さらに比留川部門長は、ロボットも含めたさまざまな製品のリスクとベネフィットにも言及。そこで紹介したのが画像23の「リスク-ベネフィットのバランスによる製品の受容」というプレゼン画像だ。この図からは、リスクとベネフィットを天秤にかけた場合、ベネフィットも大きければ、ハイリスクであっても社会は受け入れるということがわかる。

図の右上に位置する自動車を見れば、それがわかるはずだ。使い方を誤って事故が起きれば命が失われる可能性がある「走る凶器」だ。実際、13年連続で減少しているとはいえ、2013年も交通事故死傷者(24時間以内)は4373人もいる。それでも、現代社会は自動車なしにはなり立たないこと、日本においては主力産業の1つであることなどからも、非常にベネフィットがあるため、社会的に許容されているわけだ(自動車をなくせ、と訴えている人もいるにはいる)。

また家電製品はなくても最悪なんとかなるのでベネフィットは低めだが、同様にリスクも低い。地震で大型冷蔵庫や、かつてのブラウン管による重量級の大型テレビなどが倒れてくるなどがない限りは、使い方を誤ったからといって(実際のところ、誤りようはほとんどないと思えるが)死亡事故が発生するようなリスクもないというわけである。

ではロボット関連はというと、比留川部門長らの考えを表しているこの図では、ロボット関連は、パワードスーツ(アシストスーツ)、ロボティック・ベッド、自律作業ロボット、パーソナルモビリティの4点が例として載せられているが、どれも自動車ほどリスクはないがその代わりにベネフィットもなく、既存のものでは、エレベータ、エスカレータ、電動車いすなどと同じような位置、ミドルリスク・ミドルベネフィットという位置づけだろうという。

ロボット関連は、幾分、リスクの方がベネフィットよりも大きい感じだ(特にパーソナルモビリティ)。自動車、PC、携帯電話(スマートフォン)などのように、もはやなければ社会が回らないというような存在ではないが、あれば家電よりもより生活が便利になったり、楽になったりする一方で、同時に危険性も家電以上のものを持つ存在、というわけだ。

画像23。ロボット関連はあれば役に立つが、危険性もそこそこあるものである

続いて、話題は「安全の責任分担の考え方」について(画像24)。先程、企業が独自に認証を行うのが難しいという話をした。大手メーカーが長い年月をかけて築いてきてブランドイメージというものがあり、自動車や家電など、まず日本の大手メーカーなら問題ないというブランドイメージはできあがっている。しかし、ロボットという新しいものを世に送り出そうとする場合、より一般消費者は安全性への要求を強く求めるわけで、企業ブランドだけに頼るのは難しいという話になる。

そこで1つの手法として考えられたのが、EUなどが特に積極的に推進しているもので、安全規格を制定し、メーカーと一般消費者に加え、第三者の認証機関による責任分担構造を取るという手法だ(日本でも自動車や家電などはすべてこの方法が採られているが、EUではさらに積極的だという)。メーカーは販売製造物責任を一般消費者に対して負い、一般消費者は第三者の認証機関による適合マークを信頼し、認証機関は規格適合性認証をメーカーの製品に対してきっちりと検証したあとに行うという関係である。メーカーと一般消費者の1対1の構造に対し、当たり前といえば当たり前だが、この3者による責任分担というのは問題の起きにくい構造といえるだろう。

画像24。安全の責任分担の考え方

ただし、今回は認証を行う対象がサービスロボットであるという点がポイントである。掃除ロボットを除けば、世界規模で見てもサービスロボットは今のところ市場を形成するほど出回ってはいない。つまり世界でも例がないため、技術のある日本なら、対外的なマネジメントをしっかりと行えれば世界的な主導権を握ることもできるわけだが、そのためには自分たちでさまざまな仕組みを提案する必要があったというわけだ。そのため、生活支援ロボット実用化プロジェクトでは、安全検証センターを設立してサービスロボットの安全性を検証するための方法をまとめ、そこから得たものも含めてISO13482を考案して対外的に働きかけ、国際安全規格として正式に発行させたることに成功したというわけだ。

いうまでもなく、日本はこれまですでに発明済みの多くの製品や機械などをお手本として改良・改善してきた。自動車はドイツが発祥の地だし、家電も米国からである。しかしサービスロボットはどこにも手本がないので、日本は「先陣を切る」のが不得意とされながらも、今回はそれを実施したわけだ。決してここで気を緩めてはならないところだが、今のところはうまくいったといえるだろう。

ただ、これまでも携帯電話などのように先陣を切り、技術的にも決して劣っていなかったにも関わらず、うまくいかずに世界規模で見ると日本独自のいわゆる「ガラパゴス」になってしまったものもある。今回も、欧米はもちろん、中韓も激しく追随しているということなので(特に韓国などはサービスロボットの展開においては日本より先を行っている)、そうはならないようがんばってもらいたいところだ。