米Amazonが決算発表の会見で突然、米国においてPrimeの年会費を99ドルから119ドルに引き上げると発表した。約2割の値上げ。日本円で約13,000円になる (ちなみに日本のAmazonプライムは年額3,900円)。正直「うわっ、キツい!」と思った。

この値上げ発表に対しては「なぜ?」の声が次々に上がった。米Amazonの2018年1〜3月期決算は純利益が前年同期比46%増、売上高・利益ともに市場予想を上回った。クラウド事業とEコマース事業が堅調で、しかも4月18日に株主宛の書簡の中でPrime会員が世界で1億人を突破したことを明らかにしたばかりだった。そんな絶好調なAmazonがなぜ今、Primeの年会費を値上げする必要があるのか?

米小売市場で優勢な立場になったAmazonが強気の価格を押し付け始めた……そう見る向きも少なくない。だが、Prime値上げの背景には「物流コストの高騰」がある。それが深刻な問題になる前に、Amazonは値上げという先手を打ってきた。

  • 2014年3月に年額79ドルから同99ドルに引き上げた時も利用者からの反発が強かったが、それでもPrimeメンバーは増加した。米国では消費者にPrimeの便利さが十分に浸透している

1~3月期決算が発表された4月末、Nvidiaや玩具大手のHasbroなど、いくつかの企業のエグゼクティブが「大型トラックの運転手不足の問題」に言及した。

全米規模で見ると、運転手不足は5万人を超えており、2015年時点で92%に達していた長距離運送トラックの稼働率が99%に上昇しているという。それが一因となって、昨年にトラック輸送費が6%〜10%上昇した。今のところ、食品や小売商品の価格への影響は小さいものの、上げたいけど上げにくいというのが実状。このままではどこかに歪みが出る可能性があり、それに対する危惧が4月末のエグゼクティブのコメントになって現れた。

American Trucking Associations (ATA)によると、トラック運転手の不足は2010年代に入って急増し続けており、2012年の1万5,000人が翌年には2万人に達し、現在5万1,000人。このままだと2021年には10万人に近づく。

運転手不足が加速しているのは、配送貨物が増えているのに、運転手が増えていないからだ。前者の原因はEコマースの成長である。配送荷物の増加による需要増で、トラック運転手の賃金は過去18カ月でおよそ10%上昇した。しかも、トラック運転手の年収は元々低いわけではなく、米国平均より約11%高かった。

それでも運転手が足りないのは、厳しい労働環境でトラック運転手になろうという人が少ないから。自宅を離れている期間が1年間で200日近くになる運転手が少なくない。そして賃金が時給ではなく、走った距離に応じて計算されるのが一般的。学歴不問、年収を比べたらある程度安定した職業ではあるものの、それは走り続けてこそ。1人で運転し続けるのが好きな人なら耐えられるかもしれないが、多くの人にとって運転は孤独で、1年中運転する生活は刺激に乏しい。

若い運転手が増えないため、長距離トラック運転手の平均年齢は49歳と高い。さらにベビーブーマー世代の運転手の引退が問題の深刻さを深めている。

トラック運転手不足は一朝一夕に解決できるような問題ではない。自動運転トラックが実用化されれば、トラックによる輸送アシストで運転手の過酷さが軽減され、また輸送頻度を高めて事業効率を上げられる可能性がある。しかし、技術的にも実用化にはまだまだ開発に時間とコストが必要であり、加えて運転手から職業を奪うことになるのではないかという指摘があるなど、解決しなければならない問題や課題が山積みである。

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紙の本ではなく電子書籍で読む、データを受け取って3Dプリンターで洋服を作るというようなデジタル化は物流コスト問題のソリューションの1つになり得る。Amazonは、Amazon PrimeビデオやPrimeミュージックといったデジタルサービスを追加することで、配送無料のPrimeの価値を高めてきた。見方を変えると、Amazon Primeは物流コストの上昇をデジタルサービスで吸収しやすい。そんなAmazonが将来を見すえて、Primeの好調な伸びに水を差すような大幅値上げに踏み切った。その事実は、トラック運転手不足の避けられない影響を示している。

物流コストの高騰は、Eコマースだけの問題ではない。モノの動きの鈍化の影響は経済活動全般に及ぶ。Prime値上げは、好調Amazonの驕りというようなミクロな視点で見るべきではない。競争力を重んじるAmazonが値上げに踏み切るほど物流危機が間近に迫っている。その警鐘と見るべきである。