いよいよ新年(2020年)が始動した。動きを加速する電子業界に身を置く読者の皆様も一時の休息をとられたとお察しする。しかし、新年の幕開けは年末の日産のゴーン元会長の国外逃亡のニュースを始め、米国とイランの高まる緊張、北朝鮮の不気味な動きと激動の一年を予感させる気配である。言葉通り「おめでとうございます」という単純な言い方は通用しないような雰囲気がある。

電子業界で存在感を増す自動車産業

おせちをお屠蘇と一緒にいただきながらさて新聞でも読みましょうかとページを何となくめくっていると、今年の正月のセンター30段広告はトヨタであった。年末からの日産元会長のアクション映画のような脱出劇の報道の最中だったのでかなり目立ったのではないだろうか?

多額の費用を投下したと思われるその広告は「トヨタイムズ-トヨタは、どこへ向かうのか。」と題し、自動運転に大きく舵を切るトヨタをアピールしている。ビジュアルはトヨタが提唱する自動運転車の「e-Pallete」が首都高速を走り、空にはホバーボードらしきものが飛んでいる。今となってはかなり普及した感があるコネクテッド・シティの概念未来図である。しかし19世紀後半から普及しだし文字通り経済成長のエンジンとして登場した内燃機関の次を担う"エンジン"の方式の確定については自動車産業はまだまだ産みの苦しみの最中である。

EV(Electric Vehicle:電気自動車)を始めとして、NEV(New Energy Vehicle)、PHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)、HV(ハイブリッド車)などのいくつかの方式が乱立する今日では、どの方式に将来投資を集中させるかの判断は非常に難しい。

2019年、EV市場で世界をリードした中国市場は政府補助金の削減で突如失速した。中国では"EVバブル"とも言われるくらい撤退をし始める企業も出た。昨年の初めくらいまではかなり積極的であった英国のDysonなども静かに撤退を表明した。それらの動きと対照的に先行するTeslaは中国工場への投資を増額した。各社とも独自の動きを見せるが、EVの本格的普及に必要なインフラはそう簡単に整備できるものではない。

トヨタの広告で私の目を引いたのは、広告文の最後で「話の続きはCESで、ところでCESって何?」と締めくくっている部分である。毎年ラスベガスで開催されるCES(Consumer Electronics Show)は電子業界では台湾のComputexと並ぶ注目のイベントであるが、この数年、一気にAIや自動車関連の話題がイベントの目玉となってきた。とはいえ、自動車業界全体で見ればまだまだ一部の人にしか知られていないだろうし、ましてや一般の新聞の読者には全く無縁のものであろう。電子と自動車業界間の相互関係がますます強くなり、デジタル技術が一般消費者の世界に深く入り込んでいる証拠である。ところでトヨタはCESで何を発表するのだろうか。このコラムを書いている現在はわからない。まさに7日以降「乞うご期待乞うご期待である」。

  • トヨタイムズ

    正月の新聞センタースプレッドの広告はトヨタ (著者撮影)

加速するAI/ビッグデータ活用

新聞に一通り目を通したあと、さてテレビでも見てみようかと番組欄のページを探していると(正月は番組欄は別冊になっている)いきなりNetflixの広告が目に入ってきた。私は元来バラエティー番組が氾濫するテレビ番組にはあまり興味がないが、他にすることもないので何か古い映画でもやってないかと期待してめくったページの最初に出てきたのがこの広告である。

番組表のページを破るような大胆なデザインの真ん中に大きく「Netflixでも行く?」と言うパンチのある挑戦的なコピーである。昨年は既存のストリーミング配信映画の競合Amazonに加えて、Appleとディズニーといった大御所も市場参入し低価格な料金で観たい放題のプランを発表し、映画のストリーム配信というビジネスモデルは次の段階に移った。この強敵の出現でNetflixの株価は非常に不安定である。なんといってもNetflixの強みは視聴者のトレンドの先読みをを可能とする個人データの分析力だ。Netflixが分析している個人データはありきたりの男女、年齢、居住地域などではない。個々の視聴者がどのようなシチュエーションでどんなことが起こることを期待するか、どんなシーンをどれだけ長く観るか、どんなデバイスで観るかなどの視聴者の個々人の嗜好性を集めた膨大なデータセットをAIで分析し属性を割り出し、次に来るトレンドを予測する手法である。こうした手法にハリウッドは強く反発する。

もう1つの強みは映画製作に年間50憶ドル以上の費用をかける積極的な制作姿勢である。日本でも独自制作のコンテンツを次々と繰り出し多くの支持を得ている。テレビの正月番組がどのチャネルを観ても同じような内容であるのとは対照的である。今年は米国映画製作のメッカであるハリウッドをバックに映画のストリーム配信をするディズニーとAppleが本格参入することで、このビジネスモデルはまさにコンテンツの体力勝負になる。デジタルビジネスの宿命であろうが、結局得をするのはエンドユーザーであることは間違いない。先行投資で図抜けたブランド力とノウハウを持つNetflixが今年はどんな手法で競合に対抗するのかには非常に興味をそそられる。

  • Netflix

    正月のテレビ番組欄の最初のページに現れたNetflixの広告 (著者撮影)

変化する環境をマクロで見つめる

たまには英字紙でも眺めてみましょうかとページをめくるとニューヨーク・タイムズ紙の地味な広告が目に入った。「Whatever happens next, we will help you make sense of it(次に何の事件が起ころうとも我々はきちんと解説します)」というコピーには米国メジャー誌の固い決意が感じられる。

SNSの登場と急速な普及で既存メディア受難の時代といわれる現代で、ニューヨーク・タイムズは近年急激に発行部数を伸ばしている。自身のツイッター以外は全て「フェイクニュース」と切って捨てるトランプ大統領のおひざ元でホワイトハウスの意向に左右されず、ジャーナリズムの王道を貫こうとする彼らの決意は大変に硬いものがあると見受けられる。SNSは現場密着型のリアルタイムでミクロな情報源として大きな価値があるが、メジャーな事件が多発するグローバルな環境で「この事件にはいったいどういう意味があるんだろう?」といった疑問に答えてくれるプロのジャーナリストの目が持つ価値は増々重要となるのではないか。

  • ニューヨーク・タイムズ

    英字紙に掲載されたニューヨーク・タイムズの広告 (著者撮影)

今年も加速的に変化を続ける業界をウォッチして、多少なりとも読む価値のあるコラムとして行きますので何卒よろしくお願いいたします。

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

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