米Amazonのレジ無しコンビニ「Amazon Go」がサンフランシスコにオープンしたので、早速行ってきた。

最初にAmazon Goでの買い物方法を簡単におさらいしておこう。

  1. Amazon GoアプリでKeyタブ (QRコード)を開き、入口でスキャンして入店。
  2. 棚から商品を取ると、バーチャルカートに商品が追加される。
  3. 商品を持って店を出ると、自動的にカートが閉じられる。
  4. しばらくすると、Amazonアカウントに課金される。
  • まだオープンから間もなく、仕組みを知らずに来店している人がたくさんいたため、入口に数人のスタッフが並んで、アプリの準備をサポートしていた。新しいタイプのグローサリーストアなので、最初にそうした混乱があるのは仕方がない。

気になるのは「レジがないのは本当に便利なのか?」だと思うが、Amazon Goは本当に快適だった。ただ、実際に使ってみて実感したのは、「レジ無し」と呼ばれているけど、レジ無しであるのがAmazon Goの強みではないということ。これからレジ無しの店が他にも出てくるかもしれない。でも、ただレジを無くしただけでは快適にならない。米国では一時、レジの行列を減らすためにセルフレジの採用が増えたが、トラブルが多く、買い物客の手間が増えて不評だった。IKEAのように、大々的に導入したセルフレジを全廃させた小売りもある。だから、Amazon Goのようなレジ無しにしても、買い物客がレジの行列に覚える不満を解消できるソリューションになってなかったら、快適な買い物体験にはつながらない。

Amazon Goで実際に買い物した上で、Amazon Goを一言で説明するなら「ユーザー中心にデザインされたコンビニ」である。特に、それがよく現れているのが払い戻しの仕組みである。

Amazon Goのようなレジ無しコンビニで気がかりになるのが清算間違いの可能性だ。Amazon Goの場合、買い物が終わって商品を手に店を出ると、バーチャルカートが閉じられて「pending (保留)」状態になる。それからAmazon Goアプリに請求書が届くまで10分以上かかる。もしカートの内容が間違っていて、店に戻らないといけなかったり、払い戻しの申請が複雑だったら、レジ無しの魅力は半減である。ところが、もし買っていない商品が請求に含まれていた場合、Amaozon Goユーザーはアプリに届いたレシートから購入していない商品を選んで、数タップで簡単にリファンドを受けられる。店に戻る必要も、メールなどで細かく説明する必要もない。宣伝文句通り、本当に「Just walk out」できる。それを可能にする払い戻し方法になっているから、レジ無しが本当に快適なのだ。

  • 請求書がまとめられたら通知が届く、「トリップ時間は7分57秒」というように滞在時間の情報も。すでに何回が寄っているが、慣れてきたら3分以内に買い物が終わるのがAmazon Goの魅力

このユーザーの主張を信用する払い戻し方法だと、中には商品を持って店を出ているのに「自分は買っていない」と払い戻しを申請する人が出てくるかもしれない。おそらく出てくるだろう。でも、買い物客が支払いに煩わされず、商品を持ってすぐに店を後にできることをAmazonは優先している。見方を変えると、そうしたリファンドの仕組みを採用できるぐらいAmazonはAmazon Goの商品トラッキングシステムの精度に自信を持っているということだ。ちなみに買った商品に問題があった場合も、同じようにアプリから数タップで払い戻しを申請できる。すぐに代わりの商品が必要でなければ、商品を返しに店に戻る必要はない。

  • レシートからアイテムをスワイプし、数タップで簡単に払い戻しを受けられる (オプションでコメントを追加することも可能)

店内をよく見まわすと、何十台ものカメラが設置されている。カメラだらけだ。でも、目だないように取り付けられていて、店を出た後に、一緒に行った人たちにカメラを意識したかどうか聞いてみたら、誰もカメラがあったことすら気づいていなかった。チェックインしたら店内での行動がトラッキングされ (顔認識は用いられていないという)、商品棚の重量センサーの変化などを合わせて、買い物客が商品を手にしたかどうかを判断する。今回は、小さなチョコレートバーを手に取ってしばらくしてから棚に戻したり、キャラメル1箱を手に取ってすぐに戻したりと、システムを試すような行動を繰り返してみた。チョコバーがカートに含まれても「ご愛敬」というぐらい意地悪な買い物の仕方だったが、Amazon Goからの請求に間違いはなかった。

1つのアカウントで家族連れで買い物する場合は、入口で同じQRコードを使って家族を通すと同伴者として登録される。1つだけ注意しなければならないのは、スーパーなどで棚の上の方の商品を「取ってほしい」と頼まれることがあるが、同伴者以外の人に商品を取ってあげると、他人の買い物が自分のカートに入ってしまう。

レジが無くなることで店と買い物客との接点が減り、コミュニティとのつながりという小売店の強みが薄れるという指摘もあるが、そんなことはなく、むしろ逆だった。普通のコンビニよりも多くのスタッフがフロアにいて、探している商品が見つからなかったり、棚から無くなっていたらすぐに声をかけられる。「レジ無し」が「店員削減」ではなく、「サポートスタッフ増員」になっている。

  • ユーザーセントリックにデザインしたレジ無しで「Just walk out」を実現

立ち寄って、すぐに買い物を済ませられるAmazon Goは、駅前や会社の帰り道などにあったら便利だと思う。ただ、店自体はコンビニであり、わざわざ電車や車に乗って行くような店ではない。家の近所にも「できたらなぁ」と思うが、果たしてAmazon Goはこれから普及していくだろうか?

米国の小売りは社会環境と共に変化してきた。例えば、女性のファッションの大衆消費化と共にMacy'sのようなデパートが成長した。Searsがカタログ・ストアという新分野を開拓、しかし郊外化と共に誕生した巨大なショッピングモールに市場を奪われることになる。不況期にディスカウントストアや会員制倉庫型ストアなどが成長、Web時代にAmazonが台頭した。

では、Amazon Goが求められる社会の変化とは何だろう。

Amazon傘下になった新生Whola Foodsもそうだが、Amazon Goもモバイルアプリを使いこなすほど買い物が快適になる。例えば、Amazon Goアプリを開いたら、どんな商品があるか全てを簡単にチェックできる。だから、店に行ってから「ランチに良いものが何かないか」とか探すのではなく、店に行く前にスマートフォンでランチをどうするか考えられる。買うものが決まっていたら、Amazon Goでの買い物は1分とかからない。店内をあれこれ探索するのが好きという人もいるとは思うが、そうでなかったら、アプリで商品を探せるのは、レジに並ばずに帰れるのと同じぐらい買い物を効率化できることなのだ。Whole Foodsアプリの場合、今日または今週の特売品をアプリでチェックできる。ウチはそれを見てよくWhole Foodsに買い物に行く。新聞のチラシを確認する感覚だが、今や新聞よりもアプリの方がより多くの人に情報を届けられるのは言うまでもない。

  • Amazon Goアプリの「Discovery」タブ

Amazon Goや新生Whole Foodsの核は、リアル店舗とモバイルが生み出す新たな体験である。グローサリーショッピングは多くの人にとって面倒くさいことである。しかも、月に何度も繰り返さなければならない。ただ、それが当たり前のことになり過ぎて、本当は誰もがもっと効率的に買い物したり、もっと効率的に節約したいと思っていても、現状をそのまま受け止めている。だからこそ、破壊的な変化を起こせるチャンスがある。

コーヒーのPhilz CoffeeやサンドイッチのSpecialty's Café & Bakeryなど、今ミレニアルズに人気のあるフードチェーンは、どこもアプリから注文できるモバイルオーダーをサポートし、店内にモバイルオーダー用の受け取りセクションを設けている。2~3年前は、モバイルオーダーセクションはどこもガラガラだった。ただ、今は忙しい時間帯だとモバイルオーダーの方が賑わっている。それらを日常的に利用している若い世代は、グローサリーショッピングにだって、同じように簡単に済ませられるソリューションを求めるはずだ。