H-IIAロケット19号機の打ち上げが迫っています。日本は自国で大型ロケットの打ち上げを見られる数少ない国です。高さ53m、重さ約300tのロケットが轟音とともに宇宙へ向けて上昇していく迫力は一見の価値があります。ぜひ機会を作って見に行ってみてください。

種子島宇宙センターから打ち上がるH-IIA19号機

H-IIAロケットは日本の主力ロケットで、2001年からこれまでに18機が打ち上げられています。そのうち、2003年に6号機が打ち上げに失敗した以外は17機が成功しています。

H-IIAロケットの打ち上げ成功率は現在94.4%。これは世界のほかの大型ロケットと比べてもひけをとらない数字です。この8月は中国の長征、ロシアのソユーズと打ち上げ失敗が続きました。いやなムードを払うように、19号機の打ち上げはうまくいってほしいものです。

19号機の打ち上げが成功すると、19機中18機が成功したことになります。成功率が何パーセントになるかは自分で計算してみてください。

日本は自国で大型ロケットの打ち上げを見られる数少ない国

日本には、大型ロケットの打ち上げ場(射場)が2カ所あります。種子島と、大隅半島の肝付町です。種子島の南端にある種子島宇宙センターからは、H-IIAロケットやH-IIBロケットが打ち上げられています。

肝付町の内之浦宇宙空間観測所では、2007年までM-V(ミューファイブ)ロケットが打ち上げられていました。M-Vは小惑星探査機「はやぶさ」を打ち上げたロケットです。内之浦では現在、小型の観測ロケット、S-520などが打ち上げられています。また現在開発中のイプシロンロケットは、2013年に内之浦から打ち上げられる予定です。

少なくとも2013年までは、日本での大型ロケットの打ち上げは種子島でのみ見られるということです。

ロケット打ち上げはほかに比べるものがない迫力

H-IIAロケットは高さ53m、重さ約300tと書きました。この大きさのものを持ち上げるだけでも大変ですが、最後には秒速10km近くまで加速し、地球の重力をふり切って宇宙へ行くわけですから大変なエネルギーが必要です。

H-IIAロケットの打ち上げでは、打ち上げ地点(射点)から3km以内は立ち入り禁止となります。それだけ離れて見ても、打ち上げのパワーは充分に体感できます。

花火大会を見に行くのとテレビで見るのとでは、迫力がぜんぜん違いますよね。頭上で爆発する打ち上げ花火のドンという音が腹の底に響くのは気持ちがよいですが、あの力強い低音はテレビでは伝わりません。

ロケットの打ち上げにも同じところがあります。映像だけで見るロケット打ち上げではゴゴゴゴゴ、という程度の音は聞こえますが、現地では空気を震わせるような轟音を全身に浴びることになります。ロケットエンジンから噴き出す燃焼ガスの速度が音速を超えるため、その衝撃波が伝わってくるのです。その迫力は打ち上げ花火の比ではありません。マンガでしばしば「バリバリバリ」と表現される衝撃波は、映像からは感じ取ることができません。

そしてまたすごいのが、そのようなエネルギーを持った巨大な機体がわずかな時間で目の前から消え、宇宙へ行ってしまうという事実です。ロケットから届くすさまじい轟音を感じられるのは10秒から20秒程度で、ロケットが上空へ去ってしまうと周囲はまたもとの静かな島に戻ります。独特の緊張と弛緩があるのが、ロケットの打ち上げ見学の魅力です。

H-IIAロケットは、打ち上げの12時間ほど前に機体移動が行われます。ロケットを整備棟(VAB)から射点へ移動させるもので、立ったままゆっくりと移動していくロケットを見るのもまた趣があります。

2006年2月22日のH-IIA 9号機の打ち上げ。このときは打ち上げ後10秒ほどで雲の中に入ってしまった(筆者撮影)

打ち上げ見学はスケジュールに余裕を持って

H-IIAロケット19号機の打ち上げは、当初8月28日の予定でしたが機器の不具合で延期されました。このようにロケットの打ち上げはよく延期されます。ロケットはとてもデリケートなものだからです。

ロケットは打ち上がったら途中で止めることはできませんし、打ち上げ後に故障が見つかっても宇宙へ修理に行くことはできません。ハッブル宇宙望遠鏡の修理にスペースシャトルが向かったことがありますが、これは例外中の例外です。

しかも、ロケットと人工衛星の部品点数は合わせてざっと100万点にもなります。自動車の部品点数はおよそ10万点と言われますから、文字通りけた違いに複雑なシステムです。

これほどのものを完成させ、打ち上げ可能時間帯(ウィンドウ)に合わせてすべてが問題なく動くようにしなければなりません。少しでも問題が見つかれば、できる限り解決してから打ち上げることになります。そのために、ロケットの打ち上げは延期が珍しくないのです。

天候の回復を短時間待つなどのケースでは、数分から数時間程度の延期ですむこともありますが、機器の不具合が見つかり数日から数カ月延期されることもあります。何カ月も延期されればあきらめもつきますが、帰りの切符の翌日へ延期されたのではたまりません。切符は日時を変更できるものにし、休暇もなるべく長く確保しておくことをすすめます。

宿泊施設は種子島の場合、宇宙センターに近い南側から埋まっていきます。それでも種子島は大きな島ですから、島の北部にある西之表市であれば、直前でも宿泊予約が取れるかもしれません。西之表市から種子島宇宙センターまでは車で1時間ほどです。

19号機で打ち上げられるのは偵察衛星

今回H-IIAロケット19号機で打ち上げられるペイロード(荷物)は情報収集衛星(IGS)です。名前は穏便ですが実態は偵察衛星、スパイ衛星ですから、安全保障上の理由から保安が強化されます。その一環で、ほかの衛星の打ち上げで行われるような一般見学席でのカウントダウンは省略されるかもしれません。

宇宙開発は軍事とも密接なつながりがあります。日本が偵察衛星を打ち上げ、運用しているということもよく知っておきたいものです。見に行けば迫力があり、同時に日本について考えるきっかけになるイベントという点では、陸上自衛隊が行う総合火力演習もぜひ見てほしいと思いますが、それはまた別の話。

今年度はほかにも、水循環変動観測衛星「GCOM-W1」や別の情報収集衛星、また国際宇宙ステーション補給船「こうのとり」(HTV)3号機の打ち上げが予定されています。いずれも種子島から、H-IIAやH-IIBロケットで打ち上げられます。

打ち上げ見学の詳しい情報を知るには、「種子島 打ち上げ見学」などで検索すれば、たくさんの打ち上げ見学レポートが出てくるでしょう。

種子島宇宙センターには施設内をバスで回る見学ツアーがありますし、島のきれいな砂浜や海の幸も楽しめます。ちょっと余裕を持った観光旅行として、ロケット打ち上げを見に行ってみてほしいと思います。