就職活動は一筋縄ではいきません。準備不足のやらかし、判断に迷う場面、予想外のアクシデント――振り返れば「事件」だらけという人も少なくないでしょう。

実際の就活生の体験を描いた大人気漫画『就活でやらかした話』(青木ぼんろ作)をもとに、人事のプロに「その行動は正解だったのか?」をジャッジしてもらう本シリーズ「就活やらかし診断書」。

今回お送りするのは「生成AIで志望動機を作成」です。

■就活やらかし体験談「迷った挙句、助けを求めた先」

夕暮れの窓の外がゆっくりと暗くなっていく。小さな机にノートパソコンを置き、就活生の佐久間は腕を組んで画面を見つめていた。

佐久間 「うーん……志望動機どうしようかな……」

額に小さな汗をにじませながら、何度もカーソルを動かしては止める。何を書いても陳腐に思えてしまい、結局消してしまうのだ。

だが次の瞬間、佐久間にふとひらめきが訪れる。顔がぱっと明るくなり、彼は思わず指を立てて叫んだ。

佐久間 「あっそうだ! AIに考えて貰えばいいんだ!!」

  • AIに志望動機を書かせる!? それって採用担当にバレないか?

    青木ぼんろ作『就活でやらかした話』より

→✅この話を漫画で読む

胸の奥の重苦しさが一気に消えた気がした。悩む必要はない、これで解決だ――。佐久間は生成された文章をそのまま履歴書に貼り付け、ほっとしたようにパソコンを閉じた。

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数日後、面接当日。
会議室の静けさの中で、面接官が佐久間の履歴書を手に口を開く。

面接官 「出してくれた履歴書の志望動機なんですが」

佐久間は緊張を押し隠し、「はい」と短く答える。背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

面接官は視線を紙に落とし、淡々と続ける。
面接官 「商品名のところが〇〇になってますが、なぜですか?」

一瞬、時間が止まったように感じられた。佐久間の目が大きく見開かれる。

佐久間 「……っ」

心の中で悲鳴を上げる。
――やべぇ……そのままコピペしたから……。

部屋に漂う沈黙が、彼の心臓をさらに早く打たせていた――。

『就活でやらかした話』第41話エピソードより作成

■専門家の診断書「生成AI、使い方を誤れば書類選考や面接で見破られる」

AIに志望動機を任せてホッとした佐久間でしたが、面接での“まさか”に思わず固まってしまいました。整った文章に見えても、自分の言葉がないと一瞬で見抜かれてしまう――そんな就活あるあるを象徴する出来事かもしれません。便利なツールだからこそ、どう使うかがカギになります。では実際、志望動機を書くときにAIをどんなふうに活用すればいいのか。ここからは専門家にアドバイスを聞いてみましょう。

AIで作成した志望動機は必ず見破られてしまう

就職活動で学生が一番悩むのは「志望動機」です。キャリアカウンセラーやネットの就活記事をもとに志望動機のフレームワークに沿って志望動機を作成しても「どの会社でも当てはまりそうだし、誰でも言いそう」な内容に陥ってしまうからです。

また、応募する企業一社一社を同じ熱量できちんと企業研究することは面倒くさいというのも本音でしょう。業界や企業によっては取れる情報量に限りもあるし、第一志望でもない限り、練り上げる熱量がもたないという気持ちもわかります。

ゆえに、AIを使って志望動機をつくらせれば速くラクで確実と考えることは致し方ないですが、ここに大きな落とし穴があります。

AIで作成した志望動機はそのまま提出すると応募企業の人事にバレます。採用する側もAIを活用した志望動機を想定されるパターン洗い出して共有しています。結果、AIの癖を掴んでいるので見抜かれます。大手企業では書類選考にAIを活用する企業も年々増えているくらいです。また、書類審査を通過できたとしても、面接時に見抜かれます。AI任せの志望動機はまとまっていますが、応募者の人となりや体温が伝わってこないため違和感を覚えるため、面接時の質問はどうしても厳しくなります。応募者がきちんと面接対策できていなければ、「はい、そこまで」になってしまいます。

AIで効果を出すには、企業研究や自己分析がキーになる

とは言え、AIを活用するのはNGというわけではありません。自分の情報と企業の情報をうまく整理してもらうことで、一瞬で志望動機が書き上がるので利用しない手はありません。要は使いかたです。

AIは優秀ですが万能ではありません。大事なことは「何をインプットさせるか」です。AIはどんなデータを喰わせたかにより、出てくるアウトプットは変わってくるからです。ネットに落ちているデータ中心では、誰がやっても同じような最大公約数的な無難な内容になります。これでは書類審査通過もままなりません。AI時代だからこそ、面倒くさがらず、企業研究や自己分析を行いましょう。独自の視点が盛り込まれた企業研究や自分にしかないエピソードまで言語化された自己分析を行えば、AIもきちんとその文脈をおさえ、その他大勢から頭一つ抜けた志望動機を書き上げてくれます。

うまく書くためのコツ

ただ、AIが書き上げた志望動機は、あくまでドラフト・叩き台に留めましょう。AIが描いた無難な文章表現から、志望動機でPRになりそうなことの解像度を上げることで、その人と成りと体温を伝えることができるようになるからです。 ここにコツがあります。

意外かもしれませんが採用する側は、志望動機や自己PRをみて「すごい人かどうか」より、「この人と一緒に働きたいか」という視点を重視します。忘れがちですが、面接官は、自分達の部下や後輩として働く人を採用するため精査しているのです。

一方、志望する側は志望動機や自己PRで自分をすごい人と売り込もうとしてしまうもので、ここにギャップが生まれることが多いのです。

ゆえに、AIで書いた志望動機を叩き台に、「どんな人なら一緒に働きたいと考えているだろう。自分のどんな側面を伝えれば、それをクリアできるだろうか」という視点でエピソードを選べば、書類クリアの確度が上がりますし、面接時でもそのエピソードに沿った質疑になるため、有利に進めることが可能になります。

世の中には就活のテクニックが沢山溢れていますが、「自分らしい独自のエピソードを書く」等、わかるようで、どう書いたらいいかわからないテクニックも多く、迷うことも多いでしょう。就活は、自分を売り込む場ではなく、ライバルを蹴落とす場でもありません。応募した企業から選ばれる場であるという視点をもてば、AIでは太刀打ちできない、あなた独自の志望動機を描く勘所が掴めるようになるので、ぜひ、やってみてください。

解説:松本利明(人事ジャーナリスト・コンサルタント)
漫画:青木ぼんろ