本日はロート製薬株式会社にうかがいます。デスクワークの眼疲れや、つらい花粉症に欠かせない目薬。今回は目薬に隠された理数的な秘密をお聞きするために、ロート製薬株式会社の東京支社でマーケティング&プロモーション部の山田悦子さんにお話をうかがいました。

-山田さん、本日はよろしくお願いします。山田さんはマーケティング&プロモーション部で具体的にどのようなお仕事をされているんですか?

私はマーケティング部門のPRを担当しています。FacebookなどのSNSも担当していますよ。

-なるほど。ロート製薬といえば目薬のイメージが強いのですが、やはり目薬が主力商品なのでしょうか?

確かにロート製薬は目薬のイメージが強いかもしれませんが、今の会社の売り上げの6割以上はスキンケア関連の商品なんですよ。ただ、ロートムンド博士というドイツ人の眼科医の名前から「ロート目薬」を発売し、のちに、ロート製薬という名前になりましたので、目薬はわが社を象徴する商品ではありますね。現在も目薬のリーディングカンパニーとして活躍させていただいています。

-こちらに用意していただいた目薬、すごい種類ですね!

花粉症などの症状を抑える目薬や、子ども用の目薬など、さまざまな用途に合わせたものを開発しています。その中で注目していただきたいのが清涼感についてです。パッケージの裏を見てください。

-「清涼感レベル」という項目がありますね。

はい。清涼感の強さを数値で表しているんです。たとえば、こちらの「ロートビタ40α」は清涼感レベル3で、「ロートクール40α」は清涼感レベル5になります。

-なるほど、試させていただいてもいいですか。レベル3とレベル5で比較してみます…なるほど! 清涼感が全然違いますね! レベル3でも結構強めに感じましたけど、レベル5は頭がさえそうな刺激があります。

今、さしていただいた目薬は、メントールとユーカリ油が入っているものです。そのほか、カンフルなどが入っているものもあります。これらの成分の組み合わせで清涼感が生まれるのですが、その調整は本当にミクロの世界なんです。そのミクロなレベルでの差を眼は感じ分けるんです。本当に少しのバランスの違いで感じ方が変わってくるんですよ。

-ミクロのレベルですか。そんなに微細な差異を感じとっていたとは…。

社内に目薬ソムリエのような人がいて、日々研究しています。鋭い清涼感やふわっと拡がるような清涼感など、人が感じるさし心地はさまざまなものがありますが、何か1つの成分をたくさん入れればそれが実現できるというわけではないんです。いろんな成分と成分の組み合わせでさし心地を作り出すんです。

-目薬ソムリエ! そんな方がいらっしゃるんですね。

そうです。さし心地には好みや個人差がありますから、目薬のバリエーションも豊富にしてあります。カレーの辛さの好みと同じだと考えていただければわかりやすいかもしれません。さし心地にこだわった目薬の開発は、日本でとくに発達した技術です。昭和24年(1949年)、朝鮮戦争の前年に発売されている「ロート目薬」にすでに清涼感があったそうですから、ロートの目薬の清涼感には結構歴史があるんですよ。

-そんなに古くから清涼感に注目していたのですか。そういえばすごく粘度の高い目薬もありますよね?

はい。目のかわき(ドライアイ)でお悩みの方におすすめの「ロートドライエイドEX」という目薬があります。この目薬はヒドロキシエチルセルロースなどの高分子の増粘剤で粘度をだしています。また、この目薬は涙にできるだけ近い処方設計になっていて、無機塩類やヒアルロン酸Na、ゴマ油なんかも入っているんですよ。

-ごま油ですか! 本当に色んな成分が入っているんですね。

はい。実は私たちの涙もいろんな成分が入っているんです。涙には油の層があり、その油分がまつ毛の近くのマイボーム腺から分泌されることによって眼の乾燥を防いでいるんです。その油の層がなくなり、涙が蒸発してしまうと乾燥や疲れにつながるんですね。だからこれを目薬で補完してあげることで、目の乾きや疲れを軽減させることができます。

-涙には最初から油が入っているんですね。大変勉強になりました。ところで、パソコンの仕事が多いと眼が疲れますよね。これも涙に関係するのですか?

涙が少なくなると目の乾きから目の表面がダメージを受け、目が疲れることがあります。ただ一般的に目の疲れは、目のピントを調節する筋肉の疲労が主な原因として考えられます。眼は、何かものを見るときに水晶体の厚みを調整しているのですが、この調節を行う筋肉をピント調節筋と言います。近くを見るときは、この筋肉を緊張させることによって水晶体を厚くします。

-たしかに眼が疲れるとピントが合わなくなりますよね。

はい。逆に遠くを見るときは、この筋肉が緩むわけです。目が疲れる原因の1つは、パソコンなどで近く見続けることで、この筋肉が常に緊張状態になり、その結果、筋肉の疲労が引き起こされるのです。だからこの筋肉をほぐしてあげることが必要になりますね。わが社の商品「ロートアイストレッチ」はこの筋肉の疲れをほぐす効果のある、ネオスチグミンメチル硫酸塩という成分が配合されています。ちなみに、コンタクトレンズを装用中の目の疲れをほぐす「ロートアイストレッチコンタクト」というタイプもあります。

-いろいろな工夫がされた商品があるんですね。バリエーションの豊かさにも納得です。ところで、山田さんはもともと薬学などを学んでいらしたのですか?

私は薬学系ではないんですよ。私は生態学が専攻でした。小さいころから花が好きだったので、おもに植物生態の研究です。専門はすずらんで、防風林の中で自生しているすずらんの分布などを研究していました。ハチを捕まえて付着した花粉を数えたり…。結構地道な作業でしたけど楽しかったですね(笑)。

-生態学にも数学を使うんでしょうか?

数学は正直あんまり得意じゃなかったんですね(笑)。生態学をやっていても、シミュレーションとかプログラミングとかには数学を使わなきゃいけなくて、結構たいへんでしたよ。でも、今の仕事をしていても、やっぱり理系ですので数学でつまづくことは文系の方よりは少ないかもしれないです。「理系でよかったな」、と思うことはたくさんあります。商品のしくみがわかっていないと、PRをするときも説明ができないですからね。

-勉強したこととは異なっていても、基礎としては役に立っているんですね。山田さん、本日は忙しい中、ありがとうございました!

あれだけたくさん目薬のバリエーションがあるのは、薬の成分の組み合わせによってそれぞれの症状に適した目薬を作る必要があるからなんですね。パソコンなしでは仕事にならないことが多い現代、じょうずに目薬を使って目を大切にしていきたいです。山田さん、数理で読み解く清涼感のお話をありがとうございました。

今回のインタビュイー

山田 悦子(やまだ えつこ)
東京都生まれ。北海道大学大学院地球環境科修了。
ロート製薬株式会社マーケティング&プロモーション部に所属。おもにスキンケア製品や目薬のPRを担当。
趣味はグルメ&華道

このテキストは、(公財)日本数学検定協会の運営する数学検定ファンサイトの「数学探偵が行く!」のコンテンツを再編集したものです。

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