他の情報ツールとは役割を異にする

社内SNS導入時、OKIにはすでにコミュニケーションのための既存システムがたくさんあった。しかし、それぞれを運営しているのも社員だ。敵に回してメリットはない。そこで、役目をダブらせないよう注意したという。

たとえば掲示板だ。掲示板はすでに2000年には存在しており、専門家に何でも聞けるツールとして設定されていた。社長のオーダーで、ナレッジマネジメントを推進するために作ったオフィシャルサービスだったのだ。担当者には、それぞれを別物として説明したという。「その当時では先端的なツールだったのでしょう。メールで更新を教えてくれたり、コミュニティごとに分かれていたりしたのですが、管理人にメールをしないと入れないので使いづらかったのです。ユーザーフレンドリさが足りなかった」(堀田氏)。

SNS導入までにはいくつかの障壁があったが、1つ1つ丁寧に対応してきた堀田氏(左)と塚本氏。「大きかったのはやはり、社長のオーソライズを得られたこと。こういった社内プロジェクトはスポンサー的な役割を果たす上層部の存在が成功の秘訣になる」(堀田氏)

そのほかに社内ブログもある。部署のブログ、部長やカンパニープレジデントが書くブログ、社員一般が書けるブログなどがあり、OKI内で部門ごとに情報発信などに使われている。さらに、日本企業の90%以上が入っているとも言われるグループウェアももちろん導入されている。全社で、あるいはカンパニー/事業グループ単位で、Notesやdesknet's、サイボウズなどさまざまな製品を使っている。

「SNSはグループウェアともまったく違います。グループウェアにある機能はSNSには要らない」(堀田氏)。社内ブログやグループウェアとは違い、社内SNSは、自分用のポータルを作り、業務や発信に限らないつながり方をするものだから「かぶらない」という考え方だ。ちなみに、これだけたくさんあるツールの中でも、書き込みが一番多かったのは社内SNSだったそうだ。一般社員を気軽に積極的に参加させるという意味で、効果があったと言っていいだろう。

"mixi風"が成功の秘訣!?

社内SNS「Crossba」のログイン画面

実は、サイトを構築する際、初めからOpenPNEを利用しようと考えたのではなかった。その前に、SNS機能を持った市販のCMSパッケージを利用して作っているのだ。

「機能的にはSNSだったのですが、みんなに『これはSNSと違う』とダメだしされてしまったのです。それでmixiそっくりのOpenPNEを持ってきたところ、『これこれ』と(笑)。一般的な人たちにとってのSNSの標準的なユーザインタフェースは、すでにmixiなのです。それに沿った形にすることは重要だと感じました」(堀田氏)

そのころ、社内でのmixi利用が禁止になった。そこであえて社内SNSのスキンをオレンジ色にしてmixiっぽい見た目にしたところ、「何でmixiが見られるの?」と社員の食いつきが良かったという。ちなみにスキンは社員自作であり、3カ月くらいのスパンで、季節が変わり目や飽きがきたころに変更しており、これまで秋は枯れ葉、冬は雪の結晶、夏の今は晴れた青空の色などとなっている。

システムとしては携帯電話にも対応しているが、社外から携帯電話によるネットワークアクセスは許されていない。また、VPNにしていないと自宅からも見られない。「携帯から自由に見たい」というリクエストはある。「他のシステムで携帯からのアクセスを推進しているので、それに便乗して実現したいですね」(堀田氏)

また、それ以外の成功の秘訣としては、"エース"となる人を発見することだという。「SNSが盛り上がるかどうかは、盛り上げてくれる人が出てくるかこないかです。意外な人がエースになることがありますね」

それから、「運営する側は必ず回答を用意しておくこと」と堀田氏はアドバイスする。「『他人の昼飯の話を聞いて何が嬉しいんだ』とか『業務時間中に業務以外の話をしていていいのか』というよくある質問に対する回答を用意しておく必要があります。納得できるような回答がなければ失敗します。そういう意味でも、オーソライズは重要です。事前にスポンサーを説得できるストーリーを準備しておくことが大事なのです」

社内アンケートもSNS上から簡単に作成/実施できる

知名度アップとカジュアルさの共存が課題

社員が利用するということで、昼休みの時間に最もアクセスが増える。ある日、割り当てていたメモリ量では足りなくなり、急いで対応しなくてはならなかったことがあるそうだ。嬉しい誤算と言っていいだろう。

今の悩みとしては、知名度の向上とカジュアルさの共存だ。当初、新入社員が招待されて上司に聞いたところ、上司が「こういう危ないものには近づいちゃダメ」と入れさせてくれなかったことがあるという。「社員には、プレジデントが説明に行きますと言っています。知名度を高めようと思ったらイントラに出せばいいのですが、今はまだインフォーマルなカジュアルさでじっくり育てる段階。使ってみて良さを実感してファンになってくれる人が増えることが大切だと思っています。どうやってその価値を提供できるのかが課題ですね」

全文検索機能。SNS、Wiki、SBSの串刺し検索が可能。PDFなどの添付ファイル内も検索可能だ

営業マンに大好評な「Q&A」

Q&A機能では特に技術的なことが多く質問されている。「Q&Aは特に営業マンに喜ばれていますね。『こういうものが求められているけれど知らないか』とか、『どこでやってるのか』などの質問が数多く上がっています。そもそもどこに聞いたらいいのかわからないことでも質問しやすいところが好評です」(堀田氏)。

仕事でロケーションが離れている人たちにも利用しやすく、チームの集合管理、案件管理などもログを残す意味で使いやすいという。「アルファブロガーならぬアルファダイヤリストが生まれてきて人気になっていますね。普通にしていたら絶対会わなかったような人たちとオフ会も開かれています。カラオケやガンダム好き、鉄道好きなど、趣味で集まっていますね」

これまでの成果としては、「今はまずコミュニケーション、知り合いましょうの段階。情報共有がどこまでできているかはわかりませんが、聞く場所ができたり知り合えたりという意味では感触はあります。そもそも、ビジネスのつながりは人のつながり、信用が元になって仕事になるものです。趣味が同じとわかればやりとりがもっとスムーズになるし、市場は何がヒットするかわからないものです。いろいろな知識が集まったところでイノベーションを起こすのが重要なのです」

1年後を目指して成果を上げたい

「今後は、1年間でユーザーを1,000人くらいずつ増やしていきたい」と堀田氏は語る。「2年間で5,000人くらいになれば、社員全体の約4分の1になります。ネットワークの持つ情報量は数に依存するので、数は増やしていきたいですね」

社内SNSは、導入の効果測定が難しいことがよく問題視されている。SNSの勉強会で必ず出るのが、「KPI(重要業績評価指標)はどうするか」という話題だという。「効果として定量的なものが出しづらいので、2年間はできるでしょうが、3年目はどうするのかが問題です。それまでに方向性を持って何をやっていくかということが大切だと思っています。つまり、来年の今ごろまでにどのように発展させるかが大事なのです。ただ、SNSのようなCGMでは運営者もただの参加者です。どう転ぶかは制御できません。そして参加者の想像力次第でいかようにも使用することのできる自由なシステムです。このカオス状態から新しい何かが生まれるのを期待していると伝えていくしかないですね」

OKIの社内SNSだけでなく、社内SNS自体がまだまだ手探り状態のものだ。しかし、効率化以外の中から生まれてくる確かな手応えはある。今後、どういう成果につながっていくのか、楽しみにしたいと思う。