人はなぜ成功体験を引きずってしまうのだろうか。やはり良い思い出だから? それはあるいは、子どもの頃、回転寿司でウニの軍艦巻きなんて見向きもしなかったはずなのに、ある時に美味しいウニの味を覚えてしまって以来、その味を追い求めてウニの皿を手に取ってしまうようなものと似ているのだろうか。しかし、大抵の場合、最初に美味しいと感じた時ほどウニは感動的ではないはずだ。想定内の味だからかもしれないし、当時の衝撃が美化されているからかもしれない。

前回のコラムで『情報プレゼンター とくダネ!』(フジテレビ系)終了について取り上げたが、そのコラムが掲載された翌日に後番組が発表された。その名も『めざまし8』。「めざましえいと」と読むが、私はこのタイトルを聞いた瞬間、テレビマンとして「無難にきたな」と思ってしまった。

3月29日にスタートするニュース情報番組『めざまし8』でメインキャスターを務める谷原章介

なぜ無難なのか。それは視聴者から支持を受けている『めざましテレビ』の良い流れをそのまま引き込みたいという狙いが、あからさまだからである。つまり、お茶の間の人に地続きで観てもらいたい。そのためにタイトルにあえて『めざまし』の4文字を入れる。そしてダメ押しとして『めざましテレビ』のテイストを入れるために、おなじみの永島優美アナをメインキャスターに起用する。これはもう『めざましテレビ』と一体化して観て下さい、と言っているようなものである。

そして、その無難さに拍車をかけるのが、永島アナの相手役(本来は主従が逆なのだろうが)の谷原章介氏。かつてはTBSの情報番組『王様のブランチ』でMCを務めた経験を持ち、現在はABCテレビ『パネルクイズアタック25』の総合司会者である。つまり、MC、司会者として十分な実績を持っていて、それほど突拍子のない人選ではなかったということだ。本人はニュースは初めてだと話しているが、大丈夫。テレビマンの誰もが「谷原さんは慌てる姿を見せない」と信じているから(笑)。ニュースに必要なのは信頼性。バタついているキャスターのニュースを誰が信用するかということだ。あえて心配な点を挙げるのであれば、『アタック25』の収録日との兼ね合いくらいか。平日に大阪で収録だったら、さすがに朝番組に支障が出そう……。

話を少し戻して、改めてタイトルについて考えていこう。『めざまし8』は、朝8時スタートということを強調しつつ、フジテレビ=8チャンネルの8でもあるし、「いろんな意味があって良すぎるくらいじゃない?」と内輪で盛り上がったのではないだろうか。いや、フジだから、盛り上がっていてほしい。それくらい軽い気持ちのほうがフジっぽくて好印象だと、三冠王時代の深夜番組にくぎ付けとなっていた私は思う。ちなみにそのタイトル決定にも関わったであろう、フジの情報制作センターの部長は、他局の朝番組を追い抜き、同時間帯1位になった時の『めざましテレビ』のディレクターだったという情報もある。なるほど、ここにも成功体験があるのかと妙に納得してしまう。

8、エイト、瑛人……

ところで、永島アナが抜けることで、同時に玉突きのように『めざましテレビ』のキャスター陣が少しシャッフルされる。すでに出演しているキャスターだが、メインが変わる、いわゆる"回し"が変わることによって、新陳代謝のような効果が生まれるに違いない。だからと言って、番組内で発表した際に、永島アナもスタジオにいるのに「春からフレッシュな新MC」とか、「めざましパワーアップ」とかスーパーを入れてしまうのはいかがなものか。観ているこちらが「永島アナも十分フレッシュだよ、大丈夫!」とフォローを入れてしまった。

さて、これまで『とくダネ!』の後番組についてタイトルを皮切りに色々な面で無難と書いてきたが、筆者はそれ自体を否定するわけではない。テレビ朝日『ニュースステーション』から『ミュージックステーション』などが派生した通り、ヒット番組のタイトルをなぞるのは昔からあったことだからだ。要は数字を取ればいい。数字こそが正義なのだ。新番組は『めざまし』テイストを出すことで、そこそこの数字は期待できるはず。まったくテイストの違う番組を立ち上げ、大きく空振りをするよりは立て直しを図りやすいかもしれない。これが今のフジテレビの編成方針であるし、そのような方針を後押しするのはスポンサーや視聴者のニーズ、すなわち"現在"なのかもしれない。

そういった中で、今まで『めざましテレビ』は『めざまし』という4文字の略称で親しまれてきたが、この呼び名はどうなるのだろうか。朝8時からの『めざまし8』は元祖でないから、『エイト』という愛称になるのだろうか。そこから妄想を展開していくと、『めざまし8』のテーマソングは是非、瑛人に歌ってもらいたい。さらにとことんまで8にこだわって、関ジャニ∞をリポーターに起用してほしい。すゑひろがりずだって、8に関係している。タイトルやキャスターが無難だっただけに、その他の部分で大冒険を期待したい。お台場冒険王の名にかけて…。