注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。

今回の“テレビ屋”は、『有吉ゼミ』『ヒルナンデス!』『マツコ会議』『有吉の壁』といった番組で企画・演出を務める、日本テレビの橋本和明氏。ド直球のお笑いから情報バラエティ、さらにはドラマまで、幅広いジャンルの番組を手がけているが、制作にあたって根底で意識されていることとは――。


坂上忍・ヒロミ・田中美佐子らが本気になる理由

橋本和明
1978年生まれ、大分県出身。東京大学大学院修了後、03年に日本テレビ放送網入社。『不可思議探偵団』でゴールデン初演出、『ニノさん』『マツコとマツコ』『日本アカデミー賞授賞式』『卒業バカメンタリー』『住住』などを担当し、今年は『Sexy Zoneのたった3日間で人生は変わるのか!?』で企画・演出、『24時間テレビ41』で総合演出。現在は、『有吉ゼミ』『ヒルナンデス!』(火曜日)『マツコ会議』『有吉の壁』で企画や演出などを務める。

――当連載に前回登場した放送作家のそーたにさんが、橋本さんについて「気づいたら坂上忍さんが家買おうとしてたり、ヒロミさんがリフォームしてたり、タッキー(滝沢秀明)が黙々と働いてたり、田中美佐子さんが全国で漁をしてたり…他にもなかなかのオールスターがものすごく労力を割いて、しかも結果、誰も損をしてない。どうやって口説いたんだっけ? そのあたりのパワーが面白いです」とお話ししていました。

『有吉ゼミ』という番組は10月で5年になったんですけど、そもそもは“芸能人の私生活から学ぶ”というのが立ち上げのきっかけだったんです。昔のテレビは、キラキラしたスターの方がものすごく遠い存在だったと思うんですが、もうそういう時代は終わって、芸能人も私たちと同じように生活をしている人間だから、当たり前のように自分の家を買い、リフォームしたかったら直す…という生活をしてるのではないかというのが企画の原点に1つありました。

その中で、坂上さんと打ち合わせをしたときに「やりたいことはなんですか?」と聞いたら、「ワンちゃんのための別荘を探してる」という話をされて、「じゃあそれを番組にしましょう!」となって「坂上忍、家を買う。」という企画がスタートしたんです。ヒロミさんも、自分で家のリフォームをされているという話を聞いて、「せっかくなんで番組でやらせていただいてもいいですか?」というのがスタート。こちらが作ったことじゃなくて、その方の本質としてあるものをテレビにしているからすごくリアルだし、他ではなかなかできない形になっていると思います。それは、今のテレビにとってすごく大事なことかもしれません。

――企画がスタートするときは、まずタレントさんを決めてヒアリングするのですか? それとも、あの人がこんなことをやっているという情報を仕入れて、企画化を提案するのですか?

ケースバイケースですね。スタッフのリサーチも優秀で、美佐子さんに関して言えば、釣り雑誌で連載していたという話を見つけてきてくれる。会議で「これはもしかして釣りに並々ならぬ情熱があるのではないか」という話になって、オファーしたら受けてくださったんです。普通、女優さんに「釣りの企画やりたいんですけど、漁に行きませんか?」って言ってもOKしてくれないですよね(笑)。それを町尻Pや横澤Pが口説いてきてくれる。今のテレビって、昔より番組を立ち上げるのが大変だと思うんです。そのときに、その人が持ってる本質の力をお借りして番組を作らせてもらうというのは、1つ手法としてあるのかなという気がしています。

  • 『有吉ゼミ』(日本テレビ系、毎週月曜19:00~)
    (写真左から)“秘書”の水卜麻美アナ、“教授”の有吉弘行 (C)NTV

対象の芸能人を好きになって魅力を見せる

――そうして企画を走らせるときに、気をつけている点はありますか?

「坂上忍、家を買う。」という企画では、坂上さんって毒舌なイメージがあったんですけど、家を見てるときは少年の目をしてるんですよ。「なんだこれー!」とか「このリビングすごい!」と喜ぶ坂上さんがとても素敵で、さらに音効さんがVTRにスピッツの爽やかな曲をあててくれて。そしたら、後で坂上さんから「僕、スピッツ好きなんです」って言われたんですけど、このように、視聴者が持っているイメージを逆手に取ってギャップを見せたい、他の番組では見せない演者さんの一面を見せたいということは気をつけてますね。僕は、わりと一緒にお仕事をする芸能人の方を好きになっちゃうタイプのディレクターなので、対象の方をすごく好きになって、その人の魅力をちゃんと見せたいと思うことが多いです。ギャル曽根さんのチャレンジグルメ企画は、業界3年目の若手ディレクターが担当しているのですが、曽根さんの食べっぷりが大好きらしく、そこをちゃんと見せてくれてます(笑)

――そーたにさんは、橋本さんについて、「とにかく引き出しが謎」ともおっしゃっていましたが、根底には演者さんを好きになるということがあるんですね。

まず、有吉(弘行)さんが好きで『有吉ゼミ』をやらせてもらっているんですけど、有吉さんって、物事の本質を一瞬で見抜く瞬発力がすごいんですよ。ギャル曽根さんの大食いを見てるときに、画面の端で誰かが箸を止めていると「もう休んでんじゃん! お腹いっぱいになってるよ!」って、見逃さないんです。僕らにもVTRの面白がり方を、違った目線から教えてくれる人なんですよ。ゲストが来たときも、そのキャラクターの面白さを徹底的に広げてくれます。その瞬発力のすごさというのがずっと頭の中にあって、僕自身も大学時代に落語研究会に所属していてお笑い番組をやりたいという想いもあって。飲み会で相談させていただいたら、意気投合して『有吉の壁』を企画させていただきました。

『有吉の壁』は、芸人さんの即興ネタに有吉さんが「◯」「×」で判定していくんですが、ネタを見せた瞬間に手放しで爆笑できるネタもあれば、有吉さんが「×」を出すことで「ヒドい!」と言って初めて笑えるものもあります。それも有吉さんが瞬間で判定していて、本当に鋭いんですよ。まさに、有吉さんがMCだからできる番組ですね。

そこで、常連のシソンヌに出会うんですが、彼らのコントが異常に面白い。感動してライブを見に行ったらその完成度にさらに感動させられて(笑)、じろうさんとドラマの企画を一緒に作りましょうという話になって。そのアイデアを面白がっていただき、ジャニーズWESTの藤井流星さんと濵田崇裕さん主演の『卒業バカメンタリー』というドラマにつながりました。だから、まず人を好きになって、その人の才能を生かしたいと思うと、いろんな方が同じようにホレ込み、力添えをしてくれて自然と形になっていくんですよね。基本的に、そういうプロセスで全部の番組が成り立っているから、そーたにさんには手数が多いように見えるかもしれないですけど、実は同じ構造なんです。