テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第191回は、19日に放送された日本テレビ系バラエティ特番『笑神様は突然に…2021秋SP』(19:00~)をピックアップする。

この番組は“笑いの神が降りてきた瞬間”を凝縮して見せるロケバラエティ。他局が特番を乱発する中、レギュラー番組でしっかり勝負する日テレが年3~4本ペースで放送していることが、その価値を物語っている。

今回は「チーム竹内涼真」「IKKOの開運ルームツアー」「チーム千鳥」「笑神恒例!若手芸人ロケバトル」の4本立て。コロナ禍でロケの難易度が高くなっている今、改めて番組の魅力を掘り下げていきたい。

  • 千鳥の大悟(左)とノブ

    千鳥の大悟(左)とノブ

■1本目は「イケメン+美食」ロケ

番組は、内村光良のタイトルコールからスタジオトークがスタート。「笑いたいゲスト」の小松菜奈が紹介され、宮川大輔、千鳥とのトークがはじまったものの、わずか1分程度で終了した。それでもスタジオトークからスタートしたのは、「スタジオメンバーが視聴者と同じように『ロケVTRを見る』という目線を分かりやすく入れる」ことと、「MC・内村の存在感を示しておきたいから」だろうか。

まずは「チーム竹内涼真」がピックアップされ、料理にこだわる竹内が「奥多摩で究極のカルボナーラを作る」という。メンバーの笠松将、浜口京子、ハライチ・澤部佑が呼び込まれたあと、すぐに「隠れ絶景までサイクリング」「超高難度アスレチックに挑戦」「究極の食材でクッキング!」という3つのポイントが画面表示された。映像ではなく文字でサッと見せたことでテンポよく映像に入っていける。

旅の過程を箇条書きしていくと……

・サイクリングの最中に竹内と浜口が即興の恋愛芝居でひと笑い
・大自然の中でハードなアスレチックに挑戦するが、ほぼ笑いなし
・ニジマスのつかみ取りで笠松がバケツを使ってひと笑い

いずれもダイジェストのように短時間で終わり、アッという間にメインのカルボナーラ作りがはじまった。

日本各地から集めた4つの食材「世田谷の幻の青い卵」「淡路島のタリアテッレ(生パスタ)」「日光の熟成バラベーコン」「ニセコ町のミモレットチーズとパルメザンチーズ」を紹介したあと、世田谷の青い卵は現地とリモートでつなぎ、丸山礼のリポートがスタート。

しかし、その数分後の調理シーンで、チーム竹内涼真のロケ現場に丸山がシレッと参加した。まったく説明のない強引な編集だが、「笑いの量とテンポを優先させたこの番組らしい」ようにも見える。実際、丸山はロバート・秋山竜次のモノマネですぐに笑いを取っていたし、「全然似ていない」ニセ竹内涼真の登場も含めて、追加キャストの投入はアクセントになっていた。

調理工程の少ないカルボナーラはすぐに完成し、食事シーンもアッサリ終了。最後にリーダーの竹内が締めのボケとして「ぴったんこカン・カンのナレーションで今日のまとめ」をしゃくれ顔で披露したが、浜口に妙な俳句をかぶせられて終了。イケメン+美食+ほどよい笑いの1本目にふさわしい構成だった。

■「チキータ」「通行人」に笑神降臨

2つ目のロケは「IKKOの開運ルームツアー」で、IKKO、宮川大輔、見取り図、元乃木坂46・松村沙友理が、神奈川県川崎市のプール付き格安リゾート物件へ向かった。一行は“IKKOの極細ピンヒール”や“家族風の寸劇”などで笑いを重ねたあと、IKKOが突然まじめに語り始めたところで、千鳥の2人が異議を唱えて、内村がVTRをストップ。

ノブ「このやり口、何なんすか?」、大悟「ワシらんときもそうだった」、ノブ「さんざんふざけ倒して、ここは(感動的な感じで)締めてくる」、大悟「(IKKOは)『笑うたらダメよ』の顔」とたたみかけて、ロケの笑いを増幅させた。これこそ「スタジオトークでも必ず千鳥の時間帯を作り出し、その上で他の芸人たちを輝かせる」と評価される彼らのすごみだろう。

続いて8,980万円という物件価格が公開され、リリーが「買います」、IKKOが「お買い上げ~!」という妙なボケ&ツッコミのコンビで笑わせた。さらに、リリーはIKKOのピンヒールを勝手に履いてプールに落下。ここでもVTRはストップされたが、IKKOのヒールは約13万円のルブタンであり、最近のゴールデンタイムではなかなか見られない思い切りの良さが光っていた。

千葉県佐倉市に移動した2軒目は、いかにもゴージャスな庭付きのデザイナーズハウス。見取り図に代わってフワちゃんとAマッソ・加納が合流してボケ倒したが、こちらの物件は1億3,800万円だった。どちらも間取りこそしっかり紹介していたものの、テーマの開運ポイントはごくわずか。そもそも「IKKOがいるだけで開運っぽいムードがあるからOK」なのかもしれない。

3つ目のロケは「チーム千鳥」で千葉県勝浦へ。メンバーは千鳥、平成ノブシコブシ・吉村崇、なすなかにしという経験豊富な中堅芸人と、「ほぼバラエティロケは初めて」の若手女優・工藤美桜で、さらに途中から「ここ2年くらい外に行ったことない」という卓球の水谷隼が加わった。

このチームはロケ巧者が集っただけあって、笑いの手数は圧倒的。だからこそ、「水谷選手との卓球対決でノブが最後にまさかのチキータを決めて劇勝」「『危険 通行注意』と書かれた洞窟でのボケ合戦で、吉村がボケているときにまさかの地元住民バイクが通行」という笑神様が舞い降りたシーンが撮れたのではないか。視聴者が「やはり笑神様は愚直に笑いを追求する人のもとに舞い降りるのかも……」と思ったとしたら、制作サイドの勝ちだろう。

■これこそHuluの長尺版ではないか

4本目は「笑神恒例!若手芸人ロケバトル」。“番組常連を目指すオーディションバトル”というコンセプトで、ハナコ、錦鯉、三四郎、天竺鼠、NMB48の梅山恋和、渋谷凪咲、小嶋花梨が参加し、静岡県初島で「オープニング」「グルメリポート」「ショッピング」「化け物」「自由演技」「寝起きドッキリ」「水落ち」という7つのバトルを繰り広げた。

ただ、全組が全てのボケを披露できたわけではなく、その半数以上がカットされたのではないか。さすがにチーム千鳥のあとは厳しかったか、たまたま空回りしてしまったのか。笑いのボリュームは右肩下がりの印象が残った。

また、それ以上に「もったいない」と思ってしまったのは、コーナー最大の笑いになっていたかもしれないNMB48こん身のボケ(寝起きドッキリ)を予告映像でさんざん流していたこと。「見てもらわなければ始まらない」という理屈は分かるが、笑いの瞬間風速を測るようなこの番組では、伏せておいたほうがブランディングや信頼につながるのではないか。

最後に内村が「最も笑神様が降りたシーン」に選んだのは、“化け物をやろうとする瀬下を止めた川原”だった。そのリプレイを流しながら番組は終了したが、視聴者にしてみれば最も笑神様が降りたのは「洞窟の吉村にバイク」か「リリーのルブタン水落ち」のどちらかだろう。しかし、その基準のルーズさこそがこの番組のゆるさを担保していて、笑いの量を競うガチンコとのバランスが取れているのかもしれない。

計4本のロケは各30分弱のペースにまとめられていたが、そのコンパクトさを実現させていたのはカット割りの速さと細かさ。さらに、映像の距離感や明暗のメリハリ、テロップなども含めて日テレらしい編集の工夫が詰め込まれている。「笑いが足りなければバッサリ切る」という勇気もあり、スタッフの仕事が随所に光っていた。

結局終わってみれば、千鳥のすごさが際立った結果だったのではないか。スタッフも編集で千鳥をイジって生かし、スタジオで本人たちを笑わせるなど、彼らあっての番組である様子がうかがえる。その千鳥に食らいついたなすなかにし、サポート役に回りながらボケをはさむ吉村崇も含め、最高峰のお笑いロケがそこにあった。

もちろん芸人ばかりではなく、俳優やアイドルなどさまざまなタレントのロケもあるから、より楽しめるのだが、これこそ「Huluでの長尺版があればお金を払ってでも見たいのに」と思ってしまう。

これだけの出演者をキャスティングしながら番宣出演は極めて少なく、コロナ禍の影響もさほど感じさせなかった。これほど万能で流行廃りのないコンテンツだからこそ、日テレは繰り返し特番として放送しているのだろう。

■次の“贔屓”は…ゲストは芸能界引退間近の夏目三久! 『A-Studio+』

笑福亭鶴瓶(左)と夏目三久

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、24日に放送されるTBS系バラエティ番組『A-Studio+』(毎週金曜23:00~)。

笑福亭鶴瓶とKis-My-Ft2・藤ヶ谷太輔がゲストの家族や親友などを極秘取材し、「他番組では見られないゲストの素顔を引き出す」というコンセプトのトークバラエティ。次回のゲストは9月での芸能界引退を発表している夏目三久だけに、いつも以上に注目を集めるだろう。

放送では「アナウンサーとしての原点」である学生時代の恩師が登場するほか、夫・有吉弘行との新婚生活について語ることが予告済み。残りわずかの芸能生活となった今、何を語るのか。「MC2人の力と番組のポテンシャルが試されている」という感もある。