ショッピングモールを開発・保有するSimon Property GroupがBrookfield Property PartnersとともにファストファッションチェーンForever 21の買収に乗り出した。Forever 21は昨年秋に連邦破産法第11条 (日本の民事再生法にあたる)の適用を申請している。買収額は約8100万ドル。2015年には44億ドルの売上高を上げていたとはいえ、若い世代の感覚とのずれから失速しているブランドである。それでも買収に乗り出したのは、100近いForever 21の大きな店舗がモールから消えるのは避けたいというショッピングモール側の切実が現状がある。

大きなテナントに撤退されたらその後を埋められない‥‥というのが現実味を帯びるぐらい、今の米国でショッピングモールは苦戦している。Forever 21の買収が成立したところで焼け石に水といった様相である。むしろ、トレンドはショッピングモールの存続ではなく、閉鎖後に残される資産の活用。モールは都市周辺で高速道路のアクセスが良い場所に多い。その地の利を活かして、閉鎖後のモールがオンラインストア向けのウェアハウスになるという皮肉な再開発が珍しくない。他にも、最近注目されているのが「ゴーストキッチン」だ。フードデリバリーやゴーストレストラン向けのシェアキッチンである。

  • 近年のシリアルの売上減は、ボウルを用意して食べた後に洗うのも避けたいというミレニアルズが一因という説も

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米国の都市部では60%以上が週に2回以上デリバリーを利用しているという調査結果もあるぐらいフードデリバリーが成長している。Uber EatsやDoordash、Grubhubといったサービスが登場し始めた頃は、既存のレストランの調理場でデリバリーの注文にも対応していた。しかし、デリバリーで成功しているレストランは、どこも店舗より多くのデリバリー注文を処理するようになった。店の厨房では対応しきれず、また駅前のようなレストランに適した場所はデリバリー対応に向かないこともあって、デリバリー用の厨房を用意するレストランが珍しくない。

そうした需要から、Uberを退社した創業者のTravis Kalanick氏が「CloudKitchens」というシェアキッチン事業を立ち上げ、他にも「Kitchen United」、駐車スペースや施設をオンデマンドビジネス向けに開発する「REEF Technology」など、ここ数年でフードデリバリー向けのシェアキッチン市場が急成長している。

  • 駐車場のようなスペースをデリバリー/テイクアウト専門店に変えるREEF Technology

今ではシェアキッチンを利用して、フードデリバリー専門店として開業する飲食店も続々と登場している。それらはリアルな店舗を持たないから「ゴーストレストラン」、他にも「クラウドレストラン」とか「ダークレストラン」と呼ばれている。CloudKitchensによると、3500平方フィートのレストランの開業には100万ドルの資金が必要になるが、ゴーストキッチンなら230平方フィートの調理施設を3万ドルの費用とわずか2週間の期間で構築できる。プラットフォーム化されたシェアキッチンサービスなら、小さな規模で始めて、ビジネスの成長に応じて柔軟に規模を拡大できる。

  • デリバリーに最適化されたCloudKitchensの調理施設

米国でフードデリバリーはファストフード市場のおよそ9%に成長している。ファストフードだけではなく本格的なレストランによるフードデリバリー事業の本格的な展開も進んでいる。先月末、食文化が発達している米ポートランドで、「Blackbird Pizza」や「Swift Lounge」の共同オーナー/シェフであるRobert Thomas氏がフードデリバリー専門事業を展開し始めたことが話題になった。

面白いのは、Thomas氏はポートランドに2軒のBlackbird Pizzaを持っていたが、I-5近くにある店を2018年末に閉じていることだ。高速道路近くで交通量は多いものの、レストラン向きとは言い難く、繁華街にあるホーソン店に比べて売り上げが伸びなかった。ところが、お客さんを呼べなかった高速道路近くの立地が、渋滞の多いポートランドにおいてデリバリーに最適だった。失敗したレストランが食を届けるキッチンとして復活したのだ。

同じようにショッピングモールも、小売りビジネスとして立ち行かなくなっているモールが少なくないが、都市周辺で高速道路近くにあるという立地は大量の注文を速やかに処理して届けるための大規模なキッチン施設に適している。

フードデリバリーにはショッピングモールを飲み込むような大きな可能性を秘める。その一方でフードデリバリー事業のプラットフォーム化には、初期のYoutubeのような混乱も見られる。

先月、ミシュラン1つ星を獲得しているサンフランシスコのタイ・レストラン「Kin Khao」にデリバリーが「遅い」という苦情の電話があった。Kin Khaoはデリバリーをやっていないが、電話をかけてきた人はフードデリバリーサービスSeamlessで注文したという。調べてみると、SeamlessとGrubhub (2013年にSeamlessと合併)にKin Khaoのページが存在した。

連絡してみると、Grubhubは同サービスのパートナーになっているレストラン以外でも人気レストランをマーケットプレースに登録し始めていた。Grubhubの利用者がデリバリーのためだけではなく、地域の人気レストランのことを知り、メニューを見てテイクアウト頼むといったことができるようにしている。そのような問い合わせが増えれば、レストランはGrubhubとの契約を検討するようになるだろう。しかし、Kin Khaoの場合、不適切なメニューが掲載されていて、しかもやっていないデリバリーを頼んだという人ま出てきた。Grubhubは、マーケットプレース登録について「レストランとユーザーのため」としている。だが、同社は著名なレストランの名前のドメインを片っ端から取得し、それらがオンラインデリバリーに進出する際の窓口になろうとした前科がある。それだけに、今回のマーケットプレース登録についても自分たちのサービス拡大戦略に過ぎないという批判の声が強い。

昨年の夏にはローカルビジネスの口コミサイト「Yelp」が、アプリで一部のレストランの電話番号への通話をYelpが管理する番号に転送していることが問題視された。Yelpアプリで掲載されているレストランの電話番号をタップすると、「問い合わせ」「デリバリー/テイクアウト」を選ぶカードがポップアップする。「問い合わせ」を選ぶとレストランにつながり、「デリバリー」ならYelpとパートナーであるGrubhubの番号につながる。Grubhubと連携した仕組みとも言えるが、この仕組みだと独自に配達も行なっているレストランが自分たちの電話番号でデリバリー注文を受けられない。

フードデリバリーとゴーストキッチンを使って、店舗を持つよりはるかに少ない資本で飲食業をスタートできる。費用の負担に悩まされず、料理の腕とアイディアで勝負できるチャンスが広がる。その一方で、フードデリバリーとゴーストキッチンでも巨大なプラットフォームが形成されると、レストランが成功するために巨大プラットフォームに頼るしかない状況になり得る。地元の人気レストランで食事する今ある体験が、デリバリーに奪われて失われる可能性がある。

先週ニューヨークでは市議会においてゴーストキッチンが飲食のスモールビジネスに与える影響に関する聴聞会が行われた。デリバリーに手を広げたくない小規模なローカルレストランへの影響、食物アレルギーへの適切な対応と透明性など様々な問題が提起された。現時点で具体的な規制や政策の提案は行われていない。だが、フードデリバリーとゴーストキッチンはこれから人々の食を変える大きな可能性と見なしており、それを良い方向に導けるよう監視を強化していく考えを示している。