前回はインターネット利用の安全性を高める有力な方法であるVPNについて、その概要や主な利用形態などを紹介しました。今回は、個人で簡単に導入することができる個人向けのVPNサービスをもう少し詳しく説明します。

個人で契約できるVPNサービスにはさまざまなものがありますが、正しく選ばなければかえってセキュリティリスクを高めてしまったり、通信速度を落としてしまったりすることにもなりかねません。そこで本稿で、個人向けVPNサービスを選ぶ上での注意点やチェックするべきポイントについて解説します。

VPNサービスの主な利用シーンとメリット

まず改めて確認しておきますが、ここで取り上げる個人向けのVPNサービスは、オフィスと自宅のような2つの拠点間をVPNでつなぐものではありません。あくまでも、自分のPCやスマートフォンなどの端末と、サービス事業者が提供するVPNサーバとの間の通信を暗号化するためのものです。したがって、VPNサービスを使ったからといって、通信内容を完全に秘匿できるというわけではありません。

  • VPN接続サービスの利用イメージ

    VPNサービスの利用イメージ

VPNサービスを利用するメリットとしては、次のようなものが挙げられます。

  • ホテルやカフェなどが提供する公衆Wi-Fiを安全に利用できる
  • 発信元のIPアドレスがVPNサーバのものに書き換わるため、情報発信やWebサイト閲覧の安全性が高まる
  • 外国政府などの検閲用ファイアウォールを回避できる

この中で、リモートワークに最も関わりがあるのは公衆Wi-Fi利用の安全性に関する項目でしょう。公衆Wi-Fiを利用するリスクについては第14回で解説しましたが、VPNサービスを利用することで第三者による盗聴などのリスクを取り除くことができます。

IPアドレスの変換は、一般的な情報発信やWebサイトの閲覧の際に大きく関わるメリットです。IP アドレス自体は個人情報にあたりませんが、長期間にわたって特定のIPアドレスの通信ログを記録・解析することで、個人のインターネット上での行動が調査できてしまう可能性があります。VPNサービスを利用した場合、VPNサーバを通過した時点でIPアドレスが別のものに置き換わるため、元のIPアドレスを隠蔽することができます。

3番目の検閲は、通常のインターネット利用にはあまり関係ありません。中国などの一部の国では、政府機関がインターネット通信網に対して検閲用のファイアウォールを設置しており、通信内容を厳しく検査・制限しています。海外出張の際などには、このような検閲を回避するためにVPNが役立つことがあります。

VPNサービスを選ぶ際に何を確認するべきか

それでは、実際にVPNサービスを選ぶ上で確認しておくべきポイントについて見ていきましょう。

サービス提供事業者の信頼度

セキュリティに関わることなので、サービスを提供している事業者が信頼できるのかどうかは重要な項目のひとつです。信頼度を見極めるには、その事業者の知名度だけでなく、提示しているプライバシーポリシーや、それをどのように履行しているかなどをよく調べる必要があります。事業者によっては、第三者機関による監査の結果を公開しているので、それを調べるのもいいでしょう。また、他のユーザーからのレビューや、検証サイトによる評価も参考になります。ただし、広告費を受け取って好意的なレビューを書く、いわゆるステルスマーケティングには注意しましょう。

VPNサービスの中には、無料のもの、極端に価格が安いものもあります。しかし、そのようなサービスには裏があるかもしれません。実際、海外の格安VPNサービスでは、暗号化が正しく行われていなかったり、ユーザーの行動ログを無断で記録して第三者に販売していたりするケースも発見されており、警戒が必要です。

通信速度への影響

VPNを利用する場合、通信の際に暗号化や認証といった手続きが行われる分だけ、どうしても通信速度が低下します。また、VPNサーバの性能不足によって通信が遅延するというケースも見られます。そのため、通信速度への影響をどのように抑えるかは、VPNサービス事業者の課題のひとつとなっています。

とはいえユーザーからすれば、どの程度の速度低下が起こるのかは実際に使ってみなければ分かりません。VPNサービスによっては、利用開始後の返金保証期間が設けられているので、それをうまく利用して実際の通信速度を測定し、実用上問題がないかを確認することをお勧めします。

  • VPN利用を利用した場合の速度比較の例

    VPN利用を利用した場合の速度比較の例

活動ログを保持していないかどうか(ノーログポリシー)

たとえ通信の内容が暗号化されていたとしても、VPNサービス事業者自身がユーザーの通信記録や接続記録を保存している場合、それが第三者に漏洩するリスクを負うことになります。そのようなことがないように、一般的にVPNサービスの事業者には、ユーザーの活動ログを記録しないことが求められます。そのようなポリシーを「ノーログポリシー」と呼びます。

VPNサービスを選ぶ際は、ノーログポリシーを明確に宣言している事業者を選ぶことをお勧めします。可能な限りそのポリシーの内容も確認したほうがいいでしょう。通信のログは残していなかったとしても、製品品質向上のためにアプリの利用状況などを記録していることもあるからです。どの程度のログ記録を許容するかによって、選べるVPNサービスの幅も変わってくるでしょう。

接続のしやすさ

VPNサービスの多くは、PCやスマートフォンに専用のアプリをインストールして、アプリ内からVPN接続のオン/オフを切り替える形で利用するスタイルを採用しています。アプリによっては、接続するサーバの選択や、使用するプロトコルなどの細かな設定が行えます。せっかくVPNサービスを契約していても、設定や接続方法が煩雑だと面倒になって使わなくなってしまうことがあるので、アプリの使い勝手の良さもサービスを選ぶ上での重要なポイントになるでしょう。

  • 専用アプリによるVPNサービスへの接続

    専用アプリによるVPNサービスへの接続

  • 使用するプロトコルを選べる

    使用するプロトコルを選べる

キルスイッチの有無

VPNはさまざまな原因でしばしば接続が不安定になったり、切断されたりすることがあります。VPN接続が切れると、端末のネットワークは通常のWi-Fi接続に切り替わります。もし、VPN接続が切断されていることにう気づかなかった場合、その端末は危険にさらされた状態に逆戻りしてしまいます。これを避けるために、VPNサービス側で「キルスイッチ」と呼ばれる機能が提供されていることがあります。

キルスイッチは、VPN接続が切れた際に、端末のインターネット接続自体を強制的に切断するものです。キルスイッチを有効にしておけば、VPN接続が無効になった時にすぐに気づくことができるので、リスクを最小限に抑えるという意味で重要な機能です。

  • キルスイッチの設定例

    キルスイッチの設定例

対応デバイスの種類や同時に接続できるデバイス数

ほとんどのVPNサービスが、WindowsやmacOSなどのPCだけでなく、iPhoneやAndroidでの接続にも対応しています。加えて、最近ではスマートスピーカーやスマート家電での接続に対応するサービスも増えてきました。外出先だけでなく自宅などでもVPNサービスを利用したい場合は、対応するデバイスの種類や、同時に何台まで接続が可能なのかについても確認しておく必要があります。

サーバ数や展開国数

VPNサービス事業者は海外の企業も多くありますが、日本で利用する場合には日本国内にどの程度のサーバ(接続拠点)を持っているのかが重要になります。サーバの台数が多く、かつその設置地域が分散しているほど、サーバの混雑やネットワークトラブルの影響を受けにくいことになるからです。また、もし海外出張時の利用も想定している場合には、出張先の国にサーバが展開されているのかも確認しておくといいでしょう。

価格体系

VPNサービスの利用料金は事業者によってさまざまですが、多くの場合はサブスクリプション形式が採用されています。長期契約にすることで大幅にディスカウントされることもあるので、自身の利用頻度や利用期間などに合わせて選ぶのがいいでしょう。中には無料だったり極端に安いサービスもありますが、セキュリティ関連のサービスに関しては料金よりも信頼性のほうが大切であることをよく留意しておきましょう。

まとめ

最近ではホテルやレストラン、公共の施設などがWi-Fi接続を提供するのも当たり前になってきています。それに呼応する形でVPNサービスを提供する事業者も増えており、個人でも比較的安価に利用できるようになってきました。

日本国内から利用可能で、比較的評判が良く安心して利用できると言われているVPNサービスとしては、次のようなものが挙げられます。

  • ExpressVPN
  • Surfshark
  • NordVPN
  • CyberGhost VPN
  • VPN Unlimited
  • Private Internet Access
  • IPVanish

そのほか、実験的なプロジェクトとして筑波大学が提供している無料のVPNサービスもあります。自己責任での利用にはなりますが、まずは無料でVPN接続を試してみたいという目的であれば十分に活用できると思います。

いずれのVPNサービスも、使い勝手や通信速度への影響、料金体系などがそれぞれ少しずつ異なるので、本稿を参考にして、自分の利用形態に合ったサービスを選ぶといいでしょう。