米Foursquareが同社のロケーションサービス(デスクトップ版)で使用するマップを、Googleマップから、OpenStreetMapのデータを用いたMapBoxのサービスに変更した。公式ブログで同社はわざわざ「ちょっとした発表 (a little announcement)」と前置きし、不要なもめごとを起こさないよう配慮しているが、「同じことを考えている他のスタートアップの手助けになれば、うれしい」と述べている。実際、Foursquareが道を切り開けば、その後に続く会社が出てきそうな雰囲気なのだ。

MapBoxのマップで生まれ変わったFoursquare。ただし、モバイル版のマップはモバイルOSに依存するためGoogleマップのままで、使っていて混乱する

Foursquareは初期の頃からGoogle Maps APIを利用してきたが、昨年4月にGoogleがMaps APIへのアクセスに制限を設ける計画を明らかにしたため、代替サービスを探し始めた。Maps APIを無料で使用できるのは25,000マップロード/日まで。Styled Mapの場合は2,500マップロード/日まで。これらを上回る場合は、有料のMaps API Premierライセンスが必要になる。

このAPIアクセスの有料化が理不尽なものとは思わない。25,000マップロード/日は高い設定であり、個人や小規模サービスの多くは従来通りに無料で利用し続けられるだろう。ただGoogleは、Googleマップを今後も維持・発展できるようにビジネスモデルを整えなければならない。FoursquareのようなGoogleマップを活用して開花したサービスに対して妥当な有料ライセンスを求めるのは、プラットフォーム提供側の当然の対応であり、有料化はGoogleマップの永続性の確保につながると評価されている。

実際、FoursquareもMaps APIのコストにこだわってGoogleを離れたわけではないようだ。公式ブログで同社は「新しいGoogle Maps APIの価格をきっかけに他のソリューションを探し始めたが、最終的に変更を決断したのは、リサーチとテストの結果、OpenStreetMapとMapBoxが予想以上にFoursquareにフィットしたからだ」と語っている。

FoursquareはMapBoxの採用について、具体的に3つのメリットを挙げている。まず集合知によって成長するOpenStreetMapのオープンデータをベースとしているから、サービスの継続的な向上が期待できる。また、マップの色やフォントなどを変更できる柔軟性があり、Foursquareに合わせたカスタマイズが可能になる。3つめは、インタラクティブマップ用のJavaScriptライブラリ「Leaflet」だ。Foursquareでの使用が、オープンソース・コミュニティへの大きな貢献になる。

OpenStreetMapへの移行はメリットばかりではない。Googleマップはインタラクティブな動作の完成度が高く、データも豊富で、また多くのネットユーザーやモバイルユーザーがすでに慣れ親しんでいる。昨年後半に、GarminがGarmin ConnectのマップをGoogleマップからBing Mapsに変えたときには、使い勝手に戸惑ったユーザーがフォーラムで不満を爆発させた。MapBoxもGoogleマップに比べると成長途上という感じが否めず、現状ではFoursquareがマップサービスの選択肢づくりに乗り出したと言っても過言ではない。だから冒頭の「他のスタートアップの手助けになれば……」というような発言が出てくるのだろう。客観的に見て、今はまだデメリットの方が大きいように思う。

なぜFoursquareはリスクを顧みずにマップ・プロジェクトを急ぐのか。そこに同社が語らない本当の変更の理由がある。Googleとの直接的な競合だ。かつてGoogleは、Foursquareにとって単なるマップサービスのプロバイダだったが、検索のパーソナライズを押し進める上でGoogle LatitudeのチェックインやGoogle Placesのおすすめなどを試み、それらは今Google+に統合されようとしている。いつの間にかGoogleのアプリとサービスが、Foursquareのサービスを覆い尽くそうとしている。

Foursquareのブログを読んでいて、2年前のWeb 2.0 Expoで、Search Engine LandのDanny Sullivan氏が行った「The Search Platform: Friend Or Vampire?」という講演を思い出した。以前のGoogleは、検索を通じてシンプルにWebユーザーとWebコンテンツを結びつける存在だった。ところが、コンテンツ所有者から取り込んだ情報を、検索結果により多く盛り込むことで検索ユーザーを自分たちのサービスにとどめておこうとし始めた。例えば、ピザ屋を検索すると、結果でローカル情報サイトの評価やレビューなども確認できるから、ユーザーはそれだけを参考に店を比較し、なかなかローカル情報サイトに移動しない。「それは適正な使用の範囲なのだろうか? 検索エンジンはコンテンツ所有者の血を吸い取って干からびさせ、ほんの少しの価値しか返さない。吸血鬼ではないだろうか?」とSullivan氏。その警告の対象が今、サービスにも広がってきた印象を受ける。

2010年のWeb 2.0 Expoの基調講演でスピーチするSearch Engine LandのDanny Sullivan氏

情報豊富な検索サービスは「デジタル吸血鬼」!?

Google Maps APIの有料化が原因でFoursquareが離れたのなら、Googleの新しいビジネスモデルが浸透するまで落ち着かない状態が続くだろうが、大きな流出はいずれ止まるはずだ。しかしGoogleを利用するスタートアップが、いつか寝首を掻かれるかもしれないと危惧しているのなら、WebプラットフォームとしてのGoogleの長期的な見通しに暗雲が漂う。Foursquareのような成功を収めているサービスがGoogleの替わりとなるサービスの成長を支援し、道を切り開くことで、いずれ個人や小規模サービスにまで脱Googleが広がるかもしれない。これがその"蟻の一穴"になる可能性がある。