テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第140回は、20日に放送された日本テレビ系バラエティ特番『うわっ!ダマされた大賞2020』をピックアップする。

「日本テレビのドッキリ」と言えばこの番組。『世界の果てまでイッテQ!』のスタッフとキャストが中心の番組だけに、明るさとわかりやすさを前面に出したドッキリが多く、笑いの密度が濃い。主に年2回ペースで放送されて20回目を迎える今回は、「生放送や新しい生活様式のドッキリもある」というから楽しみだ。

レギュラー放送されているフジテレビの『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』、TBSの『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』との比較も含め、掘り下げていきたい。

  • 『うわっ!ダマされた大賞2020』MCの内村光良(左)と羽鳥慎一

■『半沢直樹』の裏だからこそ生放送

番組冒頭、初の生放送であることが明かされると、MCの内村光良が「なぜ生放送を初めてやるのか、ワケがわかりません。ソーシャル(ディスタンス)でやりにくいのに、なぜこの時期に……」とボヤいた。裏番組の『半沢直樹』(TBS系)対策と言われているが、あえてそれをチラつかせるオープニングトークはベテランの余裕を感じさせた。

スタジオのゲスト出演者たちは合成で画面下部に配置されているのだが、最初のドッキリはその中の「出川哲朗だけイスがゆっくり回転する」というシュールな笑い。「大仕掛けのドッキリを連発!」とあおるより、こんなゆるい出だしのほうが現在の視聴者感情にフィットするのではないか。

ここで生放送の軸となるドッキリがスタート。千葉県某所と中継でつなぎ、「おかずクラブ・オカリナが幻の光るキノコを探すニセ番組のロケ中に、さまざまなハプニングが降りかかる」という趣旨が明かされた。ただ、すぐにスタートするのではなく、まずは前振りだけで、進行役の羽鳥慎一が「だいたい8時30分くらいに放送されます」とアナウンス。丁寧なフォローは視聴者感情に寄り添う誠実さを感じさせた。

最初のドッキリは、「アノ人やこの人が新しい生活様式でダマされた」。アルコール消毒液が実は熱々のごま油だったというドッキリなのだが、爆発したり、洗面所からも飛んできたり、サーモグラフィーで顔が熱くなっている様子を見せるなど芸が細かい。

次のドッキリは、体温計を額に当てると血のりが出て、鏡を見たら冷却ガスが噴射。さらに、額に「バカ」のスタンプを押され、鏡からもクリーム砲が出るというドッキリも、各1人のオンエアにしては芸が細かい。ちなみにターゲットの王林は避けてしまったため、クリーム砲のおかわりを受けるシーンも放送された。何気ない構成だが、控えめながらも「ガチなんです」「やらせはしません」というメッセージを感じさせられる。

再びスタジオに戻り、いよいよ生ドッキリの一発目に突入。ターゲットが現れる前の廊下から放送しているため、収録放送ではありえない間があり、進行役の羽鳥らが「生放送ですから来ない場合もあります」「トイレに行く場合があるかも」などとトークでつなぐ様子が臨場感たっぷりだった。

ほどなくフワちゃんが現れたが、「手の消毒をしようしたらテーブルが壊れる」という小さなドッキリだったためか、微妙なリアクションのみで終了。ただ、生放送であることを知らされると驚いた顔を見せたように、こちらがメインのドッキリなのだろう。やはりハプニングの可能性がある生放送は楽しいだけに、「不発に終わってもいいから、もっと生ドッキリを見たい」と思った人は多かったのではないか。

■「グダグダ」も見せるバリエーション

次のコーナーは、「あの新婚夫婦がダマされた」。今月5日に結婚したばかりの丸山桂里奈・本並健治夫妻のキャンプロケ中に爆発が起き、「転倒して逃げ遅れた丸山を本並が助けるかを検証する」という企画だった。

しかし、案の定と言うべきか、仕掛け人の丸山が挙動不審になったあげく、「転倒後に自ら立ち上がりおんぶをねだってしまう」というミスを起こしてドッキリは台なし。VTRが終わってスタジオに降りると、内村が「反省内容はキャスティング」とまとめて笑わせたが、これは最初から「仕掛け人がグダグダ」というドッキリのバリエーションを見せようとしたものなのだろう。

その後、放送されたコーナーは、26名が参加したアクションリレー動画「ダマされたアクションリレー」、罪深き女性タレントたちに映画パロディ絡みのドッキリを仕掛ける「ダマサイト 半地下の家族」、ANZEN漫才・みやぞんへの生ドッキリ「消毒液が止まらず、拭こうとしてもティッシュが出ない」。

とりわけ「ダマサイト 半地下の家族」は、ターゲットが半地下に落とされる仕掛けから、空中ブランコの細工、黒い液体が飛び出す便器、半地下のディテールまで、美術のクオリティに驚かされた。特番とレギュラー番組の違いはあれど、他局より笑いの手数が多いのは、「バカバカしいことに細部までこだわる」という美術の力が大きいのではないか。

そして、冒頭に紹介された生ドッキリの目玉であるオカリナの中継は、3回にわたって放送。「第1話 発煙筒が爆発」は、オカリナの背負ったリュックから発煙筒が爆発するというドッキリだったが、リアクションは薄く、スタジオのフォローもなしで、そのままCMへ。

続く「第2話 キノコが臭い でも食べる」では、臭いキノコを口にしたオカリナが「味はキノコです……」とまたも薄いリアクション。スタジオの内村が「何なんでしょうかね。モヤモヤで終わりっていうね」とボヤくと、フワちゃんが「完成度0点じゃん」とバッサリ斬った。しかし、これもあくまで笑いの一種。生放送=ガチンコたるゆえんであり、編集で完成度アップばかりを求めがちな現在のバラエティとは一線を画す魅力があった。

「最終話 光るキノコと熊と穴」では、着ぐるみの熊に驚いたオカリナがアッと言う間に落とし穴へストン……。編集でのあおりがないため、あっけなさを感じさせたが、スタッフに抱えられて穴から脱出したオカリナには蛍光塗料がベットリついていて、「自分自身が光るキノコだった」というオチが待っていた。

■コロナ禍を乗り切る“選択と集中”

これ以外では前述したコーナーの合い間に、「滝沢カレン 伝説の横バンジー 地方人情ドッキリ」「もう一度見たい名作ライブラリー」「内村ツッコミ道場」「羽鳥のツッコミ道場」という過去の名作ドッキリが放送された。

つまり、「過去映像が思いのほか多かった」ということだ。感染予防の観点からドッキリの幅が狭くなり、ターゲットのほとんどが中堅芸人に偏るのも、今回は仕方がないだろう。ただ、「ダマされたアクションリレー」「半地下の家族」は力が入ったコーナーだったことも確かであり、その意味では“選択と集中”が適切にできていたようにも見える。

最後に、「最優秀ダマされた大賞」が発表され、選ばれたオカリナが“賞金3万円”を獲得。この人選と賞金が「スケールの大きさではなく、ゆるく楽しむ」という番組のカラーを象徴していた。内村は締めくくりのコメントで「初の生放送でしたけども、ホントに『半沢』の裏で何やってんだ」と話して笑わせたが、挑戦した甲斐はあったのではないか。

フワちゃん、みやぞん、オカリナが仕掛けられた生ドッキリは、ネタもターゲットも小粒だったが、それでも「どうなるんだろう」と思わせるライブ感は十分。スタジオトークの面白さもあり、最後に長澤まさみが番宣で噛んでしまったシーンも含めて、今後も続けてほしいと感じさせた。

特番とレギュラー番組を比べるのはフェアではないことを承知で書かせてもらうと、『ドッキリGP』『モニタリング』と比べても、やはり笑いの密度、人々のニーズに沿うような率直さ、生放送に挑む大胆さでは、かなり上を行っていた。これらはそのまま日テレのバラエティ全体に当てはまるものだけに、まだまだ独走状態が続くだろう。

■次の“贔屓”は…「笑いだけで8時間生放送」の衝撃! 『お笑いの日2020』

『お笑いの日2020』 (C)TBS

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、26日に放送されるTBS系バラエティ特番『お笑いの日2020』(14:00~21:54)。

今週末の注目番組と言えばこれしかないだろう。「お笑いだけの8時間生放送」「総勢126名の芸人が集結」と聞いただけで、年に一度のお祭りムードを感じてしまうのではないか。

注目のタイムテーブルは、『音ネタFES』から、『ベスト・オブ・ザ・ドリームマッチ』『ザ・ベストワン』とつなぎ、『キングオブコント2020』で締めくくるという。コロナ禍で重苦しいムードに覆われる中、ネタ番組のニーズは間違いなく増しているだけに、圧倒的なライブ感で話題を独占するとともに、過去最大級の笑いを期待したい。