元国税局職員さんきゅう倉田です。好きな学問は「経済学」です。

人はタイプによって行動が変わるので、行動に応じて報酬を与えると、その人のタイプが分かります。行動はその人の持っている情報や個性と結びついていて、どんな情報を持っているか、どのような個性があるかがわかるシグナルとなります。これを「シグナリング」といいます。

行動がシグナルとなりタイプが分かるので、自分にとっては得だが、違う対応の人にとっては損になる行動を取れば、自分のタイプを他人に知らせることができます。

例えば、財界人が集まるパーティで、多くの男性があつらえたタキシードやスーツを着ている中、ボルドー色のスーツや蛍光色のニットを着ていれば、ファッションや芸能の仕事をしていると示すことができます(ただの愚か者の可能性もありますが)。ステータスとして、アメックスのセンチュリオンや高級な腕時計を持つのも、資金力を示すシグナルといえます。

シグナリングにはコストがかかります。お金がかかるだけでなく、時間を消費したりネガティブなイメージを持たれたりすることがありますが、コストがかかるからこそ、何かを示す手段となるのです。

不合理な選択をする人、というシグナル

芸人という職業を選択したこともシグナルとなります。

みなさんは、芸人に対し、どのようなイメージを持っているでしょうか。おそらく、テレビで活躍する芸人に対しては、「賢い」「頭の回転が早い」というイメージがあり、テレビで見たことのない芸人に対しては「貧しい」というイメージがあり、さらに、深層心理では「蔑んでも良い存在」と考えているかもしれません。

実際に、ぼくが芸人であることを伝えると「芸人さんって、ほんと頭いいですよね」などと言われます。ぼくは「売れている人はそうですね」と答えます。売れていない芸人の中でも頭のいい人はいますが、合理的な選択ができない人のほうが圧倒的に多くいます。合理的な選択ができないから芸人になったともいえます。収入だけを考えれば、とてつもなく期待値の低い職業なので、芸人を選ぶのは不合理な選択です。

ほとんどの人が、メディアで見たことのない芸人の収入について考えたとき、「アルバイトで生計を立てている」と思うでしょう。インターネットで調べれば、活動や仕事の履歴が無数に出てくるぼくですら「なんのアルバイトをしているんですか?」と聞かれます。それなりに綺麗な洋服に身を包んでいるつもりですが、貧しいと思われています。

「貧しい」と思うだけならまだいいですが、「失礼なことを言ってもいい」「個人的なことを聞いてもいい」「敬意を払わなくてもいい」と考える人がいます。もちろん、はっきりと口に出すことはありませんが、本人も気づかないうちにそういう振る舞いをします。

それは、芸人というシグナルのせいです。不合理な選択をしたことで、「社会性の低いタイプ」「ろくでなしのタイプ」であると示してしまったからです。 シグナリングはどこにでも溢れています。

無駄なものを持っているからメスにモテる

味も品質もわからない2つのチョコレートがあるとします。ひとつは100円、もうひとつは1000円です。どちらかをもらえるとしたら、あなたはどちらを選びますか?

多くの人が、1000円のチョコレートを選ぶのではないでしょうか。高いほうが、味が良い、品質が良いと考えるからです。この場合、価格は価値を示すシグナルなのです。

自然界にも同じようなことがあるようです。経済学者の神取道宏さんの著書によると、オスの鹿の大きな角は、長い間、何の役に立つのかわかっていなかったそうです。

少し考えると、「メスにモテるため」という考えにいきつきますが、では、なぜメスにモテるのかはわかりません。角で闘うわけでもないし、餌を取るために使うわけでもありません。木や枝にひっかかるので、むしろ、生活の邪魔になります。デメリットしかない、無駄なものです。

答えはここにありました。不要なものを所有できる余裕が、メスからは魅力的に感じるのだそうです。ぼくも、余裕のある異性に魅力を感じます。お金にも時間にも余裕があれば、他人に優しくできます。きっと、大きな角を持つオスのシカも、仲間やメスに積極的にエサを分け与え、ミスを怒らず、自分を犠牲にして守ってくれるでしょう。

シグナリングによって、相手から直接情報を引き出さなくても、その人の情報や個性をしることができるのです。

参考:神取道宏『ミクロ経済学の力』

さんきゅう倉田

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