千葉大会で室屋義秀選手が2年連続優勝し、注目を集めたレッドブルエアレース。その年間8戦の最終戦となるインディアナポリス大会が10月14日・15日(日本時間15日・16日未明)に開催され、室屋選手は見事優勝。そして年間ポイントでもトップになり、日本人初の年間チャンピオンに輝いた。

涙と絶叫の表彰式、佐藤琢磨選手も祝福

表彰式はまずインディアナポリス大会の上位3名が表彰台に上り、次に年間総合上位3名の表彰となった。その両方で1位となった室屋選手は、国歌吹奏では目に涙を浮かべ、トロフィーを受け取ると何度も雄叫びを上げた。

まずインディアナポリス大会の表彰式。室屋選手(中央)を、昨年王者でエアレース同期のドルダラー選手(左)が祝福した。フアン・ベラルデ選手(スペイン)は今季2回目の表彰台

続く年間ランキングの表彰式でもチャンピオンに輝いた室屋選手。最後まで首位を争ったマルティン・ソンカ選手(青い服、チェコ)と、室屋選手と同期のピート・マクロード選手(白赤の服、カナダ)とシャンパンで祝った

遠く日本から家族で応援に駆け付けたファンの姿も。室屋選手だけでなく「2009年組」を応援するファンも、同期組の活躍に大満足

記者会見にはインディ500の優勝者、佐藤琢磨選手が乱入。「私はメディアではないのですが」と前置きして笑いを誘ったが、メディアも皆「インディ500の英雄」であることは承知している。ここで佐藤選手は室屋選手に、地元福島への思いを質問した。

佐藤選手「室屋選手のホームタウンは、地震と津波に襲われ、今も10万3000人以上が仮設住宅で暮らす福島ですね。福島のたくさんの方々が応援していることをどう感じていますか」

メディアに混ざって質問に立った佐藤琢磨選手。「インディの英雄」の登場に、メディアやスタッフも笑顔

室屋選手「私は原子力発電所の事故と津波で被害を受けた福島に住んでいます。福島は力強く復興しています。私は大した力になれていないかもしれませんが、福島の皆さんからは強いサポートをいただくことでチャンピオンになれました。私ができることは、こうして世界の人に今の福島を伝えることです」

質問に答える室屋選手。チャンピオンの喜びとともに、地元福島と日本のファンへの感謝を語った

また、2軍にあたる「チャレンジャークラス」は女性唯一のレッドブルエアレースパイロット、メラニー・アストル選手(フランス)が参戦2年目で初優勝した。また同クラスの年間チャンピオンはフロリアン・バーガー選手(ドイツ)。ピーター・ポドランセック選手(スロベニア)の引退でマスタークラスには少なくとも1人の空きができており、来年のマスタークラス昇格も期待される。

「チャレンジャークラス」年間チャンピオンのフロリアン・バーガー選手(左)と、インディアナポリス大会優勝のメラニー・アストル選手(右) (c)RedBull Content Pool

モータースポーツの聖地、オーバルコースで勝者の儀式

続いて、インディアナポリス大会で優勝した室屋選手とアストル選手はオーバルコース(周回コース)のスタート・ゴールライン上へ移動。この競技場の恒例儀式である「レンガへのキス」を披露した。まずアストル選手がキス、次いで室屋選手が愛機をバックにキスして優勝の喜びを再度爆発させた。さらに今年インディ500で優勝した「キスの先輩」、佐藤琢磨選手がコースに現れ、室屋選手と2人同時キスという夢の競演を見せた。

まずチャレンジャークラスの優勝者、メラニー・アストル選手(フランス)がスタート・ゴールラインのレンガにキス

メディアの前で喜びの踊りを披露したアストル選手

続いて室屋選手がレンガにキス。「帽子のつばが邪魔だなあ」

帽子を取って改めてキス。「ここ、メラニー(アストル選手)がキスしたところかな?」

佐藤琢磨選手に「帽子じゃまだよね?」「後ろ向きにかぶればいいんだよ」「あ、そうか」と世界の頂点の会話

室屋選手を後ろから。多くのメディアや関係者が詰めかけた (c)RedBull Content Pool

「福島は死んでいない」室屋選手を支えた地元への思い

表彰式後、室屋選手は日本メディアのインタビューを受けてくれた。筆者は佐藤琢磨選手に問われて答えた福島への思いを改めて、日本語で室屋選手に聞いてみた(佐藤選手との質疑は英語)。

インタビューに答える室屋選手。これまでの道のりと今回の戦い、そしてこれからについて終始明るく語った

「福島のアンバサダー(大使)もしていて、現状を正しく世界に伝えることが大事だと思っています。世界の人からはたぶん、福島は死んだ土地だと思われているんですよ。放射能がある地域があるのは事実だけれど、無駄に恐れる必要はありません。エアレースを福島で開催できれば、世界が驚くのではないでしょうか。世界から人が来るし、放送もされると、意外と大丈夫なんだということになるわけですよね。また、福島では子供向けの航空教室を開催したり、県と協力して航空産業集積の取り組みもしています。復興から新しいステージに入るところなので、未来の航空産業に向けて入口を作るのが我々の大きな仕事だと思っています」

室屋選手は千葉大会のインタビューでも「8戦全部日本でやりたいくらいだが、あと1戦できるなら福島でやりたい」と、地元への思いを語っている。そして今回も、自分から原発事故と放射能の問題に触れ、それを乗り越える助けになるためにもレッドブルエアレース・福島大会の開催に情熱を傾けている。もちろん千葉大会の継続もだ(来年の開催地はまだ発表されていない)。

2018年へ、そして千葉へ「頂いた恩を多くの人に返したい」

「やっぱり生で見てもらいたい。機械が飛んでいるのではなく、そこには僕らのような人間がいてドラマがある。だから日本(千葉)での開催も続けてほしいと思います。それには多くのファンの声が必要ですし、これからもっといろんな人に知ってもらいたいと思います。僕は仕事をしたので、(エアレースの報道はメディアに)お任せしますね(笑)」

また室屋選手は帰国後の報告会でもこのように語った。

「26年間、多くの方にお世話になりました。その方々に恩返しがしたいのですが、皆さん『返してほしくて手伝ったのではない』とおっしゃいます。皆さんからいただいた恩を、多くの方に返していきたい」

東京で帰国報告する室屋選手。26年間のパイロット人生は、次のステップへ踏み出した

ついに大きく花開いた室屋選手のエアレース人生。そのチャレンジの先にあるものは連続チャンピオンだけではなく、日本の子供たちや福島の未来に大きく広がっているようだ。