本連載は、ユーザー側、ベンダー側の双方にとって妥当なシステム開発プロジェクトの見積りを行うために必要な基礎知識やスキルについて解説しています。今回はプロジェクトの成功に必要不可欠なリスクと見積りの関係性を整理します。

システム開発のプロジェクトにおけるリスクとは、一般的に危険に遭ったり損をしたりする可能性、つまり不確定要素による損失の可能性を指します。一方、システム開発プロジェクトにおける見積りとは、ある時点での情報から必要なリソース(費用や期間など)を予測することを指します。見積りを行う時点での情報には不確定要素が大なり小なり含まれており、その不確定要素の影響度合いを見積りの中で加味する必要があるわけです。不確定要素の影響度とはリスクそのものであり、リスクと見積りは切っても切れない関係にあります。特に上流工程においては不確定要素が多いため、リスクの見積りが重要になります。

プロジェクトのリスクを見積りに反映するには、リスクを抽出してそのリスクに対する対応方針を考えた上で、そのリスクを見積りにどのように加味するかということを考えます(図1)。

図1 見積りには開発プロジェクトのリスクを加味しなければならない

リスク対応方針は一般的に回避・軽減・受容の3つに分類できます。例えば、回避策として、利用実績のない新技術に関するプロトタイプを作成してその有効性を検証するような対応方針を立てた際には、そのプロトタイプの作成・検証に必要な費用を見積りに加味します。これがリスクに対処するための費用です。また、受容策の場合は、リスクを受容することによって発生し得る損害額を見積りに反映します。この時、損害額に加えて、その発生確率も加味する必要があります。一般的にこの費用を予備費と呼びます。

『出典:システム開発ジャーナル Vol.6(2008年9月発刊)
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執筆者プロフィール

藤貫美佐 (Misa Fujinuki)
株式会社NTTデータ SIコンピテンシー本部 SEPG 設計積算推進担当 課長。IFPUG Certified Function Point Specialist。日本ファンクションポイントユーザー会の事務局長を務める。