今回は東京都墨田区にある金属加工メーカー、浜野製作所にお邪魔します。浜野製作所は板金加工やプレス加工、金型の製作などを手がけていますが、実はロボットを作っているそうです。

カラフルな外観が目を引く浜野製作所の本社工場で、経営管理部の石川北斗さんに金属加工と数学との関係についてお話をうかがいました。

-石川さん、本日はよろしくお願いします。

石川さん:こちらこそよろしくお願いします。

-はじめに御社の事業についてお話をうかがいたいのですが、浜野製作所はどのような分野の金属加工を手がけているのでしょうか?

石川さん:はい。金属加工とひとくちに言ってもさまざまな種類があります。板を切ったり、曲げたり、くっつけたりというものは、板金加工やプレス加工と呼ばれています。そのなかでも当社が力をいれているのは、精密板金・精密プレスです。

-精密板金・精密プレスとは、どのようなものなのですか?

石川さん:機械の部品などに使われる金属は極小のものも多く、極めて高い精度の加工技術が要求されます。それをレーザーやプレスブレーキ(板を精密に曲げる機械)を使って作るのが精密板金で、金型と呼ばれる製品の型を使って作るのが精密プレスです。どちらも設備と技術、ノウハウが要求される高度な金属加工です。

レーザー加工機と石川さん

レーザー加工された鉄板

プレス機での作業

-なるほど。私たちの目につくものですと、どのようなものがあるのでしょうか?

石川さん:病院で使われるワゴンやカルテボード、コンビニで揚げものを揚げるためのフライヤー、UFOキャッチャーのクレーンのつまむ部品などがあります。ほかにも外科手術のときに入れる人工骨や、カメラとレンズの電子接点など、さまざまなところで役立っています。

-本当にいろいろなところで使われているんですね!

石川さん:メーカーの製品の試作品なども手がけています。製品の形を検討するときには、実際に試作品を作る場合が多いんです。試作品は大量生産ではなくオーダーメイドですので、メーカーさんと話し合いをしながら形にしていきます。さまざまな要求に応えながら試作品を作り上げることも当社が得意とする分野の1つです。

-毎日違う製品を作っているというわけですか。

石川さん:そうなんです。大量に同じ製品を作る工場とは違い、当社は少量で多くのバリエーションがある製品を作っています。そうなると加工プログラムも多くなりますし、チェックの仕方も違ってきます。試作品などは依頼されるお客様の中でも形が固まっていないこともあります。そうしたなかで、1人ひとりが考えながら密にコミュニケーションをとって製品を作る。それが当社の強みです。

職人さんの手作業

-お話を聞いていますと、金属加工は精密な計算が必要になってきそうですね?

石川さん:設計をおこなう計算などはもちろん必要です。それに、当社は板の状態の金属から製品を作るので、立体物の平面のときの形である展開データを作らなければいけません。くわえて金属の延びや重なりも計算にいれなければいけません。数学の図形の展開図の問題と似ていますよ。

-おっしゃるとおりですね。板から立体を設計するのですから、たしかに図形の問題みたいです。

石川さん:また、プレスして加工した板は、元に戻ろうとする力が働くので、これも計算にいれます。また、溶接をする際も金属を溶かしてくっつけるわけですから、熱による変形を考慮しなくてはいけませんね。

溶接された製品

-技術だけではなく、頭でシミュレーションすることも必要なんですね。御社では工場の見学会なども実施されているようですが、見学した子どもたちの反応はいかがですか?

石川さん:プレス機などの大きな機械を見ると、「オーッ」と声があがったりします。板が立体的なモノになったり、ブロックが意味のある形になったりと、ゼロからイチができる過程を見てもらいたいという思いがあります。そういったところには感動がありますし、ふだん自分たちが学校で学んでいることの実践的な例として捉えてくれたらと思っています。

小学生を対象とした仕事体験として、金属製の立体モデル「メタルツリー」を組み上げる教室も実施しています。この「メタルツリー」は私が設計しましたが、なかなか難しかったですね(笑)。

石川さんが設計した「メタルツリー」

-すばらしい試みですね。ここでのものづくりの感動は実際に工場に来てみなければわかりませんからね。ところで、御社でロボットを作っているというお話を聞いたのですが、本当でしょうか?

石川さん:はい。『ロボット日本一決定戦! リアルロボットバトル』という番組にも出させていただきました。ロボット同士が戦うバトル番組です(笑)。

-どうしてロボットを作ることになったのですか?

石川さん:オリジナルで何かを作ることで、当社を発信していきたいという思いからですね。また、部品を加工できることと、ゼロからものをつくることはかなり違います。試行錯誤をくりかえしながらものをつくるというところは、社員一同とても勉強になりました。同じ思いから電気自動車や深海探査ロボットのプロジェクトなども実施しています。

浜野製作所が制作したロボット

-町工場から技術を発信しているんですね!

石川さん:見ていただいてもわかるように、当社は東京の住宅街にある小さな町工場です。下請け仕事が多く、景気にも左右されるので、いろいろなお客様に対応していかなければいけないたいへんさもあります。

ただ、東京にはいろいろな業種が集まっていますよね。そのような東京ならではの強みを生かして、さまざまな業界と連携することで、新しいプロジェクトを打ち出していこうと考えているんです。

-町の力を集結させるんですね。

石川さん:そうですね。今年の4月から「Garage Sumida」というものづくりの実験工場を立ち上げました。先端技術と職人技を武器に、さまざまな業界とにコラボレーションをおこなう拠点施設です。

-新たな挑戦ですね! ところで石川さんは数学はお得意でしたか?

石川さん:得意でしたよ。座標の問題などはおもしろくて大好きでした。大学は商学部に入りましたが、高校は理数コースでした。理系科目は基本的に好きで、科学者になろうと思ったこともありました。

-現在のお仕事で数学を使われていることはありますか?

石川さん:まず、お金の計算は基本ですよね。また現場では、展開したときの製品精度を調べる展開検査などでも使います。会社や地域を活性化するためにいろいろな企画も考えていますが、それを人に説明するときには論理的な意見にしなくてはいけません。そういったときは数学的な思考が使われているかもしれませんね。

-たいへんなお仕事だとは思いますが、応援しています。本日は貴重なお話をありがとうございました!

石川さんはつぎつぎに企画を考え、ものづくりの魅力を発信されている方でした。

若いパワーで町工場だけでなく、地域全体を引っ張っていきたいという意思を強く感じました。先端技術を理解するためにも、基本的な数学は必要になるんですね。これからも技術の魅力を世界に発信していって欲しいと思いました。

今回のインタビュイー

石川北斗(いしかわ ほくと)
株式会社浜野製作所経営管理部
1984年静岡県出身
一橋大学商学部卒業後、テレビ番組の制作会社を経たのち2011年から現職

浜野製作所

このテキストは、(公財)日本数学検定協会の運営する数学検定ファンサイトの「数学探偵が行く!」のコンテンツを再編集したものです。

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