これまで政府の号令にもかかわらず遅々として進まなかった「働き方改革」の一部は、新型コロナウイルス禍によるリモートワークの奨励、対面・押印の仕事文化の見直しなどで急激に実現するようである。

新型コロナという降ってわいたような外的要因によって一気に制度改革が進んでいく状況を見ていると、一度確立された制度・システムは、その合理性にかかわらず慣れっこになってしまえば誰もが疑問を挟まないインフラとして定着してしまうことがよくわかる。しかし、新型コロナ禍のような強力な外的要因によって一旦崩れてしまうと「あれはいったいなんだったんだろう?」というくらいに根拠が希薄な場合が多い。

今、我々は日本社会で長年培われていきた仕事文化が大きく変化を遂げる分岐点にいる。充分な仕事の経験を積んだ我々自身が大変戸惑っている中で、4月から社会人として人生のスタートを切った新入社員諸君の不安には計り知れないものがあると察する。テレビのニュースでは、今年4月入社の新入社員の多くが入社後数日ですぐに自宅あるいは会社の寮での待機となったいう。新入社員研修もいきなり"リモート研修"になった。

今回は新型コロナ禍の年に新入社員となった若者へ私から捧げるエールである。もちろん、これはすでに引退した外資系半導体分野の経験者のともすると非常に偏った考えであるかもしれないことはお断りしなければならない。

ほぼ四半世紀前に作った新入社員向けアドバイス

新型コロナによる家こもりの最中に昔の資料を整理していたら、面白いものを見つけた。

「AMDで快適に仕事をするために」と題した私自身のプレゼンテーション資料のハードコピーである。日付を見ると1996年4月となっている。私がAMDに入社して10年目の頃だ。記憶ではその年、日本AMDでは日本支社創設以来初めて新卒学生を何人か採用した。その新入社員に対して10年選手の私が何やらアドバイスじみたものをプレゼンしたものである。日米では企業文化に大きな違いがあって、そこでの働き方はおのずと違ってくる。そこで、純日本人の新卒社員に対して外資系で仕事をするための心得を説いたもののようである。AMDの社歴、幹部組織などを一通り説明したうえで、外資系で働くための心得のようなものを偉そうにレクチャーしているが、その内容を見てみると当たらずとも遠からずの点もあることは興味深い。

  • 新入社員向けプレゼン

    昔の資料の中から見つかった筆者が新入社員に向けて作ったプレゼン資料 (著者所蔵)

四半世紀前、AMD新入社員に向けて伝えた「働き方」

「AMDで快適に仕事をするために」というタイトルの2ページにわたって、外資系半導体で仕事をするうえで気をつけたいことが記されているので当時のそのまま列記してみよう。

  • 「自分を磨くということを心がけよう➞この業界、最後に頼りになるのはなんたって自分」:AMDのCEOのサンダースが常々言っていた名言「自分が成長することで会社は成長する」はその後の私の生き方に大きく影響を与えた。自分の成長のために働くことで自分の価値が上がる、個人の価値の上昇は、結局は会社全体の成長につながる。その逆はない。
  • 「自分で行動しよう➞ボケーっとしていたら誰も相手にしてくれません」:40か国から集まる人材集団の中で揉まれることで実感したのは、個々の社員が皆"ぐいぐいと"事を進める積極姿勢だ。そうした多様性に富んだ状況では自己主張が生き残る秘訣である。自己主張によって相手からのフィードバックも生まれる。
  • 「変化を嫌わないようにしよう➞いちいち驚いていたらやってられない」:これはまさに真理である。変化の激しい半導体業界で50年間同じ暖簾を守っているAMDの秘密の1つは変化を自ら生み出す力である。人間は元来変化を嫌う習性をもっているが、必要な時に素早く変化できることは非常に重要な要件だと思う。
  • 「横文字アレルギーを克服しよう➞英語がわからないとヘレンケラーになってしまいます」:外資系では当たり前の英語の能力は現在では日本企業でも求められる。
  • 「思ったことは声に出して言おう➞自分から言わないと誰も聞いてくれません」:日本特有の美徳ともいわれる不言実行は外資系では通用しない。高らかに宣言したことを確実に達成する「有言確実実行」が何より高く評価される。時には「この仕事本当に必要ですか?」などと大胆な考えをシェアするのも変化を産み出す動機になる。
  • 「言われたらすぐやろう、思い立ったらすぐやろう➞この業界、非常に気が短い人が多いです」:目まぐるしく変化する半導体業界の中で、AMDでは「考えている時間があったら動け」とよく言われた。サンダース後のCEOであったヘクターがあるプレゼンで「私はスピード違反は大目に見るが、駐車違反は許さない」と言ったのを思い出す。スピードはCPUの周波数に限らない。意思決定・行動は速ければ速いほど有利である。間違った場合にはそれを素早く察知して修正すればよい。
  • 「仕事をバッチリやったら、休暇はしっかり取ろう➞長期休暇は外資の特権、周りの目は気にせずどんどん遊ぼう」:私はAMDでの勤務時代、毎年2週間の休暇を必ず取った。常に緊張状態に置かれる仕事では、オンとオフを切り替えないと結局、生産性が上がらないことを実感した。

外資系半導体での仕事のやり方が常にいいとは決して思わないが、私が25年前に新入社員に向けて発した「働き方」のアドバイスの中には、現在の日本で通用するものが多少は含まれているのではないかと思う。

  • Job Description

    外資系企業で使われる「Job Description」にはこまごまとした仕事内容の詳細が記されている (著者所蔵イメージ)

これから社会に飛び出す新入社員に向けて

半導体業界での30年の仕事人生で多くの失敗・挫折を味わった私であるので、若い人たちに向けて教訓めいた事を言いたいわけではない。

新型コロナ禍という強烈な外的要因で、当たり前のようにやってきた旧来のやり方の多くの部分が、実は不合理であったという事実を突き付けられて大きく戸惑っているのは、むしろその中にどっぷりつかってきた我々であろう。生まれた時からスマホに囲まれた純デジタル世代にとっては新型コロナ禍はこれから経験するだろう数えきれない大きな環境変化の1つに過ぎないのだろう。おじさんたちの心配は"余計なお世話"なのかもしれない。

若い人たちは既成概念にとらわれず、その柔軟な頭脳と若いパワーで新時代を築くという大きなチャンスを与えられている。

Good luck to all !!

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

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