地上波やケーブル局の放送をストリーミング配信するYouTubeのテレビサービス「YouTube TV」に「NFL Fantasy Football」が統合された。YouTube TVでNFLの試合を観戦しながらファンタジーフットボールの自分の選手のポイントを確認できる。と、説明しても「何意味不明なことを言ってんだ」という方がほとんどだろう。でも、ファンタジースポーツを体験したことがある人なら「なんて便利!」と思ってくれたはずだ。ある意味、NFL観戦の革命なのだ。

ファンタジーフットボールは、NFLチームのオーナー/ゼネラルマネージャーになって自分が編成した仮想チームで成績・勝敗を競う。ゲームだが、実際のNFLシーズンと連動するところがミソである。

NFL公式のファンタジーフットボールを例にざっくりと説明すると、プレイヤーはリーグごとのグループに分かれて1人が1チームを持ち、現実のNFLシーズンが始まる前に、NFL全32チームの現役選手から今年活躍しそうな選手をドラフトして自分のファンタジーチームを編成する。誰かがすでにドラフトした選手は指名できない。人気選手を取り合いながらチームを作り、NFLシーズンが始まったら、実際の試合での選手の活躍に応じて所属選手にポイントが加算されていく。実際のシーズンと連動するから、ファンタジーチームに優れた選手を獲得できても、その選手がケガで実際の試合に出場できなかったらファンタジーポイントを稼げない。逆に実際の試合で出場機会を得た選手がドカンとファンタジーポイントを稼いでくれることもある。シーズンが終了してファンタジーフットボールの成績・勝敗も決まったら、上位入賞者にはトロフィーやリング、スーパーボウル観戦旅行、ゲーム機など豪華賞品が贈呈される。

NFLシーズンの変化に応じて、トレードしたり、控え選手を起用したり、統計データやニュースを日々チェックしながら毎週頭を悩ませてチームを作り上げていく。選手のデータを分析していると、ニュースでは取り上げられない選手の意外な活躍や若手の成長などに気づかされ、実際の試合を様々な視点から観られるようになって観戦がより面白くなる。ファンタジーチームと実際のNFLプレーヤーが活躍するシーズンが絶妙に絡むのがファンタジーフットボールの醍醐味であり、多くのNFLファンの心をつかんで離さない所以である。

だから、ファンタジーフットボール中のNFLファンはスマートフォン片手にテレビ観戦したり、モバイルデバイスで観戦している場合は、テレビ放送のアプリとNFL Fantasy Footballアプリを行き来しながら手にはメモという状態で観戦する。

それがYouTube TVでは、YouTube TVアプリで試合を観戦しながら直接NFL Fantasy Footballの機能や情報を利用できる。例えば、実際の試合と平行して変化するその週のファンタジーリーグのマッチアップの状況をライブアップデートで確認でき、視聴中の試合で「自分のチームに所属する選手」「相手のチームに所属する選手」というように様々な表示で選手の獲得ポイントをすばやく調べられる。

  • NFL Fantasy Footballの統合はAndroidアプリとiOSアプリから。試合を観戦しながらYouTube TVアプリ内でファンタジーチームの選手の獲得ポイントや現在のマッチアップの勝利確率など、様々なファンタジーフットボールのデータにアクセスできる。ピクチャーインピクチャーも利用可能。

    NFL Fantasy Footballの統合はAndroidアプリとiOSアプリから。試合を観戦しながらYouTube TVアプリ内でファンタジーチームの選手の獲得ポイントや現在のマッチアップの勝利確率など、様々なファンタジーフットボールのデータにアクセスできる。ピクチャーインピクチャーも利用可能。

YouTube TVは今、ユーザーからの反発を受けている。今年6月にサービス料金を15ドル値上げして月額65ドルにしたからだ。2017年にYouTubeが米国でYouTube TVを開始した時の料金は月額35ドルだった。Netflixなど他のサブスクリプションサービスとも組み合わせやすい手頃な料金で、モバイル世代にテレビ放送をもたらすサービスとして注目された。実際、契約者の年齢層の傾向を見ると、18歳~29歳の契約者数が最も多く、テレビ放送を若い世代に広げる役割を果たしてきたといえる。しかし、この1~2年でチャンネル・ラインナップを増やし、値上げを繰り返した。その理由として「豊富なコンテンツを揃えることがYouTube TVの価値につながる」と説明するのみ。そんな説明では高額なサービスを押し付けるケーブルTVと変わらないと、YouTube TVから離脱する人が目立ち始めていた。

「NFL Fantasy Footballアプリの統合」は、これまで"価値の実現"という曖昧な表現だったYouTubeがコンテンツの拡充にこだわる理由を具体的に示したものだ。地元チームだけではなく、NFL32チーム全ての試合を観戦できるようなサービスであってこそ、ファンタジーフットボールとの密な統合が可能になる。コンテンツあっての、テレビの新しい体験である。テレビのスポーツ中継にインタラクティブ性を組み込むのはYouTube TVが初めてではない。選手の統計やファンタジーリーグのデータの表示、解説者の切り替えなど、すでに様々な試みが行われている。それなのにNFLファンが今でもスマートフォンを片手にテレビ観戦しているのは、視聴ニーズを満たす機能になっていないからだ。これまでNFLファンが手元のスマートフォンでチェックしていたようなことを、シームレスにできるように組み込んでこそ新しい視聴体験として認められる。YouTubeは昨年のシーズン中からNFLファンを招待して普段どのように観戦しているか調査し、熱心なファンほど観戦がマルチタスクになっている問題を解決できるようにNFL Fantasy Footballアプリを統合した。

  • 観戦の体験とファンタジーフットボールの利用体験をシームスレスに結ぶアイディアのデザインスケッチ

2015年にAppleがApple TVにApp Storeを統合した際に同社は「TVの未来はアプリ」と宣言したが、YouTube TVのアプローチはどちらかというとWebブラウザの拡張機能に近い。他にどのようなプロジェクトを進めているのか明らかにしていないが、テレビ放送のコンテンツを拡張する体験にこだわっているから今後が楽しみだ。Googleだから当然Eコマースの統合は考えているだろうし、想像しただけでも、大統領選挙関連のデータや災害対策サービスなど、様々なアイディアが思い浮かぶ。西海岸の山火事、南部を襲ったハリケーンなど、今年米国では多くの人が避難する大きな災害が続いている。自分の地域の被害を知るためにローカルニュースの利用が増え、自分の地域における災害のリスクや対処方法について知ることができるオンラインサービスが登場しているものの、それら2つの間には溝がある。多くの人がローカルニュースで災害が迫っていることを知り、そしてスマートフォンを取り出し、検索語などに悩みながら避難レベルや避難場所、避難時に必要なものなどを調べている。私も体験者の1人だっただけに、ローカルニュースからシームレスな体験で自分の地域の詳細な災害対策情報をすばやく引き出せたらどんなに助かることかと思う。このタイミングで災害対策サービスが統合されたら、YouTube TVに対する注目度が高まること間違いない。