングを仕掛けているのだろうか?

若い男性をどう取り込むか?

メディアの報道で「若者の映画離れ」なんて話を見ることもあるが、「実際そんなことはない」と高橋氏は語る。

「10~20代の方は映画をよく観ています。ただ、若者が減っていくと言われるぶん、全体のパイをいかに広げるかが大事だと考えています」(高橋氏)

そのカギを握るのが、やはり影響力・拡散力のある若い世代。一般の若者が「面白い」「観たい」と口コミしたものは、SNSや口コミを通じて上の世代にも波及していく、というのが高橋氏の見立てだ。

「とくに10~20代の女性はアクティブかつトレンドをリードする方々で、とても大事なマーケットです。女性同士で『これが面白い、あれが面白い』と盛り上がり、共感し、話題が生まれる。実際に映画人口は『レジャー白書』やNTTコムリサーチのデータにによると 、女性が56%、男性が44%と上回っているんです。デートでも女性が観たい映画に男性がついていく、というケースは少なくありません」(高橋氏)

ワーナー エンターテイメント ジャパン マーケティング本部 バイスプレジデント 高橋雅美氏

一方で、若い男性をどう取り込むかには、課題もあると高橋氏は語る。口コミ力は若い女性に及ばず、SNS上でも映画の感想などをアクティブに投稿している印象はない。

もちろん男性の中には映画のコアファンが多く存在するが、コアファンの熱をいかにライトユーザ―に伝えることが出来るかが、現状の課題となっている。

ネットで映画情報を入念に調べて劇場に行くのが日本人

そのための仕掛けとして、映画配給会社はどんな取り組みをしているのか? 高橋氏は「単に作品を知っているだけでは、映画館に足を運ぶ動機とはならない」と指摘した上で、こう語る。

「映画館での映画鑑賞にはお金だけでなく、時間の問題もあります。ライトユーザーには映画感に足を運んでもらうためには、『この作品は面白い』だけではなく『観に行っておかないといけない』というところまで、持ってく必要があります。』(高橋氏)

人々の気持ちをそこまで高めるには、周囲の人が発する「作品についてのコメント」がポイントになる。加えて、映画情報に接してもらうタッチポイントを増やし、拡散を高める事も重要だ。

たとえば、バットマンとスーパーマンが戦う『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(3月25日公開)では、「バットマンかスーパーマン、どちらを彼氏にしたいか?」といった切り口でニュースを配信すると、ヒーローものが好きな男性だけでなく、女性にとっても親しみのある話題になる。さらに、身近なテーマだからこそ、SNS上で言及されやすくもなる。そういった、話題になりやすいトピックまで落とし込んで、宣伝を行っているのだ。

施策を展開し始める時期は決まっているのだろうか。そう聞くと、高橋氏は「作品によってまちまち」と回答する。

「たとえば、洋画でオリジナル作品ともなれば、多くの日本人にとって親しみはないでしょうから、公開半年~1年前くらいから準備してもおかしくありません。決して早過ぎることはないですね」

それぞれの映画において、必要なだけ告知に時間をかける。とくに、日本人には作品の中身がある程度わかってから、劇場に足を運びたいという特徴が顕著に見られるという。

「今の日本では観たいものを決めてから行く、という流れが強くなっています。だからこそ、早いうちからニュースを配信して『この映画に行きたいね』という思いを醸成してもらいます。昔、インターネットは映画が封切られてから評判をチェックするツールでしたが、映画の内容を調べる媒体にかわり、最初に映画の情報を入手したり、友達と情報交換したりする媒体に変わってきたと考えています」(高橋氏)

映画ファンはTwitterで情報収集、コミュニケーションする率が高い

ここからは、昨年6月20日に公開された『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の事例をもとに、具体的な施策を見ていこう。同作品は世界各地に熱狂的なファンを持ち、アカデミー賞にもノミネートされた名作だ。吉田氏は公開およそ3カ月以上から始めたメディア施策をこう振り返る。

「SNSオーガニック投稿及び広告を中心にWebメディアを使ったPRを行いました。とくに注力したのはTwitterで、広告はプロモツイートとプロモトレンドを使用しています。前者では公開前に映像の魅力を伝えるため、プロモビデオを用いて映像の迫力を推しました。その投稿のリツイートが増え、映像が拡散する中で言の葉にのるようになり、話題の素地づくりに成功したと思います。

後者は公開後に実施し、『#マッドマックス』『#マッドマックスヤバい』のタグを通じてユーザー同士が会話できるよう、見たファンが口コミを生みやすくなるための取り組みでした。次第に一人の方が何度も投稿するようになり、拡散が生まれ、最終的には200万ツイートを突破する快挙となりました。

Twitterでリサーチャーを務める櫻井氏が監修したTwitterユーザーと映画のつながりがわかるインフォグラフィックを見ても、Twitterユーザーのうち、1年に1回以上映画を観る映画ファンの割合は71%にも及んでいます。うち、映画に関するツイートを見かけるTwitterユーザーは77%、映画に関するツイートを検索するTwitterユーザーは62%との結果も特徴的です。

これを見ると、映画ファンがTwitterを使うパーセンテージの高さが伺えます。私たちとしては、今後もTwitterを使いこなし、映画ファンであるTwitterユーザーとの会話や映画の告知を積極的に行っていきます」(吉田氏)

ワーナー エンターテイメント ジャパン マーケティング本部 メディア/オンライン シニアマネージャー 吉田英央氏

加えて、同作品のように「固定ファンが確実についている作品」については、Twitter上でオーディエンスターゲティングする際、ファンを解読することが先決だと、吉田氏は語る。ファンに対し「◯◯が映画化される」「こんな映像が出る」などと伝えることは欠かせない。

「その他、キャストが出演する番組について会話するユーザーをターゲットで切るなど、モーメントをつかむことが重要だと考えています。ファンがいるところに行って、彼らが何を見ているのか、正しく理解しなければなりません」と吉田氏は締めくくった。

Twitter Japan

米Twitter社は2006年に創立され、その役割は、アイデアや情報を生み出したり、それをすぐにほかの方々と共有するパワーを世界中の方々に提供すること。毎月3億2,000万人以上に利用され、毎日5億件以上のツイートが行われている。Twitter Japanはその日本法人となる。