いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、西荻窪の小さなレストラン「ランチハウス」です。

  • 緑色の日よけが醸し出す老舗感「ランチハウス」(西荻窪)(写真:マイナビニュース)

    緑色の日よけが醸し出す老舗感「ランチハウス」(西荻窪)


シンプルな空間でほっと落ち着くひととき

西荻窪駅南口に出たら、バス通りを南へ。ほどなく西荻南二丁目交差点で交わる神明通りを荻窪方面へ数分進むと、やがて右側に「ランチハウス」が見えてきます。

緑色の日よけテントは、すすけて年季が入っています。近隣のお店と比較しても、地味であることは否めません。けれど、よく見ればお店のつくりは1970年代の喫茶店風でもあり、なかなかいい雰囲気なのです。

  • 西荻窪駅北口から歩いて7、8分

「ランチハウス」というベタなネーミングも、直球でわかりやすくていいじゃないですか。いかにもランチ利用してみたくなります。というわけで、平日のお昼ちょうどにドアを開けてみたのでした。

入ると目の前にL字型のカウンターがあり、その奥が厨房。ドア横の窓際と右側には、4人がけテーブル席が3つ並んでいます。茶色い木製チェアが上品だなぁ。

  • シンプルながらも清潔な店内

  • 椅子のデザインも素敵です

でも店内に装飾物のたぐいは少なく、とてもシンプル。ほっと落ち着けるのは、そのせいかもしれません。

壁には、ランチメニューのプレートがかけられています。70代とおぼしきマスターがお冷やを持ってきてくださったタイミングで、そのなかから一番上に表示されていた「ポーク鉄板焼(ライス、みそ汁、ドリンク付)」をオーダーしました。

  • 思わず迷ってしまうランチメニュー

考えてみれば、あえて「鉄板焼」と書かれたメニューを見るのはひさしぶりです。そうそう、昭和のころのレストランでは、鉄板焼が売り文句になっていたりしましたよね。

そんなことを思い出したせいもあってか、期待感がどんどん高まります。

ちなみにこの時点で、僕以外のお客さんは窓際の席にひとりだけ。静かに流れる1950年代のフランク・シナトラの楽曲が、厨房から聞こえてくる調理の音といい具合に絡み合っています。

西荻は昔からのんびりした街だけど、そんななかにあってもここは特別な感じがするなぁ。喧騒とは無縁な、独特の時間が流れているとでもいうか。

料理とドリンクも昔ながらのスタイル

さて雰囲気に浸っていたら、さっそくポーク鉄板焼がお目見えです。ジュージュー音を立てる鉄板焼からは湯気が立ち上がり、見るからにアツアツ。

お皿に盛られたライス、そしてワカメと豆腐の味噌汁もついてきます。洋食には絶対、スープじゃなくて味噌汁ですよね。

  • 見るからに正統派の「ポーク鉄板焼」

ぎっしり盛りつけられた豚バラ肉のソテーの下には、もやしが一面に敷き詰められています。豚肉、もやし、それだけ。いたってシンプル。

でも、それがいいんです。添え物に頼ることなく、ポーク鉄板焼で勝負をかけようというところに意気込みを感じます。

  • 豚肉の下にはもやしがぎっしり

しかも、豚肉の味つけがちょうどいい。最初はとても味が濃そうに見えたのですが、食べてみれば濃すぎず、薄すぎず、ちょうどいいバランスなのです。

ご飯が進むし、すぐにのどが渇きそうなほど濃すぎもせず、ちゃんと考えられた味つけなのです。だしの効いた味噌汁も含め、これはプロの仕事ですね。

食べ終えたあと、ほどよいタイミングで食器を下げに来たマスターから「ドリンクはなににいたしますか?」と声がかかったので、アイスコーヒーをお願いしました。

  • どこか懐かしいアイスコーヒー

こちらもまたシンプルで、昔ながらのスタイル。透き通った氷の塊がグラスに当たる音を聞いたら、ようやく訪れた夏を感じました。

印象的だったのは、帰り際に少しお話をしたマスターが、とても腰の低い方だったこと。そんなに気を使わなくてもいいのにと感じてしまうほど、ていねいで礼儀正しいのです。

いつから営業しているんですかと尋ねたら「もう30年になります」という答えが返ってきましたが、真摯な姿勢を貫かれているからこそ、それだけの年月を乗り越えてくることができたのでしょうね。

自転車での帰り道も気分がよかったのは、マスターの対応のよさのおかげかもしれないなと感じました。


●ランチハウス
住所:東京都杉並区西荻南1-18-11
営業時間:11:00~22:00
定休日:日曜日・祝日