1年と少し前にも半導体企業のCEOについての記事を書いたが、その後も半導体業界におけるCEOの話題については大きな動きがあったので、今回は最近の状況についての雑感を述べてみたい。

半導体は増々その社会インフラとしての重要性を増している一方で、目まぐるしく状況が変わる現在の世界情勢においては、そうした半導体企業のCEOに求められる要件は下記のように大きく変化してきている。

  • 技術革新はさらに加速し、最新の技術もあっという間にコモディティー化する。
  • 業界再編、度重なる買収などが起こった結果、事業規模が以前より格段に大きくなっているので、投資案件には大きなリスクが伴う。
  • 市場のグローバル化によりビジネスは主権国家の国境を越えたスケールで展開されるが、それと反比例する形で各国当局は警戒心を強めいろいろな対抗措置をとってくる。
  • 国家間の貿易上の利害関係のせめぎ合いに巻き込まれる地政学的リスクが増大する。
  • GAFAなどの大手顧客は自身の技術を蓄積し、大規模システムに使用する半導体を自社開発する傾向が強まる。
  • グローバルに多様化する社会における企業市民としての社会性を強く要求される。

経理畑のCEOを選出したIntelとルネサス

最近、かなりの間、暫定職であったが晴れてIntelのCEOとなったBob Swan氏に関する米国の記事を読んだ

Swan氏は半導体業界の王として君臨するIntel社の7代目CEOとなった人物で、2018年6月に女性問題で突然職を去ったKrzanich氏の後任として暫定CEOとしてIntelを切り盛りしてきたが、2019年1月になってようやく覚悟を決めて正式にCEOとして職に就いたという事である。

Swan氏はGE、TRW、eBayなどで経理管理職を経験していて、半導体には直接かかわったことがないが、2016年の10月にKrzanich氏にIntelのCFOとして迎えられた。Swan氏のCEO就任はプロパーの技術職がCEOに就くのが前提というIntelにあって、異例中の異例という人事である(Krzanich氏の前職のOtellini氏は営業職出身であったが、Intelでの経験は30年以上であった)。Intelを創業し世界最強の半導体企業までに育てた初代から3代までのCEOは「INTEL Trinity(三位一体)」と呼ばれ、鉄壁のチームワークと独自のスタイルでIntelを現在まで導いた業界の有名人達でもあった。

  • INTEL Trinity

    Intelの3人の創立者Noyce、Moore、GroveはそれぞれがCEOになった

そうした長い歴史を持つIntelのCEO選出の中で異色の経歴を持つSwan氏がこれからIntelをどうリードしていくかについては業界全体が注意深く見守っている。x86マイクロプロセッサを中心としたパソコン/サーバーのビジネスは今までIntelの牙城であったが、ここでは永遠のライバルAMDが勢いを増しているし、多方面からの新規参入も十分にあり得る。

CFO出身のCEOと言えば最近、呉氏から柴田氏への突然の交代劇があったルネサス エレクトロニクスもそうである。装置産業化しながら、設計、プロセス開発、生産に関わるエンジニア達なしには事業が進まない現場主義の特殊性を持つ半導体産業で経理畑出身のCEOがどのように本領を発揮するのかが期待される両社である。

他の大手企業CEO達の動向

それでは他の半導体大手のCEO達は現在、どんなチャレンジに直面していて、何を考えているのだろうか?

NVIDIA

1993年創立のNVIDIAはすでにシリコンバレーの老舗企業である。創業メンバーでもありそれ以来CEO職をバリバリにこなしているのがJensen Huang氏である。

トレードマークの革ジャンに身を包むHuang氏は今ではシリコンバレーの代表的CEOであるが、先ごろ発表した第2四半期の業績は主力のグラフィック事業の成績があまり思わしくなかった。在庫が積まれている業界全体の状況を反映しているともいえるが、Huang氏は意に介さない。

NVIDIAはAMD(ATIを買収)と双璧を成すグラフィック・プロセッサーの第一人者であるが、この10年間はグラフィック・アクセラレーターとしてのGPU製品を他分野へ活用する活動を根気強くやってきた。自動運転、深層学習、CGレンダリングなどの分野だ。この分野ではCUDAと呼ばれる独自のプログラミング環境が業界標準となりつつある。そのHuang氏を私もつい最近訪れたロサンゼルスで開催されたカンファレンス「SIGGRAPH」で見かけた。トレードマークである相変わらずの革ジャンに身を包み展示会関係者と談笑する同氏は自信に満ちていた。

  • SIGGRAPH 2019会場で来場者と語り合うNVIDIAのJensen Huang氏,AJensen Huang

AMD

今、シリコンバレーで一番元気がいい半導体企業のCEOはAMDのLisa Suではないだろうか?。AMDはTSMCとの協業により新製品をロードマップ通りに矢継ぎ早に繰り出し、最先端のプロセス技術にてこずる競合Intelを相手に市場シェアをどんどん奪っている。

BulldozerコアのCPUの開発に失敗し、かなり業績が落ち込んでいた時期にCOOとしてAMDに入社した同氏は新たなハイエンドCPUの開発を主導しAMDを現在の成功へと見事に導いた。電子技術分野で博士号を持つ同氏はTI、IBM、Freescaleという企業を経てAMDのCEOにまで上り詰めた生粋のエンジニアである。

ちなみに先ごろ、面白い話を聞いた。同氏はもともと台湾の出身で、同じ出自のNVIDIAのHuang氏とは親戚関係であるという(WebのニュースによればHuang氏はSu氏の叔父という事になっている)。

Qualcomm

CEOのSteve MallenkopfはQualcommで24年のキャリアを持つ根っからのエンジニアである。世界中のインターネットユーザーをつなぐスマートフォン業界のキーコンポーネントを支配するQualcommのCEOであるMallenkopf氏は、私が冒頭にあげた現代の世界のCEOを悩ませる諸事情から発生する下記の問題に現在まさに直面している。

  • 米中の貿易摩擦で中国への半導体製品輸出の状況に影響が出ている。
  • 独禁法違反の裁判ではカリフォルニア連邦地裁がはっきり「違反」の判決を出した。
  • 最大手顧客のAppleとは知財訴訟で和解したが、AppleはIntelから5Gモデムの開発ユニットを買収し自社開発を進める。

やはり売れっ子会社のCEOを務めるというのは大変なことである。

CEOの決意で大変身を遂げたMicrosoft

半導体ではないが、同じ業界でCEOの交代が劇的な変化を生んだ会社がある、Microsoftだ。

かつてWintelと称されハードとソフトの分業でパソコン市場を支配していたMicrosoftとIntelだが、いまだにパソコン依存問題を抱えているIntelに対し、Microsoftはその軸足を完全にクラウドに切り替えている。

Bill Gates氏そしてSteven Ballmer氏の黄金時代を2014年に引き継いだSatya Nadella氏は「CEOとしてMicrosoftの将来をクラウドに集中させる」と宣言して大ナタを振るった。

そしてそのわずか5年後の現在、Microsoftの株価は過去最高を更新し続けている。かつて絶頂期にあったMicrosoftの創始者でCEOだったBill Gates氏はビジネス雑誌のインタビューで、「あなたが一番恐れるのは何ですか?」という問いに、「世界の変化のスピードにMicrosoftの変化のスピードがついていけなくなることだ」と答えた。このCEOのDNAは若きCEOのNadella氏にもしっかり受け継がれたということであろう。

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

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