Appleのスマートスピーカー「HomePod」が我が家にやってきた。予約してまで買った人は少ないと思っていたが、Apple ParkのビジターセンターにはHomePod用の受け取りセクションが用意されていて、午後2時という時間にもかかわらず、私以外に4人受け取りに並んでいた。

  • 「HomePod」

続々公開されているレビューを読むと、Appleが推すオーディオスピーカーとしては期待通り、またはそれ以上という評価。しかし、音声アシスタント・スピーカーとしてGoogleの「Google Home」やAmazonの「Echo Plus」と比べると、Home PodのSiriは頼りないという評価が並ぶ。そんな反応になりそうな気はしていたが、見事に真っ二つ。スピーカーとして購入した人は称賛、音声アシスタントが使えるスマートスピーカーとして購入した人は酷評している。

個人的には、ビームフォーミングの効果を以て"スマート"スピーカーと呼んで称賛したいところだが、一般的には「音声アシスタント=スマートスピーカー」である。また、現時点でiOSデバイスなどからのストリーミングを使わずにHomePod本体からアクセスできる音楽サービスはApple Musicのみ。Spotifyなど、他の音楽サービスにも開放するべきという声も多い。私はBeats Music→Apple Musicな人だったので躊躇なく購入したが、HomePodを使ってみたくて、でも別の音楽サービスに乗り換えなければならないとなったら悩んでいただろう。

さて、まだ短い時間しか使っていないのでオーディオ性能についてコメントするのは次の機会にするとして、酷評されているHomePodの音声アシスタント機能だが、Apple製品ユーザーでSiriを使い慣れているということもあってか、私は使っていて不満はない。それどころか「できることをしっかりこなしてくれる」という印象を抱いている。

たとえば、AppleのHomeKit、Google Assistant、Amazon Alexaで使えるようにしている電灯のオン/オフを頼むと、HomePodからが最もレスポンスが良い。そのあたりAppleのプラットフォーム規模での製品やサービスの連携は優れている。

音声アシスタントを使ってできることはGoogle Homeの方がずっと多い。中でも、個人の声を聞き分け、複数のユーザーがそれぞれの環境でスマートスピーカーを共有できる機能はHomePodでも実現して欲しいと思う。話し言葉の認識力、Webから情報を集める能力もGoogle Assistantの方が優れている。音声アシスタントを使えるスマートスピーカーを体験したい人には、迷わずGoogle Homeを勧めるだろう。

でも、私HomePodを日常的に使うように思う。AppleがHomePodでオーディオ推しであるのは「Siriで勝てないから」と見る向きも多い。逃げているのか、それとも今日の音声アシスタントが実用的に活躍できる範囲に絞り込んで攻めているのか、本当のところは分からない。だが、色々とできるよりも、音楽ストリーミングサービスをより楽しめるようにするスピーカーというはっきりとした目的の方が、私には魅力がある。

翻って、Google Homeの強みが私の普段の生活に役立っているかというと疑問符がつく。今のGoogle Homeだって万能ではなく、頼んでみたけど応えてもらえないことが度々だ。日々コマンドが更新されていて、数年後を想像しながら成長を楽しむこともできるけど、今の時点でスマートスピーカーを使って毎日やっていることは、電灯のオン/オフ、タイマー/アラーム、天気予報やスケジュールの確認、時差、質量換算や計算など、いくつかの限られたことに絞り込まれる。それらはHomePodでもできることだ。

2014年に初めてAmazonのEchoを使ってみた時、Echoでできることは少なかった。でも、少なかったから、Echoの活用法がユーザーに伝わり、音声インターフェイスが機能した。最近のスマートスピーカーはあれもこれもという方向に進んでいる。それでスマートスピーカーの価値が高まっているかというと、Google Homeでピザを注文できるようになっても、ピザのデリバリーはスマートフォンのアプリで頼む。やりたいことが色々と先走り過ぎて、本当に役立つものになっていないところがある。

1月にFacebookがパーソナルデジタルアシスタント「M」の終了を発表した。2015年にMが発表された時、チャットボットがブームになっていて、買い物やレストランの予約、旅行の予約など、様々な情報収集やタスクをメッセンジャーから処理できるようになると期待された。Facebookは終了の理由を十分にデータを収集したためとしているが、期待通りにユーザーとビジネスを結びつけるサービスになっていたら終了にはならなかっただろう。スマートスピーカーも盛り上がっている時は「何でもできる」ように思われるが、飽きられたら「何ができるか分からない」になってしまいかねない。先週、Financial Timesの取材に対してGary Marcus氏 (2016年にUberに買収されたAI会社Geometric Intelligence創業者、NYUの心理学教授)が次のようにコメントしていた。

「今日のAIに対するオーバーハイプで最も大きなリスクは、AIが再び冬の時代に陥ってしまうことだ」