魚を集めるにはどうするか?

釣り人がいないときのコイは、毎日ほぼ決まったコースを回遊する。野生動物は、みな似たような習性を持つが、そのコースの途中に餌場が点在する形だ。コイは何でも食べる魚で、川底を住処とする微生物から虫類、タニシなどの貝類、エビ・ザリガニなどの甲殻類、極めつけは小魚を食べてしまうこともある。もっとも、魚食性は薄いのでごく稀に空腹時に目の前をヨロヨロと通り掛かった時ぐらいだが、水中のありとあらゆるタンパク質が彼らの餌といってもいい。いずれにしても、コイはそうした餌が入手しやすいコースを毎日ゆらゆらと泳ぎながら暮らしているのだ。

そんなコイを狙う場合、もっとも手っ取り早いのが回遊コース上に仕掛けを置いておくこと。魚の目に止まりやすいうえ、食わせる餌が魅力的なら、迷わず大きな口で吸い込んでくれる。なんともイージーな釣りでもあり王道でもある。実際に釣りの有名ポイントは、コイの回遊コースが狙えるところにある場合がほとんどだ。

しかし、釣り場を熟知していれば良いが、サンデーアングラーのようにたまにしか釣りに行けない場合は回遊コースを知ることが困難である。そこで試すことになるのが、カケアガリ周辺や杭やオダ(木の枝などで組まれた人工の沈殿物)など、釣りでは定番のポイントを攻めるという手法だ。もちろん、そうした場所は回遊コースになりやすいことは確かなので、実際に釣果を得られることも多い。しかし、普通に仕掛けについた餌だけをポイっと投げ込んだだけでは、よほどのことが無い限りコイに無視されてしまうだろう。

そこで必要となるのが「撒き餌」だ。あらゆる釣りに使われるメソッドで、基本的には「魚を寄せる」ために行われる。撒き餌には実に様々なやり方があって、針につける餌とまったく同じ物を撒くこともあれば、それらを砕いて粉末状にしたものを撒くこともある。さらに集魚効果の高い物質を混ぜるなど、豊富な手段がある。いずれにしても、撒き餌をすることで、魚を仕掛けの近くに寄せて釣れる確率を高めるという狙いがあるのだ。

練りエサの粉とボイリーを砕いたものをミックスした撒き餌。これを効果的に投入することで、コイが釣れる確率を高めるのが狙い

撒きすぎ禁止、撒かないも禁止

撒き餌をポイントに届ける手段は多数ある。もっとも簡単かつ効果的なのは、仕掛けと一体化させて針についた餌と共にポイントに投げ入れてしまう方法だ。この場合、必ず仕掛けの近くに撒き餌が存在することになるので、狙いから言っても一番合理的な方法になる。デメリットとしては、大量に撒くことができないことぐらいだ。

実は撒き餌をするときに一番気を付けなくてはならないのが、撒きすぎという行為。これをしてしまうと、コイ以外の魚が集まりすぎて収集がつかなくなるケースもある。わたしが良く行く釣り場のひとつには、ちょっとでも撒きすぎると、とたんに亀だらけになってしまうポイントがある。一度、亀が寄ってきてしまうと味をしめてしまうのか、なかなかポイントから離れてくれず、その日はそのまま亀とにらめっこして終わってしまうなんていうこともあるほどだ。逆に撒き餌をしないと回遊しているコイを足止めできずに、仕掛けを素通りされてしまうこともある。要するに、撒き餌はそのポイントに合わせて適量を考えないといけないのだ。

撒き餌の量が多すぎて亀を寄せてしまった…… こうなると、1日亀と遊ぶか、ポイントを変えるしかない

話しを戻すと、カープフィッシングでは、仕掛けと一緒に撒き餌を投入するために「PVA」という素材が使われる。知っている人も多いと思うが、ポリビニルアルコールのことで、これを袋状、あるいはネット状にすることで、撒き餌を適量包み込み、それを仕掛けにセットしてポイントへ投入。PVAは水に溶けるので、着底後数秒~数分で完全に分解されて撒き餌だけが残されるという仕組みだ。

PVAバッグに撒き餌を入れて仕掛けと共に投入する。PVAはすぐに水に溶けるので自然への影響はほとんど無い

撒き餌につかう素材は釣り場や気候によって様々だ。わたしの場合は仕掛けにセットするボイリーを砕いたものを使ったり、あえて他のフレーバーとミックスして砕いたりしたものを使うケースが一番多い。この他、練りエサと砕いたボイリーをミックスさせて即効性を出すこともあったり、逆に大きい粒のままのボイリーのみを投入して魚が寄りすぎないようにするなんていうこともある。ケースバイケースとなるので、どれが一番効果的かはその日によって変わってくるのだが、それを見つけるのもまた楽しい作業でもあるのだ。

ボイリーは指でもつぶせるが、こうした道具があると短時間でたくさん砕くことができる

大場所では多めに、小場所では少なめに

例えば、今回訪れている川幅100mを越すような大河川では、流れもあるため撒き餌の効果が持続させにくい。そこで一番重い粒のままのボイリーを中心に撒き餌をしていくことを考える。まずは、あらかじめ調査して決めたポイントにボイリーを数十個ぐらい投入してコイの餌場を作る。餌場と言っても釣り人が勝手に作っているだけなので、コイがどう思っているかは分からないが、とにかく集中的に撒き餌をすることで、コイが寄ってくるだろうポイントの足がかりを作るイメージだ。これには、ロケットベイトと呼ばれる小道具が使いやすく、ラインの先にこの道具を結んでカゴ状になっている部分へ、ボイリーを入れてポイントへ投入するだけだ。5~10回も繰り返せば、水底にはボイリーが重なり合うように置かれているエリアができあがることになる。

これがロケットベイト。キャストになれている人なら同じポイントに撒き餌を入れやすいはずだ

こんなパチンコ式の撒き餌投入機もある。数粒程度のボイリーをちょこちょこと入れるにはこれぐらいがちょうどいい。ちなみに1粒ずつ引き絞るように打つとかなり遠くまで飛ぶ。思わず撃つ楽しさに夢中になるのは分かるが、くれぐれも動物やボートなどを狙わないように!

次にボイリーを砕いたものと、2、3個の粒をPVAバッグに入れてフックと一緒に仕掛けにセットする。これは、先ほど作った餌場に直接入れず、やや離れた位置に投入する。実はコイは大型になるほど警戒心が強く、中小型のコイが盛んに餌を食べているのを遠目でみながら自分はそのおこぼれを食べるという光景が多く見られるからだ。コイに警戒心を与えないためにも、やや餌場からは離してやるのもひとつの作戦になるということだ。

そのように作った餌場の上流側、下流側に2本の仕掛けをセットする。余裕があれば、その沖側と手前側に投げ込んでおいてもいい。投げた仕掛けはそのままにしておかず、反応が現れるまでは、せめて30分~1時間に1回は再度セットして投げ返す。こうすることで、集魚効果に持続性が生まれるので、さらに釣れる確率は高まるのだ。ただし、あまり手返し(仕掛けの上げ下げ)が早すぎると、投入音などがコイの警戒心を高めることになりかねないので注意だ。

さて、これで準備は完了。この日は釣れるのか、その結果は次回お伝えしよう。

うまく撒き餌をすることが、コイをゲットする近道になる。あとは幸運を待つだけだ