オバマ政権が発足し、どのように"チェンジ"を実現してくれるかに注目が集まっている。演説の上手さからカリスマ性のあるリーダーと目されているオバマ大統領だが、変革を率先するリーダーシップを期待すると当てが外れそうだ。同氏は政権規模で指導力を発揮する従来型のリーダーではないように思う。ネット世代、それも2.0世代の大統領と言われるのは、ネットを巧みに利用したからだけではない。メッセージを伝えるだけではなく、支持者の声を聞きながら参加を促し、それを大きな力に変えられるリーダーシップを備えるからだ。けん引するのではなく、すみずみにまで浸透し、個々の力を引き出す新しいタイプのリーダーだからこそ、個人献金の積み重ねによる"オバマ現象"を巻き起こせた。同氏の持ち味が政権にも活かされれば、チェンジの実現は国民の役割になる。

国民の声を聞くとか、参加を促すことから、この難局を乗り切れるような力を生み出せるものかと疑問に思う人も多いと思う。それがクラウドの力……で片付けては説得力はゼロなので、そこで今回考えてみたいのが、オバマ陣営も活用しているこちら。「Twitterのアクセスは1年で10倍、Diggを抜く - 大統領就任式でも急増」である。

フォローしたら、すぐにフォローし返してくれるオバマ氏のTwitter

「いまなにしてる?」では挫折したが……

HubSpotが昨年12月にリリースしたレポートによると、Twitterユーザーの70%は2008年に登録したそうだ。現在1日に5,000~10,000アカウントのペースで拡大しているという。2008年、特に後半から急成長したサービスと言える。

Twitterは難しいツールである。仕事柄、話題になり始めた時にすぐに試してみたが、すぐに「こりゃダメだろう」と思った。当方まったくマメな人間ではないので、「What are you doing? (いまなにしてる?)」と呼びかけられても、「おかずの鯖みそ、おいしい!」とか発信したいと思わないし、読みたいとも思わない。仲間内にステータスを知らせるなら、IM (Instant Messenger)で十分と思った。その時はどのように役立てられるかをイメージできずに、そのまま放置する状態がしばらく続いた。

それがWeb 2.0 Expoに参加した時に、Twitterの便利さに開眼した。まずイベントのTwitterが用意されていたので、それを中心に参加者の間でフォローしあったら、役立つ情報がどんどん入ってきた。例えば時間が重なって聴講できないセッションの様子を尋ねたら、面白そうなデモの予告をリアルタイムで教えてもらえた。自分の方は期待外れだったので、すぐにセッション移動である。他にも「2階の通路に無料アイスが置かれている」とか、複数用意されていたウエルカムパーティ会場の料理情報などがどんどんアップデートされた。さらに印象的だったのが、セッションのQ&Aで質問者と講演者が議論になった時だ。議論の中で会場内の誰も正確に分からなかった点を講演者が自分のTwitterで質問したのだ。すると、1分と待たずにいくつかの答えが返ってきた。特定のカテゴリに長けたフォロワーが形成されていれば、Twitterは優れた集合知として機能する。これは大きな可能性だと思った。

個人的には、Twitterは「What are you doing? 」という問いかけの強いイメージが可能性を狭めているように思う。親しいグループの間で日記のようなつぶやきや近況報告を交換するのも利用方法のひとつではある。ただ、それだけではない。むしろWhat are you doing? の答えではない使い方が、Twitterを役立てるコツに思える。例えば特定の分野に絞り込んだ情報交換だったり、顧客サポート、ある分野のニュースや情報のアグリゲータとして使うのも手だろう。

Twitterで役立つ情報を交換・共有するならば、最初から利用方法を想定し、そのために意識的に話題を絞り込んで適切なフォロー、そしてフォロワー作りに努める必要がある。ただし特定のカテゴリで役立つ情報を交換できるグループ作りに成功したら、グループに沿わない発言や無節操なフォローをするとお叱りを受ける可能性が出てくる。グループ分けできない現在のTwitterでは、例えばビジネスとプライベートをひとつのアカウントで使い分けるのは難しい。だから今日のTwitterの活用者には、用途に応じて複数のアカウントを所有している人が多い。

聞いているふりは許さないTwitterのカスタマーサポート

Twitterはシンプルさがメリットである。ただ、それゆえに使いこなすためにユーザーの努力が必要になる。それも、複数のアカウントを使い分けるサードパーティのツールが登場するなど、サポート環境が整い始めて便利になっている。最近の米国のテクノロジーイベントではどこでもTwitterが用意されるようになった。このようにTwitterを活用するコツが浸透してきたのが、昨年後半からの伸びにつながっているのではないだろうか。

昨年12月に参加したAdd-On-Conでは、講演のすぐ横でTwitterの書き込みをプロジェクターで映し出していた

先週Bank of AmericaからカスタマーサービスへのTwitter導入の通知がとどいた。「製品開発やカスタマーサービスでのやりとり、さらには未解決の問題からでも、企業はあらゆるものから貴重な情報を得られる。しかし、それは"聞く耳を持ってこそ"だ」と、公式ブログでTwitter導入の理由を説明している。サポートのフォーラムやEメールでも、ユーザーの声はBank of Americaにとどけられる。だが、それらを受け取るだけでは不十分。読んだ上で、ユーザーが不満を述べている状況や理由を理解する作業を経ないと"聞いた"ことにはならない。コミュニティベースで、フィルターされていないマルチウエイのオープンなやりとりが展開されるTwitterでは、「リアルタイムに消費者の声を聞く状況になる」という。しかも、その情報をユーザーと共有することが、新たなビジネスチャンスにつながると期待している。

Bank of Americaだけではない、StarbucksやSouthwest、Comcastなど、ユニークな理念を持った企業が次々にTwitterをカスタマーサポートに導入している。ここで言いたいのはTwitterの価値ではない。重要なのは企業が顧客の参加を促し、情報を共有しながらコミュニティの力を引き出そうとしている点だ。クローズドに情報をため込むのが当たり前だった少し前の状況を考えると、隔世の感がある。これもオバマ効果なのかもしれない。

そのオバマ氏だが、今のところホワイトハウスの住み心地は快適とは言い難いようだ。

「Xboxからアタリ時代に戻されたような気分だ」

ホワイトハウスに引っ越した日に、ビル・バートン広報担当がワシントンポスト紙にもらした一言だ。オバマ陣営の選挙キャンペーンを支えてきたチームは、ホワイトハウスに採用されている技術の古さ、テクノロジに対する保守的な考え方に唖然としたそうだ。OSはウインドウズXPで、無線LANは禁止。セキュアな電子メールシステムこそ存在したものの、インスタントメッセージやSNS、各種ソーシャルサービスの利用は禁じられている。情報漏洩防止を最優先すべき事情を勘案しても、あまりにも後ろ向き。国民が利用しているネットの世界との接点が希薄すぎる。閉じられた政府をオープンなものに変えるのは、想定していた以上の難題であるようだ。