最近、巨大プラットフォーマーたちに対する当局の追求が激しくなっている。その中で私が関心を抱いているのは個人情報保護に関する事例と、競争政策に関する事例である。そうした点から、最近、注目が集まる楽天と公正取引委員会(公取委)の競争政策をめぐるせめぎあいは非常に興味深い。

公取委と対決姿勢を見せる楽天

先週あたりから明らかになってきた公取委の楽天に対する追求と、楽天の反応の状況は次のようなことであるらしい。

  • 楽天は楽天市場に出店しているうちの1店舗で合計3980円以上を購入すれば送料を無料にするというプランを発表し、3月中旬からの実施に向けて準備を進めている。
  • 利用者にとっては送料無料の措置は歓迎すべきものであるが、実際の送料を支払うのは店舗側で、人手不足で宅配コストなどが上昇する状況での店舗側の負担上昇になる。
  • 楽天の出店店舗で組織された楽天ユニオンはこれに抵抗していて、成り行きに注目していた公取委は「独禁法違反のおそれ」と楽天に通知していたことが明らかになった。
  • これに対し楽天の三木谷社長はプランの実施を予定通り進めることを宣言、店舗への通知も行った。これを受けて公取委は楽天に立ち入り検査に踏み切った。楽天は「調査には全面的に協力するがプランは変えない」と全面対決の姿勢である。
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    パソコン・スマートフォンで手軽にほとんどのものが買える時代 (C)パンダの中のパンダ/写真AC

私はテレビのニュースで三木谷社長の発言を見たが、どうもこの背景には日本の市場でも着実にシェアを伸ばすAmazonとの競争の激化が関係しているらしい。三木谷氏が強調したのは「楽天とともに戦ってほしい」と言う店舗へのメッセージである。「ともに戦う」相手がAmazonであるのは明らかである。最新鋭の巨大配送センターを自前で運営するAmazonとWebでの店舗展開のみで配送・在庫などのロジスティックを店舗側に頼る楽天とではビジネスモデルが異なっているが、Webでの小売業者であることでは同じである。従来よりAmazonは「2000円以上の買い物で送料無料」をうたっており、利用者にとっては魅力的である。

楽天が店舗側に訴えているのは「このままでは楽天もろともすべての店舗がAmazonに飲み込まれていしまう」という危惧である。もっとも、公取委はAmazonが「ユーザーに対するポイントの還元」を店舗側に強要したということで「独占的地位の濫用」を問題視しAmazonにも調査を行っており。この件についてはAmazonがポイント還元は店舗側の自由意思という条件に変更することで決着した経緯がある。

独占的地位の濫用で排除勧告を受けたIntel

公取委がこうした巨大企業を相手にそのビジネス慣行についての調査をし、「問題あり」と判断して勧告を行う場合のベースとなっているのは「独占禁止法」と言う法律である。この法律は市場での自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に経済活動ができることを保証するためのものである。自由競争が正しく機能していれば、事業者は自らの創意工夫によってより安くて優れた商品を提供できる。このことによって消費者の利益が確保される。

また「独占禁止法」の補完法として下請け業者への不当な取り扱いを規制する「下請法」と言うのもある。これらの法律に基づいて実際のビジネス慣行をチェックするのが「競争政策」である。

かつて日本市場でIntelが競合のAMDやTransmetaに対して行ったビジネス慣行について公取委が立ち入り調査を含める調査を行い、結果的にIntelが問題のあるビジネスを展開したという判断をしIntelに対して「排除勧告」を行ったことがあった。「排除勧告」とは問題のあるビジネス慣行を排除するという行政処分の一種である。これに企業側が従わなかった場合は企業は国を相手とする裁判で審判されることになる。被害にあったAMD側の一員として公取委の調査に協力した私はいろいろな調査資料を見る機会があったので、K6/K7で躍進するAMDの勢いを止めようとIntelが行った幾多の所業について知ることとなったが、これには今でも憤りを感じている。基本的にIntelが行ったことは以下の事である。

  • Intelの顧客である日本のパソコンメーカーに対しAMDのCPUを使用しないように圧力をかけた。極端なケースではAMDのCPUの使用停止を条件に多額の資金を提供した。
  • パソコンを売る電機量販店に対しAMDのCPUを使用したパソコンを売らないように同様の圧力をかけその見返りに資金提供をした。
  • この結果一般消費者は廉価で性能の良いAMDのCPUを使用したパソコンが買えなくなった。

今から思うと信じられないような話だが、実際に公取委は2004年のある晴れた日に突然Intelのオフィスに「強制調査」(いわゆる"がさ入れ"である)を行い、その翌年の2005年にIntelに対し問題のあるビジネス慣行を停止させる排除勧告を行い、Intelはこれに同意した。

AMDはこれをベースにIntelを相手取って損害賠償を求める民事訴訟を起こした。しかしこの訴訟は公判が始まる直前でIntelとAMDの間に和解が成立し、AMDは12憶5000万ドル(当時の換算レートで約1500憶円)の賠償金を受け取った、と言うのが顛末であるがこの辺の事情は当時のテレビ・新聞などにも大きく取り上げられた。独占企業への当局の行政介入という点では比較的古典的なケースとも言えよう。

参考:巨人Intelに挑め! – 最終章:インテルとの法廷闘争、その裏側 第1回 「序章:2014年の奇妙な記事」

影響力を増す巨大プラットフォーマーたちと当局のせめぎあい

今回の楽天と公取委の対決のケースは巨大プラットフォーマーの出現による市場での大きな変化を如実に語っている。昨年来の報道を見ていると世界中の当局がGAFAに対する包囲網を形成しつつあることが見て取れる。

個人情報の保護を厳格に監視しようとするヨーロッパのGDPR(個人情報保護委員会)の発足を皮切りに、昨年、米国議会はFacebookに対し公聴会を開いて事情聴取をした結果、仮想通貨「Libra」のサービス開始は延期された。最近の報道では日本の公取委にあたる米連邦取引委員会(FTC)がGoogleをはじめとする主要5社に対して小規模企業の過去の買収(M&A)について調査に乗り出したことが明らかになった。当局が懸念しているのは強引なM&Aで小規模企業が姿を消すという事だけでなく、優秀な人材を根こそぎリクルートしてしまうGAFAの人材獲得のやり方であるという。

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    Amazonは世界中の家庭に入り込んでいる

中小企業は日本企業の99.7%を占め、雇用の76.8%を担う圧倒的多数の存在である。これらの企業の中にはWeb販売などのノウハウを持たないが世界に誇れる商品、技術、サービスを持つものも多い。楽天の三木谷社長のアピールの真意は「こうした中小企業と連帯してAmazonの脅威から日本を守ろう」と言うようにも聞こえるが、これから公取委はどうした観点でもってどうした判断を下すのかは非常に興味深い問題であり、今後の展開を見守る必要がある。

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

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