前回は、Web会議での顔出しに活用できるフェイスフィルターを取り上げましたが、Web会議での悩みの種はカメラ映りだけではありません。自宅から会議に参加している場合、同居する家族の生活音や外の騒音をマイクが拾ってしまうことがよくあります。また、自分の側は問題なくても、別の参加者のノイズがうるさくて声が聞き取りづらいこともあるでしょう。そこで今回は、そんなWeb会議におけるノイズの悩みを解消してくれるアプリ「Krisp」を紹介します。
深層学習を利用したノイズキャンセルアプリ「Krisp」
「Krisp」は、Krisp Technologiesによって提供されている、ソフトウェア技術によってWeb会議や音声チャットのノイズキャンセルを実現するアプリケーションです。特別な機材を必要とせず、ソフトウェアだけでノイズを軽減することができます。macOS版とWindows版が提供されており、ZoomやMS Teams、Google Meetなどをはじめとするさまざまなアプリに対応しています。
ノイズキャンセルの精度はかなり高く、掃除機の音やテレビの音、キーボードのタイプ音など、自分の声以外の雑音をきれいに消してくれます。自分側の雑音だけでなく、相手の雑音もスピーカーやイヤホンに出力する段階で消去してくれるので、雑音がうるさくて声が聞き取りづらいといったことも回避できます。
Krispの料金プランには、「Personal」、「Personal Pro」、「Teams」、「Enterprise」の4種類が用意されており、これらのうちPersonalとPersona; Proは個人向け、Teamsは最大50人までのチーム利用向け、そしてEnterprizeはコールセンターなどのより大規模で導入する場合の向けたプランとなっています。Enterprize以外のプランの詳細は次のとおりです。
Personalは、マイクとスピーカーのノイズキャンセルの利用がそれぞれ週当たり120分までに限定されている代わりに、無料で利用することができます。Personal ProとTeamsは有料ですが、利用時間の制限はありません。この料金プラン表は、言語設定を英語にして見れば問題ないのですが、日本語版には上のように若干の誤りがあります。また、提示されている金額は年間契約した場合の月額料金で、月間契約の場合は料金が異なるので注意が必要です。
PersinalプランとPersonal Proプランは、時間制限と録音のストレージ容量のほかに機能的な違いはないので、週1~2回のWeb会議であれば無料のPersonalプランでも十分足りるのではないでしょうか。
Krispのインストールの方法
本稿では、macOS版を例にしてKrispの使い方を紹介します。Krispをインストールして起動すると、次のようにタスクバーにアイコンが表示されます。なお、Windows版の場合はタスクトレイに常駐するようになります。
アイコンをクリックすると次のようなポップアップが表示されるので、[Get Started]ボタンを押します。
Webブラウザが起動して、次のようにKrispサービスへのログインが求められます。この時点ではユーザー情報などの設定は不要で、メールアドレスを登録するだけで利用できます。Googleアカウントなどでログインすることもできます。
メールアドレスを登録すると、次のような6桁の認証コードを入力する画面が表示sあれます。登録したメールアドレス向けに認証コードが送られてくるので、それをここに入力します。
Krispのユーザー認証は、このようにメールアドレスの入力→コードによる認証という手順が基本となり、パスワードの登録は必要ありません。
コード認証に成功すると、アプリ側では次のように連携するアプリを選択するダイアログが表示されます。
利用したいWeb会議アプリを1つ選択すれば、次のように設定方法を解説するビデオが再生されます。ちなみに、このダイアログで実際の設定が行われるわけではないので、選んだ以外のWeb会議アプリも問題なく使うことができます。
Web会議アプリ側の設定方法
ビデオの説明にしたがってWeb会議アプリ側の設定を行いましょう。例えば、Zoomの場合、オーディオ設定でSpeakerとMicrophoneでそれぞれ「krisp speaker」または「krisp microphone」が選択するだけでOKです。自分の音声にノイズキャンセルを適用したい場合はMicrophoneに「krisp microphone」を、相手の音声にノイズキャンセルを適用したい場合にはSpeakerに「krisp speaker」を設定しましょう。もちろん、両方ともkrispにすることもできます。
Microsoft Teamsの場合もほぼ同様で、Web会議の「コンピュータの音声」の設定で、次のようにスピーカーとマイクに「krisp speaker」または「krisp microphone」を選択します。
Google Meetの場合は、Web会議を開始した上で、設定メニューからマイクとスピーカーを選択できます。
Krispの基本的な使い方
Web会議アプリ側の設定ができたら、Krispアプリに戻って[次へ]ボタンをクリックしましょう。次のように表示されたら設定完了です。[Got it]をクリックするとアプリが起動します。
KrispがWeb会議アプリと無事に接続できていれば、タスクバーのアイコンには緑のチェックマークのバッジが表示されるようになります。この状態でアイコンをクリックすると、次のようなポップアップが表示さなポップアップが表示されます。
矢印の部分に、現在接続しているWeb会議アプリが表示されています。実際に利用するマイクおよびスピーカーのデバイスは赤枠の部分で変更できます。マイク、スピーカーともに、[Remove Noise]のスイッチでノイズキャンセル機能の有効/無効を切り替えることが可能です。
マイクのところに表示されている「ノイズミュートをテスト」をクリックすると、ノイズキャンセル機能の動作を確認することができます。次のようなダイアログが表示されるので、[録音開始]をクリックして15秒間の音声を録音してください。わざとノイズを混ぜて録音するのがいいでしょう。
録音が完了すると、次の画面に切り替わって、いま録音した音声が再生されます。オリジナルの音声と、ノイズキャンセルを有効にした場合の音声を聴き比べてみましょう。
さて、Krispを接続した状態でWeb会議アプリを開始すると、次のような小さなウィンドウが表示されます。タスクバーのアイコンだけでなく、このウィンドウからもノイズキャンセルの有効/無効を切り替えることができます。
Web会議の録音もできる
Krispにはノイズキャンセルだけでなく、録音機能も付属しています。録音は、タスクバーアイコンのポップアップから、赤い[Start recording]ボタンをクリックすることで開始できます。
録音を開始しようとすると、次のような警告文が表示されます。内容は、録音する旨を参加者全員に告知するように、録音した音声を公開する場合には参加者の同意を取るように、そして録音はクラウド上にセキュアに保存される、という確認です。[I Understand]ボタンをクリックすると録音が開始されます。
録音の停止も、タスクバーアイコンのポップアップから行えます。録音した音声ファイルは、警告にあったようにクラウド上に保管されます。録音を停止すると、Webブラウザで次のように音声ファイルが保存されたオンラインストレージが表示され、ここからファイルのダウンロードや削除、公開範囲の設定などを行えるようになっています。デフォルトの公開設定は「Private」(非公開)です。
過去に録音したファイルを参照したい場合は、タスクバーアイコンのポップアップで右上の三点アイコンをクリックして、メニューから「My recordings」を選択します。
Webブラウザでクラウドストレージが表示され、これまでに録音した音声ファイルの一覧を確認することができます。
なお、まだベータ版ではありますが、バーチャル背景の機能も提供されています。バーチャル背景が利用できないWeb会議アプリでも、これを使えば背景を隠すことができます。例えば、本連載で紹介したSpatialChatなどでもバーチャル背景が使えるようになるわけです。!-- Original end --> しかし、残念ながら筆者の環境ではデバイスの性能が足りず、利用できませんでした。
手軽に導入できて満足な効果
Krispの最大の魅力は、性能のいいマイクやスピーカーなどを買わなくても、ソフトウェアをインストールするだけで手軽に導入できる点です。Web会議アプリ側からは仮想マイク・仮想スピーカーとして認識されるだけなので、多くのアプリに対応できるのも嬉しい点です。それでいて、ノイズキャンセルの効果は抜群で、日常的に発生する主要な雑音は綺麗にカットしてくれます。
個人的に特に効果を感じるのは、キーボードの打鍵音もノイズとして取り除いてくれることです。Web会議中は自分のキーボードの打鍵音が相手に聞こえてしまっていないか気を遣うものですが、こればかりは使わないわけにもいかず悩みの種でした。Krispを導入してからはそのような心配が減り、かなりのストレス軽減になっています。まずは無料プランで、ノイズ無しのWeb会議を体験してみてはいかがでしょうか。