この原稿を書いているのは、ちょうど「18きっぷ」のシーズン中にあたる時期である(掲載時には対象期間は終了しているはずだが)。いうまでもなく「18きっぷ」は普通列車専用の企画乗車券だから、これを利用して移動するには時間がかかる。というのが一般的なイメージである。

大都市圏に住んでいると、「普通列車 = 遅い」という先入観がある。ただでさえ、すべての駅に停車するから時間がかかるのに、さらに頻繁に優等列車の待ち合わせがあるから、なおのことだ。

ところが、この先入観が全国すべてで通用するかというと、必ずしもそうとは限らない、というお話。

意外と速い、地方幹線の普通列車

筆者がJR線・民鉄線の全線完乗を企てて日本各地を訪れたときには、意図的に、あるいはスケジュールの都合から、普通列車で移動した場面が意外と多かった。そこで再認識したのが、いわゆる地方幹線における普通列車の意外な足の速さである。

たとえば、東北本線と、その先に連なるIGRいわて銀河鉄道線、それと青い森鉄道線。具体例として一ノ関~盛岡間の時刻表を見てみると、この区間を結ぶ普通列車はおおむね、一時間半ぐらいで走破している。

一ノ関~盛岡間の営業キロ程は90.2kmあるから、単純にそれを所要時間で割って表定速度を求めると、60km/h近い数字になる。実はこれ、下手な特急列車よりも速い数字だ。ちなみに、一ノ関~仙台間も似たような状況である。

ちなみに、筆者が八戸から一ノ関まで普通列車だけ使って移動したときには、途中でトラブルがあって遅れが生じたため、回復運転のために通常よりも飛ばしていた。そのせいもあって、さらに「速さ」が印象的になったのだが、それを実現できるだけの施設と車両があってこそ、である。

同じ東北地方の反対側、奥羽本線の北寄りでは、青森~大館間を結ぶ特急列車は1時間10分~1時間15分程度の所要時間だが、同じ区間の普通列車は1時間40分~1時間50分程度で、意外と差がない。ただしこの区間、列車の本数があまり多くないので、特急列車と普通列車が相互補完の関係になっている一面もある。

筆者が実際に乗ってみて「おっ、普通列車が侮れない速さを発揮しているな」と感じた区間をいくつか取り上げてみた。こんな調子で具体例を挙げ始めるとキリがないので、これぐらいにしておこう。

普通列車でも速く走れる理由

もちろん、いわゆる「ローカル線」に分類されるような路線の普通列車は、決して速くない。これは、線路の条件が悪い(急勾配や急カーブなど)、単線で対向列車待ちが多い、車両の性能がそもそも足りない、といった事情によることが多い。

しかし、「○○本線」クラスの幹線であれば、線路の条件も車両の性能も、決して悪くない。そして、特急列車の本数が少ない、あるいは新幹線が並行しているために特急列車が走らない、といった状況であれば、普通列車でも性能をフルに発揮できるし、大都市圏に比べると駅間距離が長い分だけ、各駅に停まることに起因する所要時間の増加は少ない。

こうした条件が揃うと、「意外と速い普通列車」が出現するわけだ。だから、「長距離の移動なら特急列車」と決めてかからず、「ひょっとすると普通列車でも意外と遅くないかも?」というぐらいのつもりで時刻表を調べてみると、「当たり」を引くことができるかもしれない。

「次の特急が来るまで時間があるから」といってボケッと待つよりも、先発の普通列車に乗ってしまう方が早く目的地に着く、なんていうことがあるかも知れないのだ。食わず嫌いしないで、念のために時刻表を調べてみるのが吉である。必ずそういうケースがある、という保証はできないけれども。

判断基準としては、「○○本線」を名乗る、あるいはそれに準ずる内容を持つ幹線で、かつ電化区間であることが、ひとつの目安になると思われる。現在、あるいは過去に特急列車が頻繁に走っているような路線、新幹線と平行している幹線クラスの在来線、といったところもそうだ。

もっとも、何事もそうだが「常に例外は存在する」ので、時刻表を実際に調べてみる作業は欠かせない。

いわずと知れた韋駄天普通列車

なお、本稿の趣旨からは外れるのでここまで言及を避けてきたが、「言わずもがなの韋駄天普通列車」というものも存在する。ここでいうところの「普通列車」とは「18きっぷで利用できる」という意味だが、具体例としては京阪神圏や中京圏で走っている「快速」や「新快速」が該当する。

京阪神圏を走っている「新快速」のごときは、同じ区間を走る特急電車とほとんど変わらない走りっぷりを見せている。京都~大阪間で時刻表を見てみると、特急列車が33分で走っているのに新快速は30分で走っている、なんていう下克上な事例もあるぐらいだ。もちろん、新快速より速い特急の方が多いが、それでも所要時間差は5分あるかないかという程度だ。

アーバンネットワークの旗手「新快速」は、いわゆる普通列車としてはトップクラスの韋駄天ぶりを発揮する

ただし、新快速に指定席なんていうものはないし、速い分だけ人気もあるので、よほど空いている時間帯でなければ立ちん坊の覚悟が要る。こういうところで、あるいは接客設備の良し悪しといったところで、やはり特急列車と普通列車には厳然とした格差がある。特別料金を支払って利用するのだから、そうでなければ困るが。