先日、「米国でレコードの売上高がCDのそれを上回った」という非常に面白い記事を読んだ。

記事によると、米国で2020年1~6月期の売上比較で1980年代以降初めてレコードがCDを上回ったという話だ。記事を読んでみるとコロナ禍とも関係があるらしい。CDの売り上げはダウンロードが当たり前の状況になって必然的に落ちていったことはわかるが、レコードの売り上げの伸びは、外出禁止で巣ごもりの年配のレコード世代が、その味のあるアナログの音源を求めて埃をかぶったレコードを引っ張り出しレコードの音に聞き入った結果だということだ。

実を言をいうと私自身もCD/レコードの収集癖があって、家の中がこれらのものでいっぱいになり、ひんしゅくをかうたびに整理することの繰り返しだ。と言っても思い出深いCD/レコードは捨てるわけにはいかず、家のどこかにスペースを見つけそこに“隠す”ことになる。

  • CD/レコード

    筆者のCD/レコードコレクションの一部。多種多様で見ていて楽しい

私はAMDの勤務時代にCPUもメモリー半導体も売った経験があるが、CPUとメモリーは切っても切れない関係にある。今回は記憶媒体についてまとめてみた。

時代とともに目まぐるしく変わる記憶媒体の形状

ここに掲げる写真は私がAMD勤務時代に手掛けた不揮発性メモリーのEPROMの広告である。容量が2メガビット(ギガではない!!)となっているから多分1990年の初めころだと思う。

「また一つ、メモリーにあたらしい歴史を刻みます:AMDの2M EPROM」と題したこの広告は過去の数ある記憶媒体の写真を並べて、最後にAMDの最新のEPROMをアピールしたものだが、読者の受けがよくその雑誌の広告賞をとったと記憶している。因みにここに並んでいる過去の記憶媒体は博物館などに実際に展示されていたものを写真に収めた結構手の込んだ制作をしたので、今眺めてみると感慨深いものがある。

  • AMDの2MビットEPROM

    AMDの2メガビットEPROMの広告 (著者所蔵イメージ)

左から順にご紹介すると、

  • 18世紀後半にJacquardというフランス人が作った織機に実装された織物の模様を記憶させるための記憶装置部分。
  • 紙テープの記憶媒体(これはテレックスなどを使ったことがある私もかすかに覚えている)。帯状の紙に穴をあける仕組み。25センチの長さで容量は1360バイト。
  • 真空管仕立てのSelectronデバイス。256ビットのデータを20msで読み込む性能。
  • 縦横に編んだ銅線の交点にフェライト磁石をかませたコアメモリー。IBMが1958年に発表したコンピューター“SAGE”にはこのコアメモリーを64ユニット搭載していた。
  • 1956年、IBM開発による2メガビット、アクセスタイム250msのハードデイスク。
  • AMDの2メガビットCMOS EPROM、アクセスタイムは100ns、真空管のSelectronとの比較で言えば、容量は8,000万本相当、アクセスタイムは20万分の一。

多分に年齢によると思うが、我々が憶えている記憶媒体の形状はVHSカセットテープ、フロッピーディスク、ミニディスクやレーザーディスクなど他にもいろいろなものがあって、コンテンツはその時代に最新と思われる記憶媒体に格納され流通していたわけだが、ほんの30年くらいでこれらがすべて整理されてしまって、今ではコンテンツの流通は主にインターネットを介して行われるている。そんな時代に大昔のアナログレコードが見直されているというニュースは非常に新鮮な驚きだった。

半導体素子のメモリーとCPUの世界でも大きな変化が

CPUとメモリーは非常に密接な関係を保ちながら現在に至っている。CPUが高速になればなるほど大容量のデータが扱えるようになり、高速アクセスの大容量メモリーデバイスがそれを支えるようにして発展した。

現在では記憶媒体はよほどの大容量のハードデイスクでない限り、多くが半導体固体素子に置き換わっている。フラッシュベースのSSDはあっという間にパソコンの主記憶装置となったし、データセンターの大容量の高速メモリーにもSSDがどんどん進出している。こうした半導体メモリーの驚異的な発展の過程で、半導体業界でも次のような大きな変化が起こった。

  • CPUなどロジックデバイスとメモリーデバイスのブランドの分離が起こった。かつてはAMD,Intelをはじめとする半導体専業メーカーはCPUもメモリーも両方手掛けていたが、IntelはDRAM・EPROMビジネスから完全に撤退してCPUに特化することで現在の地位を築いた。現在では両方を手掛けるSamsungを除いてはブランドは完全に分離している。
  • CPUはIntelを除いてはほとんどの専業メーカーがファブレスとなり、TSMCに代表されるファウンドリー会社が生産技術・キャパシティーを確保するという分業体制が確立された。現在では半導体専業メーカー以外にAppleやGoogleなどのプラットフォーマーも独自設計のCPUを開発することになった。
  • メモリー半導体の業界は集約が進みSamsung、キオクシア、Micron、Hynixなどの大規模なブランドのみが生き残った。モジュールなどのサブシステムはWesternDigitalやSeagateなどの嘗てのハードデイスクのブランドに集約されることとなった。

CDとレコードの話からかなり広く展開したコラムになってしまったが、私がこの30年くらい見る限りでもこうした変化が次々と起こったことには感慨深いものがある。アナログレコードの復活は、それ自体アナログな人間という存在のささやかな抵抗のようにも思える。