3月27日に行われるAppleのイベントの招待状を受け取ったJohn Gruber氏が、イベントの招待状を紹介するBloombergの記事を読んで「このタイプフェースは何だ?」とツィートした。

  • 招待状のデザインが微妙に違う、とGruber氏 (出典: @gruber)

何が違和感なのか分かるだろうか。これに続いたのが次のツィートだ。

  • 「これが私のiPhoneの画面を撮影した本来の招待状だ。あるべき通りにSan Franciscoで表示されている」 (出典: @gruber)

Bloombergの記者は、おそらくWindowsデバイスを使ってスクリーンショットを撮ったようで、Windowsデバイスのメールクライアントで、Appleがタイプフェースとして指定したSan Franciscoで招待状が表示されなかった。

メールだとWebフォントの埋め込みをうまく機能させられないことがある。そんなことが起こってしまうものの、今や以前のように招待状全体を画像化することなく、普通にテキストを用いて、招待状のような凝ったデザインを実現できるようになった。Bloombergの招待状と見比べてみると、Appleの狙い通りのデザインはバランスがよく、そしてカッコいい。San FranciscoはAppleがシステムフォントなどにも採用している独自フォントであり、San Franciscoで表示されると、それだけでAppleらしい雰囲気がグッと増す。読みやすさも増している。

ただ、Gruber氏が指摘したWindowsデバイスに表示されたAppleの招待状に違和感を覚えなかった人もたくさんいる。Appleは、2014年にiOSのシステムフォントをHelveticaからHelvetica Neueに変更し、そして翌年にSan Franciscoに再変更した。Helveticaは小さな画面だと読みづらく、多様なデバイスに適したタイプフェースとしてSan Franciscoを採用したが、Helvetica系からSan Franciscoへの変化に気づいていないユーザーも多い。だから、わずか1年でオリジナルフォントへの変更を急いだAppleに「なぜ?」の声も挙がった。

独自フォントで数百万ドル規模の費用節約

しかし、Appleだけではない。Google、そしてSamsung、Airbnb、Spotify、Pinterestなど、オリジナルフォントの導入が続いている。これらの企業は、なぜオリジナルフォントにこだわるのか。それほどの価値がオリジナルフォントにはあるのだろうか。

オリジナルフォント採用企業のリストに先週、新たにNetflixが加わった。公式発表はないものの、Netflixのブランドデザインを率いるNoah Nathan氏が英It's Nice Thatの取材に応える形で明らかになった。

  • Netflixの独自フォント「Netflix Sans」(出典: noahnathan.com)

独自タイプフェースの名前は「Netflix Sans」。映画やビデオコンテンツの迫力に負けないインパクトのある文字だ。Nathan氏は「ブランドの美的価値を高めるユニークな要素を創造し、そして所有するために、このタイプフェースを開発した」と述べている。NetflixはこれまでGothamを用いてきた。Netflix Sansと見比べると、共通点も多いが、Netflixがオリジナルフォントで狙う同社のブランドイメージが伝わってくる。だが、それだけではない。「(タイプ)ファウンドリーがインプレッションベースのライセンスに向かう中で、(オリジナルフォントの採用は)年間数百万ドル規模のコスト削減につながる」とNathan氏は続けている。

AppleのSan Franciscoの採用は、特にWebフォントの役割が大きくなってきてから、モバイルデバイス、Mac、そしてWebに及ぶ各種サービスの使用体験に統一感を持たせ、Appleらしさを演出する大きな要因になっている。問題は、アクセス数が増えるとWebフォントには通信量などのコストがかかること。だから、インプレッションベースのライセンスになっているし、フォントサーバーへのライセンス料金もそれに応じた価格設定になっている。しかし、Webフォントを使う多くのサイトやサービス、アプリはアクセスを増やすことを目標にしているから、フォントの扱いがジレンマだ。今後Webフォントを活用していくつもりなら、より多くに見せることに本気であるほどにフォントの取り組みが課題になる。

10〜12月期決算の発表で、NetflixのCEOであるReed Hastings氏は「(マーケティングを)外部に依頼する必要なく、新しいコンテンツを様々な方法で効果的に宣伝できるサービス、それこそ私達が聖杯のように追い求めているものだ」と述べた。聖杯というからには、そんなサービスはほぼ不可能ということだ。効果的なマーケティングへの投資が素晴らしい成果につながることをHastings氏は認めている。しかし一方で、聖杯のようなサービスを求めて、ソーシャルメディアやNetflix自身のPR活動、効果的なオススメの実現など、外部のマーケティングに頼らないオーガニックなコンテンツ・プロモーションにも力を注いでいく。Netflixがオリジナルフォントを持つことは、その一環である。