損害保険会社である損害保険ジャパン(以下、損保ジャパン)が、社内SNSを導入し、「マーブル戦略」により効果を上げているというので、その使い方を2回に分けて紹介していきたい。まずは、マーブル戦略とは何か、導入のきっかけから実際の導入までを、同社経営企画部の槻木清隆氏、青木聖子氏、沖圭一郎氏に聞く。

人間関係の喪失とデータ管理の問題

損害保険ジャパン 経営企画部 経営品質グループ 課長 槻木清隆氏

3年前、損保ジャパンで「改善改革をするために現状を把握しよう」と社員の声を幅広く集めたことがある。その結果、社内の情報に関する問題点が多く集まった。大きく分けると、問題は3つあった。

  • 営業やサービスセンターの拠点は全国にあり、業務は共通しているにもかかわらず、取り組みやツール、ノウハウが共有できていない
  • 情報量が多く、検索しても必要な情報になかなか到達できない
  • トップダウン的な通達は多いが、ボトムアップで経営陣が現場の声を吸い上げる手段がない

これらの問題を検討するにつれわかってきたのは、データベースにデータを溜めるうち、情報が深い層に埋まってしまうこと、メールや掲示板の導入により効率化はしたものの、対面でやりとりしていたころにはあった"人間関係"が失われたことだった。折しも経費削減で、運動会や社員旅行などの「我が社意識」を培うのに役立っていた福利厚生がカットされていた。問題を解決するためには、新たな仕組みで、データの活用と人間関係という両方の問題をクリアする必要があることがわかった。

以前はあたりまえだった「対面の関係」が失われつつあり、社内での情報共有が行われなくなる(画像提供: 損保ジャパン)

mixiでSNS体験、マーブル戦略へ

経営企画部の槻木氏らは、社内SNSのパイオニアであるビートコミュニケーションの村井亮氏と出会ったのをきっかけに、まずmixiにユーザーとして参加した。お手本となる人を見つけ、コメントの付け方などを学び、マイミクを増やしていった。「日記を書いてコメントが1つもつかないとかなり寂しい」ということもそのとき知った。SNSの、人間関係の構築ができ幅広い人と会話ができるところに魅力を感じて、社内SNS導入を決意、2006年5月にビートプロの初期製品を入れることにした。

損害保険ジャパン 経営企画部 経営品質グループ 青木聖子氏

通常は、全社で1つのSNSを導入するのが一般的だ。しかし損保ジャパンは違った。複数のSNSを同時に立ち上げたのだ。支払い部門、内勤部門、お客様センターなど部門に特化したSNSや、入社3年目までの新入社員SNSなど、多岐にわたるものだ。

中にはもちろん失敗もあるが、それが大事だったという。失敗から、コンセプト、ファシリテーター、メンバー、仕組みなどの何が問題だったのかを追求していく。それにより、成功のポイントが徐々に明らかになってきたのだ。これが「マーブル戦略」だ。

たとえば入社3年目までを対象とする「新入社員SNS」は、今でこそ活発に回っているが、mixi世代だから放っておいても盛り上がるだろうという予想を裏切って、開始当初はまったく活発ではなかった。彼らはすでにメーリングリストやmixiなどのやりとりするための手段を持っており、わざわざ会社でする必要がなかったのだ。その反省を踏まえて、2007年度は社員教育用のツールとして使うことで、盛り上がるようになったという。日報を日記にし、チームや人事からコメントが入る仕組みにしたのだ。

全社版SNS「社員いきいきコミュニティ」

損害保険ジャパン 経営企画部 経営品質グループ 課長代理 沖圭一郎氏

2006年5月、損害保険ジャパンは、全社2週間の業務停止命令を受けてしまう。第一線の現状が経営陣に届かず、内部統制的に課題があることが明らかになった。そこで10月、対策として全社版SNS「社員いきいきコミュニティ」を開始した。これには、従来の横のつながりだけでなく、縦のつながりも良くしようという狙いがあった。日々の問題や気づきを現場と経営陣が共有できる仕組みを作ろうとしたのだ。

スタート時の参加者は、約1万5,000人の社員のうち850人。全員参加型ではなく、各職支社から1、2名ずつ代表を出してもらう「任命型」という形を取った。任命型の良いところは、どの支社からも声が拾えることだ。ところが、ネットリテラシーが低い社員が多く、「ネットが使える人」を参加条件にしたら支社に1人もいないということもあり、導入の際には具体的なヘルプや助言も必要となった。

結果、新入社員から60歳以上の再雇用者まで年齢も性別もバラバラのメンバーが集まった。ただし、言いたいことが言えなくなると困るので、ラインのリーダー以上は入れないことに決めた。その後一定期間の招待キャンペーンの結果、現在は1,500名を超えている。

SNSは、家や携帯からでも見ることができるようにした。セキュリティを考えて仕事のファイルは直接貼れないようにしたが、会社からはリンクですぐにファイルが見られるようにした。

情報をすべて見ることができるのはファシリテーターである経営企画部のみ。かわりに、リーダー以上には、社内SNSで起きたことを1カ月ずらして月1回のペースで報告している。すぐに報告してしまうと、誰の発言かがわかってしまうかもしれないからだ。SNSで拾った言葉は、「こんな一言で信頼をなくす」「信頼を作るためにはこれだけのことが必要」などと実例として使えるものばかりだ。これにより、経営陣は現場で起きていることを知ることができるようになった。

「社内いきいきコミュニティ」では、リーダー以上はメンバーに入れない。一般社員の生の声を社内SNSですくい上げ、経営企画部が経営陣に報告する仕組みになっている(画像提供: 損保ジャパン)

今後、現場の担当者は人間関係を作ることを目的としてつながり型のSNSを使い、SNSに参加できないリーダー以上は考えを会社の中で生かすことを目的として発信型のブログを使うというような使い分けを考えている。

次回では、社内SNSを成功に導くポイントと導入による成果などについて聞く。

【基本データ】

  • 特徴: マーブル戦略
  • 使用製品: ビートコミュニケーション ビートプロ + オプション
  • 使用時期: 2004年より開始、全社型SNSは2006年10月より開始
  • 利用者: 1,510名(2007年11月時点)
  • ファシリテーター: あり(複数制)
  • 参加方法: 任命型(各部署から代表1、2名)、一部招待制
  • 直近2週間で611人、登録ユーザーの約40%がログインしている
  • 日記は1日約20本、コメント約180件
  • コミュニティトピックは平均2件